Sheet3:短い授業
「えー…よく聞け人間ども!」
エルはやや恥じらいのこもった口調で言い放った。
エルフコスプレでセミナーをした際、何故かツンデレキャラという役作りをしてしまったのでそれを踏襲しようとしていた。
「おいエル、無理しなくていいぞ」見かねたアキラが助け舟を出した。
「…じゃあ普通にやりますね」エルが応える。尖った耳の先が赤い。
「一番簡単な方法、今日はこれだけ覚えて帰ってください」エルはエクセルのまっさらな新規ファイルを用意すると、画面左上のA列一行目(A1セル)に「2026/8/11」と日付を入れた。セルの右下にマウスを合わせ、下へ引っ張ると「2026/8/12」「2026/8/13」と順番に日付が表示される。
「見え方はプロパティで変えられますが、とりあえずこれで行きます。そして隣のB列が曜日ですが、セルに入れるのは関数です」
エルはB列の一行目(B1セル)を選択すると、キーボードから素早く「=TEXT(A1,"aaa")」と打ち込んだ。
マドラーで関数を示し、皆んなが見たのを確認すると、ENTERキーを押す。
セルには「火」と表示された。
「後はさっきの日付みたいに、B1セルの右下にマウスを合わせ、下へ引っ張って数式をコピーするだけです」
エルが操作するとB列に「水」「木」と順番に曜日が表示された。
「ちなみにこの"aaa"を"aaaa"にすると『水』が『水曜日』になります。あと"ddd"にすると英語になったりとか…」今日の授業は関数を一つ説明するだけで終わってしまった。授業の終わりを告げると聴衆から再び拍手が返ってきた。
「さすが師匠。勉強になります」杉田が褒めちぎるのを遮る様にエルは、
「ていうか、これくらいならネットで検索したらすぐ見つかるでしょ?」ツンデレキャラで通してたら「ググれカス」って言ってるところだ。
「うーんそうなんですがね…そんなの師匠に会いたいからここに来たに決まってるじゃないですか!ハイボール、お代わり!」杉田はいつの間にか空にしたグラスを掲げながら言った。
「あら〜嬉しいこと言ってくれるじゃない。何ならボトルキープしてくれてもよろしくってよ」最近観たアニメか何かの悪役令嬢のノリだろうか。エルの客あしらいもさまになってきた。
結局、杉田は中村と折半で本当にボトルキープした。カウンターの見えないところでサムズアップするアキラにウインクで返すエル。
ボトルキープするくらいだから来店頻度は上がるだろうと思っていたが、偶然にもまた薔薇筆と育美が居る時にやって来た。
「いらっしゃい」アキラの声に、
「本日もご来店ありがとうございます」エルも声掛けする。
先日と同じカウンター席に促され、一杯目の乾杯も早々に中村が口火を切った。
「あのう…先日のエクセルの曜日の件。不可解な事態が起こりました」
薔薇筆はスナックエンターのホームページにエクセル関係のクイズを不定期に載せている。
最近ちょっとネタ切れ気味なのもあり、その不可解な事態がまるでウミガメのスープかのように興味を誘った。
薔薇筆が身を乗り出した。
「あの、すみません。そのお話僕らにも聞かせてもらえませんか?」
前回チームの一員として紹介されていたこともあり、中村は快諾しつつ話し始めた。
「実はある特定の一人だけ曜日がズレるんです」




