↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/110

101 凱旋

俺たちは家へ戻った。


すると家の前に人だかりができていた。


何事かと思っていると、こちらに気付いたジャックさんとエリスさんが駆け寄ってくる。


「カズキさん! あんた凄いことやったんだって!」


「街を守った英雄を一目見ようと、みんな集まってきたんだよ!」


英雄。


勘弁してほしい。


俺は苦笑しながら首を振った。


「英雄は俺じゃないですよ」


「漣ですよ、漣」


「敵のボスを倒したのは漣ですから」


そう言うと、漣が慌てて手を振る。


「ずりぃよ! 佐伯さん!」


「佐伯さんが一人で大軍を止めたから勝てたんだろ!」


「英雄は佐伯さんだろ!」


するとジャックさんとエリスさんが大笑いした。


「ははは!」


「英雄になりたがる奴は山ほど見てきたが、譲り合う奴は初めて見たよ!」


「街中の人間が、あんたらパーティの活躍を知ってるさ」


「そういう意味じゃ、あんたら全員が街の英雄だよ」


そう言われると、否定するのも野暮な気がした。


そんなことを考えていると、人混みをかき分けるように雑貨屋の主人が駆け寄ってくる。


両手には大きな袋を抱えていた。


「英雄さんたちに俺からプレゼントだ!」


「前から欲しがっていた米だ!」


俺は思わず目を見開いた。


「え……?」


袋を受け取り、中を見る。


白い粒がぎっしり詰まっていた。


思わず手を突っ込み、指の間からこぼれ落ちる粒を見る。


間違いない。


米だ。


この世界へ来てから、ずっと探していた米だった。


「うそだろ……」


「本当に米だ……」


思わず呟く。


すると雑貨屋の主人が申し訳なさそうに頭を掻いた。


「ただなぁ」


「なんか加工してるらしいんだ」


「家畜の食い付きが悪いとかで、白くなるまで削ってあるそうだ」


よく見ると、精米済みだった。


むしろ最高である。


「この状態で十分です!」


「いや、最高ですよ!」


そう言うと、主人は嬉しそうに笑った。


「そんなに喜んでくれるなら、今後も仕入れるぞ!」


俺は頭の中で計算する。


店で使う分。


保存用。


味噌用。


日本酒用。


とても数十キロでは足りない。


「毎月三百キロほど仕入れられませんか?」


主人は目を丸くした。


「そんなにか!?」


だが次の瞬間には胸を叩く。


「任せろ!」


「俺もこの街じゃそれなりに顔が利く!」


「毎月三百キロ仕入れてやるよ!」


こうして月額金貨三枚で契約成立となった。


俺たちは集まった人々に手を振りながら家へ入る。


外からはまだ歓声が聞こえていた。


家へ入った途端、雪乃さんが俺の両手を掴んだ。


「ついに……」


「ついにお米が食べられるんですね!」


目が本気だ。


俺は笑いながら頷く。


「お米だけじゃありませんよ」


「ここから食文化革命が始まります」


「米があれば麹が作れます」


「麹ができれば味噌も日本酒も作れます」


すると雪乃さんの目がさらに輝いた。


「つまり味噌汁が飲めるんですか!?」


「飲めます」


「やったぁ!」


雪乃さんが本気で喜んでいる。


俺も少し嬉しくなった。


「味噌ができれば店の料理も増やせますしね」


「和食の幅が一気に広がります」


雪乃さんは何度も頷いていた。


俺は今度は茉奈を見る。


「日本酒も味噌も麹も、茉奈の力が必要になる」


「頼りにしてるよ」


茉奈は胸を張った。


「もちろんです!」


「任せてください!」


その姿が可笑しくて、俺と雪乃さんは思わず笑ってしまう。


すると完全に話についていけていなかった漣と真紀さんが、おずおずと手を挙げた。


「あのさ」


「コメコメ言ってるけど、それって俺たちの知ってる米なのか?」


「こっちの世界でも食べられるってこと?」


俺は袋を開いて見せた。


二人は固まる。


「本当に米だ……」


「日本のお米だ……」


感動しているのか驚いているのか分からない顔だった。


その日の夕食は急遽変更になった。


炊き上がる米の香りが家中に広がる。


その香りだけで胸が熱くなる。


茶碗によそわれた白米。


湯気が立ち上っている。


俺たちは顔を見合わせた。


そして同時に一口。


「うまい!!」


声が揃った。


「やっぱこれだよ!」


「サイコー!」


「たまんねぇ!」


感想が次々飛び出す。


さらに魔物肉の唐揚げを頬張り、白米をかき込む。


最高だった。


涙が出そうになる。


もう少ししたら味噌汁も加わる。


そう思うだけで幸せだった。


その夜の夕食は不思議なほど静かだった。


誰も喋らない。


ただ夢中で米を食べ続けていた。


夕食後。


俺たちは居間でくつろいでいた。


その時だった。


漣が不意に口を開く。


「なぁ」


「佐伯さんと雪乃さんって付き合ってんの?」


俺は盛大にお茶を吹き出した。


雪乃さんは持っていたティーカップを落とす。


真紀さんが漣の頭を叩いた。


茉奈は両手で顔を覆った。


「あー……」


「ついに言っちゃった……」


そんな声が聞こえる。


漣は頭を押さえながら抗議した。


「いてぇよ!」


「なんで叩くんだよ!」


すると真紀さんが睨みつける。


しかし漣は構わず続けた。


「だってさ!」


「佐伯さん、戦いの前に雪乃さんへプロポーズみたいなこと言ってただろ!」


「それに雪乃さんも戦闘中ずっと佐伯さんのこと心配してたし!」


もう一発叩かれた。


そのまま真紀さんに引きずられていく。


俺は顔が熱くなるのを感じていた。


人生で一番熱い。


プロポーズ?


俺、そんなこと言ったか?


恐る恐る雪乃さんを見る。


雪乃さんは顔を真っ赤にして俯き、指をもじもじさせていた。


え?


どういう状況だ?


まさか。


もしかして。


雪乃さんも――。


そこで茉奈と目が合った。


茉奈は深いため息を吐く。


そして雪乃さんへ寄り添った。


「行きましょう」


小さく声をかける。


雪乃さんは無言で頷き、そのまま部屋へ戻っていった。


気付けば居間には俺一人だけが残されていた。


俺は熱くなった頬を押さえながら天井を見上げる。


……いや。


落ち着け。


落ち着け、俺。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。