Sheet2:誕生日の曜日
「じゃあ、も少し質問」アキラは正解にたどり付いていたが、あえて念押しをした。
「その女性の身体から体外へ出された臓器は心臓だけですか?」
「いいえ」
「人体を構成するすべての臓器ですね」
「はい、もう答え出てますね。言っちゃってください」薔薇筆が促した。他の三人はまだピンときてない様子だった。
「えー…その人は妊婦で出産をした!」
アキラは持っていたマドラーを魔法使いの杖の様に薔薇筆にかざしながら宣言した。
「お見事、正解です!」薔薇筆は小さく拍手しながら言った。
赤ちゃんの一部でしかない心臓を、さもそれだけを取り出したかのように言い表したレトリックによるミスリード。
ウミガメのスープはそんな言葉遊び的なクイズといえる。
「んじゃ俺はオムんとこ行っていいか?」グッさんがアキラに返事をもらう前に立ち上がる。
オムは店の二階、アキラとエルが暮らすプライベートルームで飼ってる猫だ。
「いいけど、昼間元気に暴れてたから寝てるかもよ」アキラの返事に後ろ手に手を振って応えながら二階へ消えていくグッさん。
ちょうど入れ替わりにドアベルが鳴り、男性二人連れの客が入ってきた。
「いらっしゃいませ〜こちらへどうぞ」エルが空いてるカウンター席に案内する。
薔薇筆と育美から一つ空けた端の二席に、今来た二人連れが腰を下ろした。
「お久しぶりですね、杉田さん」エルが片方の客に話しかける。
「えっ師匠、俺の名前覚えててくれてたんですか!?いやぁ、嬉しいなぁ〜」喜ぶ杉田。
杉田は以前エルがエルフコスプレでセミナーを開催した際の受講者で、その後店にも時々足を運ぶ様になっていた。
セミナー受講者はエルの事を(エクセルの)師匠と呼ぶのが通例だ。
連れの男性は初来店だった。
オーダーの際に杉田から中村と紹介された。
薄っすら顎ヒゲをたくわえた彼は杉田と同じ会社員には見えなかったが、自身をセレモニーアドバイザーと名乗った。
「実家は葬儀屋なんですが分社化しまして、冠婚葬祭セレモニー関連のプロデュース業をやってます」
「はぁ…」エルは気の抜けた返事をした。
こちらの世界へ来て様々な文化を貪欲に吸収してきたエルだが、冠婚葬祭に関してはほとんど縁がなかった。
町内会の祭りくらいが関の山だった。
二人の会話が途絶えたのを察し杉田が話しかける。
「実は今日来たのはコイツの困り事の相談に乗って欲しくて…もちろんエクセルの話です」
杉田の説明をまとめるとこうだ。
中村は顧客情報をエクセルで管理している。
特に重要なのは顧客やセレモニー対象者の誕生日や命日、何らかの記念日である。
そして顧客の多くは縁起や占いといったものを重要視している。
最近になって誕生日に対して日にちや星座といったものの他にも"曜日"に関心を持たれる様になった。
生まれた日の「曜日」によって運勢を占うといったものだ。
今まで曜日まで管理してなかった顧客情報のエクセルに曜日を追加したいとの相談だった。
途中から話を聞いていたアキラも
「確かに自分が生まれた曜日の事なんて気にした事なかったな」と言った。
エルはカラオケモニターに自前のノートPCを接続すると、皆んなに見えるようにエクセルを立ち上げた。
「それじゃあ、本日の授業を始めます!」
場の皆んなの拍手が鳴り響いた。




