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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
事件後
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秘密の目

せっかくイグナスがここにいるのだ。彼を使ってアルベルトに秘密を伝えることを思いついた。

「アルベルト様、大事なお話をさせてください」

ぼんやりと見える陰にそう言うと、リリアは僅かに笑みを零した。事実を知った時彼がどんな反応をするのかわからないが、これからのことを考えれば必ずどこかで話をしなければいけない。

今回の誘拐事件がウォルスター公爵家に関わりがあり、そのせいでリリアも狙われているのなら、隠し事はできるだけ減らすべきだと思った。

はっきりと見えるイグナスに視線を向けるとゆっくりと彼に近づいていく。

「おじ様にも協力してほしいです」

見上げた先はしっかりと彼の目だ。視線が合う。

「リリア・・・」

察してくれたのかイグナスが少し驚いたように見つめ返してくれた。

その後アルベルトを見るがぼんやりとした視界では、彼がどんな表情をしているのかわからなかった。

「君の視線に気が付いたようだ。驚いているよ」

リリアの意図がわかったイグナスが状況を説明してくれる。

「どうやら混乱しているようだね」

「師団長、今リリアと視線が合って・・・」

アルベルトの戸惑いの声が聞こえる。だがリリアは彼と視線を合わせることはできない。魔力を纏っているイグナスだから視線を合わせられたのだ。

「リリアには私がしっかり視えているんだよ」

「・・・どういうことですか」

戸惑いと驚きが混ざった声がする。

それも当然だ。リリアは弱視で周りをぼんやりとしか見ることができない。アルベルトとの縁談の時にそう説明している。彼はそれをずっと信じてくれていた。事実ではあるが、すべてが真実ではない。

「彼女の目は魔力を捉えることができるんだよ」

「魔力を・・・」

協力してほしいと頼んだからなのか、イグナスは混乱しているアルベルトに話していく。

混乱している中説明されても頭が追いついていないようで、アルベルトは呟くと黙り込んでしまった。

「おじ様」

アルベルトの状況を把握できないためイグナスに彼の状況を確認してもらう。

「混乱しながらも何か考えているようだよ。もう少し待ってあげなさい」

優しい声にアルベルトがリリアの目のことを知って怒っているわけではないことは理解できた。

「師団長の魔力が視えている・・・」

再びの呟きに、リリアは口を開いた。

「おじ様は強い魔力を持っているので、常に魔力を体に纏わせて放出しています。私はその魔力をはっきりと捉えることができます。だから、おじ様のことがはっきり視えるんです」

イグナスを振り返ると彼と視線を合わせる。他の景色はすべてぼんやりとした世界だが、彼だけがはっきりと視える。

「俺のことは?」

アルベルトの質問に首を横に振るしかない。

「ごめんなさい。アルベルト様は魔力を纏っていないので視えません」

はっきりと口にすると寂しさが募る。目に魔力を集中すればアルベルトのことも観ることはできるが、集中力をとても使う上に、観る以外のことがほとんどできない。

今回の事件で視ながら走って逃げるということをしたが、あれは非常事態だったことで行った最終手段だ。普段は魔力で視るということはしていない。そのことも後で説明しなければいけないだろうが、今は魔力を視ることができることを理解してもらう必要があった。

「魔法を使えば見えるということか?」

次の質問にも同じように首を振る。

「発動した魔法自体ははっきりしますが、魔法を使った本人は無理です。ただ、発動したときに魔力を纏っていればその瞬間は視えると思います」

「はぁぁ」

大きなため息が聞こえてきた。驚いている間に紺色の影がソファの上で小さくなっていく。

「アルベルト様?」

何が起きたのかわからずイグナスを視ると、彼は苦笑しながら教えてくれた。

「一応は理解してくれたようだが、衝撃が大きかったのだろうな。ソファの上で丸まっているぞ」

「えっと、大丈夫なのかしら」

「大丈夫だろうが、落ち込んでいるようにも見えるな」

ぼんやりとした小さな影にしか見えないが、心配になってそばに行くとそっと手を伸ばした。

上の方に手を伸ばしたため、柔らかいさらさらとした感触にすぐに髪の毛に触れたことはわかった。

思っていたより繊細な髪質なのだと気が付いた。

1度はっきりとアルベルトを視たことがあったが、その時の黒髪はもっと硬くて強いイメージだった。実際に触れてみると予想とは違う感触に胸が疼くのを感じた。

もう少し触っていたいなと思っていると、影が動いた。

「慰めのつもりなのか」

「えっと・・・」

心配になって触れたはずなのに、好奇心に負けて堪能してしまっている自分がいる。手を放して慌てていると、影が大きく伸びた。アルベルトが立ち上がったのだ。

「騙されたと思っていますか?」

怒っているだろうか。表情が見えないため彼の感情がわからない。

弱視であることは事実だが、条件が揃えば視ることは可能だった。そのことをずっと知らずに婚約者をしてきたのだ。浄化の力を持っていたこともそうだが、秘密の多いリリアに落胆した可能性はある。

上目遣いに視線を送っても彼の顔がある場所を見ることしかできないので、決して視線が合うことはない。

再び大きなため息が零れた。怒っているというより呆れられているのだろうか。不安を覚えているとイグナスが近づいてきた。

「リリア、部屋に行って仮面を見せてはどうだろう。あれがあれば、彼と目を合わせて話ができるだろう」

「あっ」

彼の助言にドレッサーの引き出しにしまわれている無表情の白い仮面のことを思い出した。

「ウォルスター卿。もう少しリリアの話に付き合ってもらえないだろうか」

「それはもちろん」

静かで落ち着いた声が返ってきた。その声が怒りを含んでいないことがわかってほっとすると、リリアは仮面を取りに自室へと向かった。


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