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青き碧の仲間たち  作者: 高階闇堂
寮生活、初日
20/21

成美尋問編(昼間)

春海が、成美を引きずるように110号室を出て、玄関口に向かうと、誠伍が一人で新入生の対応に追われていた。

と言っても、新入生の名前と部屋番号の確認、場所の案内くらいのもので煩雑な手続きめいたものはない。

故に代理でも十分回せていた。

春海たちの気配を察して、後ろを振り返る。

「終わったのか」

「ああ」

短い返事。

「なら、俺は飯にするから、ここ代わってくれ」

寧ろ率先してお前がやることだろう、とは言わない。

「いいぞ。任せっきりにしてすまんな」

と、その後一拍おいて。

「だったら、成美連れてけ。今日一日、オレらの監視下に置くことにしたから」

あの状況で、二人っきりにさせるわけにはいかねえからな、と。

「わかった。行くぞ、成美」

「はーい」

反省しているのかいないのかわからないような成美の軽さに、わずかに眉を顰める。

ふと、玄関口の時計に目をやる。

阿貴が110号室に入ってから、まだ30分と経っていなかった。


長期休暇中の寮の食堂は、必然休業状態だ。

故に、この時期「飯にする」と言えば、外に出ることになる。

紺碧町駅から寮に至るまでの商店街には様々な飲食店が並んで軒を構えている。

だが─────

今はゆっくり飯を食っていられる状況ではない、と誠伍は考えた。

向かった先は、町内最大規模の大型店─────紺碧マート。


店内は、昼時という事もあってそこそこに人はいるが、移動するのに苦労するほど混雑しているわけでもない。

誠伍は、弁当、総菜コーナーに向かって歩いていた。

隣では相変わらず成美がひょこひょこついてきている。

時間帯が時間帯なので、弁当はそこそこ売り切れていたが、残っていたその中の1つを掴んでかごに放り込む。

「あ、それにするの?」

「量が物足りねえが、気にしてる場合じゃねえしな」

短く返す。

「じゃ、ぼくおにぎりにしよっと」

と、成美は小さめのおにぎりを2個手に取る。

「一緒にここに入れろ」

誠伍が、先に弁当を入れていたかごを指差して言う。

「あ、いいの?」

「後で金は取るぞ」

「わかってるよっ」

少しばかり、会話をする空気になってきたようで、わずかに気を抜く成美。

だが、それもこの一瞬だけだった。


一緒にお茶のペットボトルをかごに入れて、レジに向かうすがら、話は先ほどの「不祥事」に。

「…まだ怒ってる?」

僅かに顔を上げて問いかける。

「………当たり前だ」

即座に返す誠伍。

「お前、自分が何をしたかわかってるか?」

「可愛い子に、キスした」

「そういう事じゃねえんだよ」

一段低い声で。

周囲の客たちが、少し驚いた様子でこちらを見る。

だが、それも一瞬だけの事。

「誰も彼も、お前を即受け入れられると思うなよ」

「……」

「どう見ても、()()()()()()()慣れてる奴の反応じゃなかっただろ」


紺碧マートでは、これ以上の会話はなかった。

会計を済ませ、寮へ戻る。時間にして、まだ二人が寮を出て20分ほど。

出る前までのざわめきは、一通り落ち着いてきたようだ。

玄関を抜けて、2階へ上がり、談話室に入る。

備え付けの電子レンジで、それぞれの昼食を温め、テーブルを挟んで腰を下ろした。

誠伍は弁当、成美はおにぎり。

その傍らにはそれぞれお茶のペットボトルが並び。

「いただきます」

「いただきまーす」

どちらからともなく、食事が始まる。

お互い、無言のまま。

その沈黙が、さっきまでよりも一段重い。


成美は、おにぎりをかじりながら、ちら、と誠伍の様子を窺う。

淡々と、無言で箸を運ぶその姿に、少し間をおいて。

「─────さっきのさ」

ぽつり、と切り出した。

「…そんなに、ダメだった?」

「………お前な」

まだ言うか、と言外に含みながら、

「初対面の相手だぞ?ちったあ考えろ」

と、短く。そのまま、箸を口に運ぶ。

「うん、わかってたんだけどね」

ペットボトルのお茶でおにぎりを流し込みながら、

「…本当だよ?ぼく、春海に言われてた以上の事、するつもりなかったんだ」

ちょっと誘惑して、ドギマギさせて。

相手の反応を楽しんで、少ししてからネタばらし。

去年の反省を踏まえて、あっさり終わらせるはずだった茶番が。

「─────でも、あの子見てたら」

ペットボトルを置いて一息ついて。

()()()()()()()()()


お互いの食事は、既に腹の中。

残っているのは、それぞれのお茶。

「…」

「…」

先ほど以上に、重い沈黙が落ちる。

「はぁ」

誠伍は、ため息一つついて。

「さっきの蒸し返すがな」

正面から成美を見据えて、

「慣れてる奴の反応じゃなかっただろ?」

「…」

「ああいうの、苦手そうだったろ」

あの時の阿貴の反応を思い出す。


「ごめん、とは思ってるよ?」

「思ってる()()だろ」

一刀両断、とはまさにこの事。

「じゃあ今後どうするか考えろ。これから3年間、一緒になるんだからな」

「だよね…」

少し視線を落とす。


「とりあえず」

短く切り出し。

「春海も言ってたが、今日はお前は単独行動禁止だ。俺たちの監視下に置く。わかってるな?」

「………え」

「え、じゃねえ。後で改めて3人で話するからな」

今は忙しいからな、と言って、誠伍は成美の手を引っ張り玄関へ足を運んだ。


食べていた弁当とおにぎりのゴミは、談話室できちんと始末して。

二人は玄関に着いていた。

「春海」

「おう、終わったか」

「ああ、お前も食ってこいよ。まだ飯行ってねえだろ」

「成美どうすんだ」

「今日は目を離せねえからな。仕方ねえがここで一緒に受け入れやってもらう」

「え?」

「黙って突っ立ってればいい」

「ちょっと待って誠伍?」

「仕事増やしてねえだけありがたいと思え」


そう言って、誠伍は受け入れ業務に戻っていった。

その後しばらくの間─────

新入生がわずかにざわついていたことについては、察していただきたい。

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