ミリアの嫉妬
無事と言っていいのかわからないが、お茶会が終了して招待客が帰っていく中、リリアも迎えの馬車に乗るため、ウォルスター家の使用人の腕を借りて歩いて玄関へと向かっていると、急に腕を掴まれた。
「あなた、まだアルの婚約者をしていたのね」
突然のことに驚いて振り向けば、青い影がすぐ近くに立っていた。姿がわからなくても声に聞き覚えがある。
「ミリア様」
彼女と会うのはこれで3度目だが、印象が良くないため警戒する対象として完全に声を覚えている。
「今日のお茶会にいらしてたんですね」
「メリーナ様のお誘いを断るわけがないでしょう。あの方はアルの義理のお姉様なんですから」
出来るだけ冷静に反応すると、当然だと言わんばかりに言い返された。
どうやら彼女も公爵へのお見舞いの品を送っていたらしい。そのお返しとしてメリーナが招待していたようだ。お茶会が始まってメリーナに挨拶をする夫人たちがいたが、その中にミリアがいたとは思えない。おそらく、リリアが来るもっと先に挨拶を済ませていたのだろう。
「前にも言ったはずよ。あなたがアルの婚約者だなんてふさわしくないと」
夏の夜会で軽蔑するように言ってきたミリアに反抗すると、ドレスにワインをかけられた。
あの時のことはメリーナには話してあるが、公爵が倒れたことでばたばたしてしまい、まだアルベルトには話していなかった。今度ゆっくり会える時に話すつもりでいたのだ。
今は公爵邸から帰るところなのでさすがにワインは持っていないだろう。使用人の腕を離すと、ミリアに向き直る。
「婚約を破棄するも継続するも、ミリア様には関係ないことと思います」
目のことを関係なくアルベルトはリリアを愛おしく思ってくれている。それが伝わってくるからリリアもそれに応えたいと思うのだ。部外者が出てきて大切な人と引き離す権利はない。
「私たちは自分の意思で婚約しています。たとえアルベルト様の幼馴染でも限度があることを忘れないでください」
同じ伯爵令嬢。立場はそう変わらないはずだ。帰ろうとする貴族がまだ数人残っている。使用人も隣にいるのでミリアがひどい言動をすれば証言者になってくれるだろう。ここは強気に出ても大丈夫だ。
どんなふうに言い返してくるのか構えていたが、ミリアは何も言わなかった。そのかわりものすごく睨まれていることだけはわかる。
「お話がなければ、ここで失礼します」
騒ぎになるのは得策ではない。黙ってしまったミリアを放置して、使用人に馬車までの案内を頼む。再び腕を借りて馬車の乗り込んだリリアは、馬車が見えなくなるまで憎しみのこもった視線をミリアが送っていたことを知ることはなかった。




