寮生活2日目(春海の答え合わせ)
110号室のドアは全開のままだった。
なので、必然二人の会話─────阿貴が悲鳴を上げるところまで、しっかり、がっつりと外まで響いており。
後を付けてきていた春海と誠伍には、その全てがまるっと聞こえていた。
「…ドア全開で何言ってるんだ成美は」
額に手を当てながら、ため息交じりに誠伍が言う。
「ま、言った通り最悪の事態にはならなかっただろ?」
ともすればドヤ顔まで見せる春海。
「最悪の事態には、な。ってか、春海、お前こうなる事わかっていたのか?」
成美が部屋を出る前、春海がやけにあっさりと阿貴に会うことを認めた時点から。
春海は確信めいた口調で、「最悪の事態にはならねえだろ」と言い放っていたのだ。
「いや?」
だが春海はそれをあっさりと否定してみせた。
「ただ─────そうなるようには仕向けた、ってのが近いな」
「あ?」
怪訝な顔を向ける誠伍に、講義でもするように語りだす春海。
「あの場を丸く収めんには、やられた被害者─────阿貴ちゃんの目の前で、本人が引くほどブチ切れて「見せる」のが最適解だ」
「お前が大声出して謝ってたあの時か」
あの時点では誠伍はさっさと部屋を出て行っていたが、春海の大声は外まで響いていた。
「成美への叱責だけかと思っていたが、な」
「あれはあれでマジで怒ってたぞ、オレ」
こればっかりは強調させてもらうけどな、と付け加えて。
「ただ、あの時点じゃ事態の収拾が最優先だったからな。それで二人で一緒に土下座して、ってやって、阿貴ちゃんの方も「そこまでしなくても」な空気になりかかっていたのはわかったからな」
「お前…あの時点でそこまで考えていたのか?」
宇都宮があの場で成美を拒絶しないことまで、と。
「去年はともかく、今年からあの部屋で3年過ごすんだぞ?仲良くなれ、とまでは言わねえけどあんな空気でやっていけねえだろ、ってな」
寮の部屋は基本的には3年間固定だ。よほどの事情でもない限り、部屋替えはない。
「もっとも、阿貴ちゃんがもっと頑なだったら、まだわからなかったけどな」
見た感じ、そんな頑なそうにも見えなかったし、とは思っていたが、その辺は賭けだった事に変わりはない。勝算はあったとはいえ、だ。
「それでも─────成美があそこまでマジになって謝ってんだ。それ頭ごなしに突っぱねちまうほど人でなしじゃねえだろ、多分」
許してもらえなくても、話をする余地くらいはあるだろう、と。
そして結果、それは思っていた以上に成功したようだ。
そして。
相変わらずドアが全開になっていたままの110号室。
漏れ聞こえてくる声の大きさに、周辺住人が遠巻きに見守りにやってきている。
「ところで」
「何だ?」
「いつまでここで立ち聞きしてるつもりだ、俺たちは」
「あ」
一方部屋では。
阿貴が顔を真っ赤にしたまま、ふと目に入った外の様子に。
たった今までドアが全開になっていたことにようやく気付いて、しばし絶句。
「─────阿貴ちゃん?」
成美の声に、我に返って。
無言のまま、バタン!と思いっきりドアを閉めた。




