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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
新たな事件
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お礼のお茶会

ウォルスター公爵が過労で倒れたにもかかわらず数日で仕事復帰したことは、すぐに城全体に話が広がった。

たった数日ではあったが、お見舞いとして親しい貴族たちから品物が届き、そのお礼を兼ねて公爵夫人であるメリーナはお茶会を開くことになった。リリアは知り合いの浄化師を紹介してくれたお礼としてそのお茶会に招待された。

「今回は1人で来てくれたのね」

迎えてくれたメリーナは、リリアが1人で来たことに感心しているようだった。初めてのお茶会は母と一緒であったが、その後はメリーナと2人だけでお茶を楽しむことばかりだった。こうして大人数でのお茶会に1人で来るのは初めてだ。

「お招きいただきありがとうございます。今回は私1人の招待でしたし、何度かこのお屋敷にも足を運んだので、少し慣れてきましたので大丈夫だろうという判断です」

お土産の焼き菓子を渡して言うと、メリーナは満足そうに頷いていた。母も心配することなく送り出してくれた。

「今日は他にもお客様がいるけれど、いつも通りに気を楽にしてゆっくりしていってね」

「はい」

天気がいいこともあって、お茶会は庭で開かれていた。

テーブルを囲んで座る貴族婦人らしき影は色とりどりだ。

「リリアちゃんは私と同じテーブルにしておいたから」

初めてのお茶会の時と同じようにメリーナの隣を勧められる。

メリーナが着席するとすぐに婦人方が近づいてくる足音が聞こえてくる。

「ウォルスター公爵夫人。公爵様の仕事復帰おめでとうございます」

「ありがとう。そんなに大げさなものではなかったのに、皆さんからはたくさんのお見舞いの品を頂いてしまって、夫と一緒に申し訳ない気持ちでいっぱいでしたわ」

「とんでもない。公爵様が倒れられたと聞いた時は、本当に驚いて心配しましたわ」

穏やかな声の会話に、今話しかけてきた夫人は本当に心配していたことが窺える。

「でもすぐに仕事復帰なさってよかったですわ。賊に襲われて怪我をしたそうですが、酷い怪我なのではという噂もありましたし」

別の夫人が声をかけてくる。どこか冷たい印象を持ったリリアは黄色いドレスに赤毛と思われる髪の人物に視線を向けた。

「そもそも公爵様が怪我をするのは護衛が手薄だと言えますわ。ウォルスター公爵家の騎士はひ弱だと世間に知らせたようなものですよ」

「ご忠告ありがとうブリジット公爵夫人。でも御心配には及びませんわ。賊に襲われて無傷ではありませんでしたが、軽いけが程度ですみましたし、屋敷に戻ってきて長旅の疲れが出ただけです。ゆっくり休ませていただきましたので、仕事に支障が出ないように気合を入れ直して登城しましたから」

「それは結構ですこと。仕事に支障が出るようでは同じ公爵家として恥ずかしく思いますからね」

目に見えない火花が2人の間に散っている気がした。どうやらブリジット公爵家とは仲が良くないらしい。今の会話でそれを察知したリリアは相手の声をしっかり覚えておくことにした。今後どこかで会った時隙を見せてはいけない相手になる。

「もしかして、こちらがアルベルト様のお相手の方かしら?」

黙って様子を窺っていたのだが、ブリジット公爵夫人がこちらに気が付いたようだった。

「初めまして公爵夫人。フラクトル伯爵家のリリア=フラクトルです」

黄色い影に向かって挨拶をすると、見下すような小さな笑いが聞こえた。

「目が見えないと聞いていたけど、本当のようですね」

リリアのことをどこかで聞いていたようだ。視線が合わないことで目が不自由だということが事実だとわかったらしい。

「アルベルト様も随分と変わったご令嬢を選ばれましたね。公爵家の一員として恥をかかなければいいですけど」

今の言葉は完全にリリアを見下し、アルベルトを馬鹿にしていた。それはメリーナにもはっきりと伝わり、彼女が扇を口元に持っていくのが視界の端に視えた。

「確かにリリアちゃんは目が不自由ですけれど、見た目だけで人を判断するような器量の小さい方ではなくってよ」

その目が据わっていることに気が付いて、内心慌てたリリアはすぐに口を挟んだ。

「ご心配ありがとうございます。確かに私の目は不自由ではありますが、アルベルト様は私のことをよく見て選んでくれた素晴らしい方です。私を選んでくれたことを後悔させないためにも、できる限りのことは勤めさせていただいております」

「目が見えないのに、何ができるというのかしら」

敵意が完全にこちらに向いた。先ほどから目が見えないと言ってくるが、リリアは弱視で視界がぼんやりしていても、何も見えていないわけではない。その違いがわからない公爵夫人に呆れてしまう。

それに、公爵夫人の言葉を聞いて少し離れたところで小さく笑っている声が聞こえてくる。彼女たちもリリアを見下しているのは理解した。

ここで不快な顔をしては相手の思い通りになるだけだ。それに相手は公爵夫人だ。下手なことをして不興を買えばメリーナにも影響が出る。

笑顔を作ってはっきりとした声で答えることにした。

「比べてしまえば劣る部分も多いでしょうが、目が不自由でもできることはたくさんあります。どうぞご心配なさらずに」

何ができるのかは敢えて言わないでおく。今日はメリーナが開いてくれたお茶会だ。この場の空気をこれ以上壊さないようにしなくてはいけない。

「気遣いはブリジット夫人よりできるようですわね」

リリアの意図を察してくれたようで、メリーナが優しく声をかけてくれた。

周りの空気が冷え切っていることにブリジット公爵夫人もやっと気が付いたようで、黄色い影がそわそわと揺れ動く。

微かに離れたところからクスクスと笑う声が聞こえた。先ほどとは別の場所から聞こえてきた声だったため、これはリリアに対してではなく場を壊している公爵夫人に対しての嘲笑のように思えた。

「わたくし用事を思い出しましたわ。今日はこれでお暇させていただきます」

リリアのはっきりとした対応に空気が変わったことで不利を悟ったのだろう。

影が急に離れていく。足早に去っていく音を聞いて、とりあえず難局は超えたと思った。

「そうだわ。リリアちゃんの目が不自由な分、私がしっかりサポートするわ。さっきあなたのことを笑った人間の座っている位置と名前は覚えてあるから心配しないでね」

わざと声を大きくして言うメリーナに、周囲が一気にざわついた。ブリジット公爵夫人に同調してリリアのことをこっそり笑っていた者たちがいた。メリーナは彼女たちが座る場所と名前を把握していたのだ。

「私用事を思い出しました」

「急用ができたので、帰らせていただきます」

数人の女性が慌てたように立ち去っていく音が聞こえる。

「帰るくらいなら最初から来なければいいものを」

メリーナの呟きにリリアは目を瞬かせたが、苦笑して応じるだけにした。

その後、お茶会は和やかな雰囲気に包まれて終始穏やかに過ごすことになった。


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