104 冒険者ギルド
俺たち五人は冒険者ギルドへ向かっていた。
昨日の戦いが嘘のような穏やかな朝だった。
道を歩いていると、不意に真紀さんが口を開く。
「そろそろ私たちも住む家を探さないといけないわね」
「いつまでも佐伯さんたちに迷惑をかけるわけにもいかないし」
その言葉に漣も頷いた。
「そうだな」
だが、その表情はどこか浮かない。
俺は首を傾げた。
「なんだ?」
「出ていきたいのか?」
そう尋ねると、真紀さんは慌てて首を振る。
「違うわよ!」
「そういう意味じゃないわ」
少し俯く。
「ただ……」
「私たち、この世界に来てからずっと助けてもらってばかりだったじゃない」
「だから、いつまでも甘えていていいのかなって……」
その声は少し弱かった。
俺は思わず苦笑する。
そんなことを気にしていたのか。
「俺たち、一緒にこの世界へ来た仲間だろ?」
「何を遠慮することがあるんだ?」
真紀さんが顔を上げた。
俺は続ける。
「働きたいなら働けばいい」
「店を手伝いたいなら茉奈と一緒に店番してもいい」
「冒険者を続けたいなら続ければいい」
「やりたいことが出来て出ていくなら話は別だけどな」
すると真紀の目が少し潤んだ。
「本当に……一緒にいていいの?」
その声はどこか不安そうだった。
だが、その問いに答えたのは俺ではなかった。
「当たり前でしょ?」
雪乃さんが優しく微笑む。
続いて茉奈も笑顔を見せた。
「真紀お姉ちゃんが一緒なら、私嬉しいな」
その言葉を聞いた瞬間。
真紀さんの目から涙がこぼれた。
「嬉しい……」
小さく呟く。
すると漣が頭を掻いた。
「こういう時はさ」
「嬉しいじゃなくて、ありがとうだろ?」
そして俺たちへ向かって頭を下げる。
「佐伯さん」
「雪乃さん」
「茉奈ちゃん」
「ありがとう」
真紀さんも慌てて頭を下げた。
俺は苦笑する。
「よせよ」
「この前の戦いで助けられたのは俺たちの方だ」
「漣と真紀さんが一緒にいてくれるなら心強い」
「これからもよろしくな」
そう言って拳を突き出した。
漣が笑いながら拳を合わせる。
続いて雪乃さん。
真紀さん。
茉奈。
五人の拳が重なった。
そして全員で笑う。
昨日の戦いを経て、俺たちはさらに仲間になれた気がした。
しばらく歩いていると、今度は真紀さんが俺を見る。
「ところでさ」
「佐伯さんって、なんで漣は漣なのに、私は真紀さんなの?」
突然の質問だった。
俺は首を傾げる。
「え?」
「だって漣は漣って呼んでくれって言ったし」
「真紀さんは真紀さんだろ?」
数秒の沈黙。
全員が呆れた顔になった。
「何その理由……」
真紀さんが額を押さえる。
「じゃあ私も真紀でお願い」
「雪乃さんもそう呼んで」
そして茉奈を見る。
「茉奈ちゃんは真紀姉ね」
すると漣も負けじと言った。
「俺も漣で頼む」
「茉奈ちゃんは漣兄な」
茉奈が笑顔になる。
「じゃあ二人とも、私のことはマナって呼んでね」
「おう」
「分かった」
そんなやり取りをしながら歩いていると、冒険者ギルドへ到着した。
中へ入る。
すると――
視線が集まった。
かなりの数だ。
何事かと思っていると、ユリウスさんが近付いてきた。
「よう、救世の冒険者」
ニヤニヤしている。
俺は眉をひそめた。
「なんですか?」
「雰囲気違うだろ?」
そう言われて周囲を見る。
確かに多くの冒険者がこちらを見ていた。
ユリウスさんが声を潜める。
「羨望の視線だよ」
「ほら、あいつらの武器を見てみろ」
言われるまま視線を向ける。
すると気付いた。
ジャック武具店の焼き印。
あちこちに見える。
剣。
槍。
斧。
かなり増えている。
「お前たちの活躍を見て真似したんだよ」
「ジャック武具店の武器を持てば強くなれるってな」
そう言って豪快に笑う。
俺は思わず顔を覆った。
恥ずかしい。
とても恥ずかしい。
「やめてくださいよ……」
そう言いながら足早に受付へ向かう。
エリーナさんが俺たちに気付いた。
「昨日は大活躍だったそうですね」
にこやかに微笑む。
そして首を傾げた。
「ところで皆さんのパーティ名は何というのでしょうか?」
「パーティ名?」
俺たちは顔を見合わせた。
そんなもの考えたこともない。
エリーナさんは苦笑する。
「皆さんがうるさいんですよ」
「似た名前を付けたいみたいで」
受付周辺を見ると、冒険者たちがこちらをチラチラ見ていた。
なるほど。
そういうことか。
だがエリーナさんは急に真面目な顔になる。
「それに――」
「英雄には語り継がれる名前が必要です」
英雄。
その言葉に頭が痛くなる。
勘弁してほしい。
「すみません」
「まだ決まってないんですよ」
そう言うと、エリーナさんは笑顔で頷いた。
「ぜひ早めに決めてくださいね」
そして漣と真紀を見る。
「あら?」
「そちらのお二人は?」
そう言われて気付く。
まだ紹介していなかった。
「失礼しました」
「漣と真紀です」
「昨日の戦いにも参加していました」
「俺たちの仲間です」
二人が頭を下げる。
するとエリーナさんも慌てて頭を下げた。
「失礼しました!」
「私、冒険者ギルド受付嬢のエリーナと申します」
そして胸に手を当てる。
「本日より、カズキさんたち皆さんの専属受付嬢を務めさせていただきます」
その言葉に全員が固まった。
「専属?」
思わず声が重なる。
雪乃さんも。
茉奈も。
真紀も。
漣も。
全員が目を丸くしていた。
エリーナさんは少し誇らしそうに微笑む。
「はい」
「専属です」
どうやら本当らしい。
その後、俺たちは応接室へ案内された。
扉が開く。
中には自治区長。
冒険者ギルド長。
そしてジョージさんがいた。
昨日の戦いの後始末。
そして、おそらく本題。
本当の話はここからだった。




