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103 告白

翌朝。


まだ外が薄暗い時間に、俺はベッドを抜け出した。


正直、ほとんど眠れていない。


昨夜の茉奈との会話が何度も頭の中を巡っていた。


静かに一階へ降りる。


誰も起きていない。


俺はキッチンへ向かった。


竈に火を入れる。


鍋に水を張り、出汁を取る。


米を研ぎ、炊飯の準備をする。


味噌汁を作り、だし巻き卵を焼く。


手を動かしていると、少しだけ心が落ち着いた。


やがて東の空が白み始める。


その頃になって、階段を下りてくる足音が聞こえた。


振り返る。


雪乃さんだった。


俺たちは目が合う。


少し照れ臭そうに微笑み合った。


「おはよう」


「おはようございます」


短いやり取り。


それだけで胸が妙に落ち着く。


俺は小さく息を吐いた。


「雪乃さん」


「少し話がしたいんだけど、いいかな?」


雪乃さんは一瞬だけ緊張した表情を見せた。


それでも静かに頷く。


「はい……」


俺は椅子を引いた。


雪乃さんが座る。


俺はお茶を二人分淹れ、向かいへ腰を下ろした。


しばらく沈黙が流れる。


何から話せばいいのか分からない。


四十六年生きてきて、こんなに緊張したことがあっただろうか。


雪乃さんも黙って俺を見ていた。


俺は意を決して口を開く。


「雪乃さん」


「俺、昨日までずっと勘違いしてたんだ」


雪乃さんが顔を上げる。


「自分には資格がないと思ってた」


「年齢も離れているし」


「俺なんかが相手にされるはずがないって」


苦笑する。


情けない話だ。


だが、それが本音だった。


「でも、それは俺が勝手に決めつけていただけだった」


雪乃さんの目が揺れる。


俺は続けた。


「だから聞かせてほしい」


「雪乃さん」


「本当に俺なんかでいいのかな?」


雪乃さんは一瞬だけ俯いた。


だがすぐに顔を上げる。


真っ直ぐ俺を見る。


その瞳には迷いがなかった。


「あなたしか見えません」


小さな声だった。


それでも、はっきり聞こえた。


胸の奥が熱くなる。


俺はゆっくり息を吐く。


そして椅子から立ち上がった。


雪乃さんの前に立つ。


「鈴木雪乃さん」


雪乃さんが緊張したように背筋を伸ばした。


「こんな俺だけど」


「結婚を前提に、お付き合いしていただけないでしょうか」


言い切った。


雪乃さんの目が大きく見開かれる。


数秒。


時が止まったようだった。


やがてその瞳に涙が浮かぶ。


ぽろり、と零れ落ちた。


「はい……」


声が震えていた。


「よろしくお願いします……」


次の瞬間。


堪えていたものが溢れたように涙が流れ出す。


俺は思わず雪乃さんを抱きしめた。


雪乃さんも俺の服をぎゅっと掴む。


「ありがとう」


「雪乃さんと一緒に歩いていけるよう、俺も頑張るよ」


すると雪乃さんは泣きながら笑った。


「私も頑張ります」


「あなたの隣に並べるように」


その言葉が嬉しかった。


しばらく二人で抱き合っていた。


その時だった。


廊下の方から――


ガタッ。


盛大な物音が響いた。


俺たちは同時に振り返る。


そこには。


茉奈。


漣。


真紀さん。


三人が並んでいた。


どうやら最初から聞いていたらしい。


茉奈は涙目だった。


そして次の瞬間。


雪乃さんへ飛び付く。


「良かったぁ……!」


「本当に良かったぁ……!」


雪乃さんも笑いながら茉奈を抱きしめた。


「茉奈」


「ありがとう」


「本当にありがとう」


二人とも泣いている。


その光景を見ているだけで胸が温かくなった。


すると漣がニヤニヤしながら言う。


「だから言ったじゃん」


「この二人、どうせくっつくって」


直後。


真紀さんの拳が漣の頭へ落ちた。


ゴンッ。


「いってぇ!」


「そういうデリカシーのないこと言うんじゃないよ、このバカ!」


真紀さんは怒っていた。


だが、その目には涙が浮かんでいる。


漣も頭を押さえながら笑っていた。


みんな嬉しいのだろう。


俺も自然と笑ってしまった。


「さて」


「朝飯にしようか」


そう言うと、一斉に歓声が上がった。


食卓へ料理を並べる。


炊き立てのご飯。


味噌汁。


だし巻き卵。


完全な日本の朝食だった。


味噌汁を見た瞬間。


雪乃さんと茉奈が目を輝かせる。


「うわぁ!」


「味噌汁だ!」


二人はすぐに椀を手に取った。


一口飲む。


そして顔を見合わせる。


「美味しい!」


「日本食最高!」


心から嬉しそうだった。


漣もご飯をかき込んでいる。


真紀さんも幸せそうに味噌汁を飲んでいた。


その光景を見ながら、俺は静かに思う。


やっぱり――


雪乃さんと茉奈が喜んでくれるのが一番嬉しい。


昨日までとは違う。


少しだけ未来が明るく見えた。


そんな朝だった。


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