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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
夜会と新たな一歩
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会える時間

「次の遠征先は各領地からの報告が上がってきてからになるだろうな」

「魔物の発生状況などに応じて優先順位を決める必要があります」

「1年で一番忙しい時期に突入しますからね」

「秋の討伐前にすべて決めておかないと」

第3騎士団の団長と各隊長が集まった会議室での会話は毎年変わらない。

夏の時期に避暑のために領地へと戻った貴族たちから領地での魔物の発生状況が報告されてくる。その報告内容によって、今後の遠征先と順番を決めることになる。アルベルトは黒騎士隊長として隊員たちの編成を決めなければならない。

「今のところ緊急を要する報告がありませんし、今年の討伐は楽かもしれませんね」

隊長の1人がそんなことを言っているが、領地からの報告はまだほとんど届いていない。油断するには早すぎる。内心思いながらも口にすることはしない。

「報告が上がり次第遠征先を決めていく。各自いつでも動けるようにしておいてくれ」

団長の言葉にアルベルトを含めた隊長たちが頷いて会議は終了となった。

会議室を出てそのまま黒騎士隊の部屋に戻ると部下達は訓練のために訓練場にいるため、部屋は静かなものだった。

「どうでしたか?」

部屋にはリックス1人だけがいた。アルベルトが戻ってくるのを待っていたようだ。

「まだ何もわからない。領地からの報告が出そろった時点で遠征先を決めていく。毎年と変わらない」

アルベルトが隊長に就いて3年になるが、同時にリックスも副隊長になって3年になる。遠征先を決める方法は毎年変わりがない。それを心得ていても、やはり気になるものだろう。

会議では夏の今の状況を踏まえて秋の遠征を決めていく。緊急性がない限り今の時期は落ち着いていられる。

秋の遠征は冬から春までの予定をも決めると言っていい。

この国では冬に雪が降ることはあまりない。国の北側には山脈がそびえ立っていて、山頂では雪が降り白くなっているのを毎年見るが、麓までには及ばない。雪のない平野の多いイズベルド王国では年中魔物討伐が行える。

冬に関しては気温の関係なのか、魔物の発生率が不思議と下がるため夏の魔物の状況を見て、秋の討伐に力を入れることが多いのだ。それが終われば、冬もまた緊急の要請がない限り遠征は少なくなる。そして春にはまた魔物の動きが活発になるため、秋に行かなかった場所に行くことが多い。時々入る緊急要請を除けば、1年間のスケジュールは夏に決められているのだ。

「とりあえずは例年と変わらないと思っておいていいだろう」

今のところではあるが魔物の大量発生という報告は上がってきていない。

春の遠征で魔気に侵食されたドラゴンに出くわしたことがあったが、怪しい動きをしているドラゴンがいるという報告もそれ以降聞いていなかった。

「次の遠征では、経験を積んだ浄化師をつけてもらえるように神殿に申請はしておいたから何とかなるだろう」

ドラゴンに噛まれたことで魔気を体内に取り込んでしまったアルベルトはその苦しみを身をもって経験した。一緒にいた浄化師は経験が浅く、魔気を完全に取り除けるほどの実力がなかった。魔術師団長のイグナスがリリアを連れてこなければ命はなかっただろう。

リリアのことはすべて伏せられ、同行した浄化師に関してはイグナスとフィルが上手く誤魔化してくれたらしい。そのため神殿にはイグナスが連れてきた浄化師のことは報告されていないという。アルベルトの浄化は上手くいったことになっているのだ。

アルベルトからは経験が浅すぎて苦労したので、もっと経験豊富な浄化師を頼みたいと神殿に要望しておいた。またドラゴンが出てくる可能性は低いだろうが、しっかり浄化できる人間を同行させてほしいのは本音だ。

「しばらく遠征がないのなら、婚約者と会う時間が増えてよかったのではありませんか?」

机に積まれた書類の片づけをしようと伸ばした手が止まった。

「なんだ、急に」

「深い意味はないですよ。ただ、皆初めて隊長の婚約者と話ができて嬉しかったようです」

短い会話ではあったが、夏の夜会に参加したことで黒騎士隊にリリアを紹介したことを示している。あの場にいなかった部下たちも、会話をした黒騎士たちから話を聞いたという。

目が不自由だということは事前に伝えてあったので、そこを気にする者たちはいなかった。それ以外のリリアの人となりを知りたいと思っていたようだ。

「私の印象では、周りを包み込むような穏やかな雰囲気の女性に思えました。自分を推してくる他の貴族令嬢とは違いますね」

どれだけ自分が美しく価値があるのかを全面にアピールしてくる令嬢が多い中、リリアは欲がなく穏やかな雰囲気が印象的だ。アルベルトを惹きつけた一番の部分だろう。

「あまり外に出てない分、家族に大切に育てられたんだろう」

主張しない分一歩下がってすべてを受け入れてしまうところがあるように思う。そのためアルベルトは正式な婚約者になってからもリリアから何か物を要求されたことがなかった。もう少し甘えることを覚えてくれたらいいのにと思ってしまう。

「会えなかった部下たちは是非会ってみたいと思っているようですし、夜会に参加した部下も今度はゆっくり話がしたいと思っていますよ」

大勢でいきなり押し寄せてきたらリリアは確実にたじろぐ。容易に想像できたので、黒騎士隊に連れてくることはやめておこうと密かに思った。

それよりも2人で出かける時間を作った方がいいだろう。

演奏会に行かないかという話が実は出ていたが、都合がつかずに保留になっていた。日程を調整して出かけることにしようと思う。耳で楽しむものならお互いに分かり合えることも多いだろう。

「部下達との面会は後々だな。それよりも俺がリリアと一緒にいる時間を増やすべきだろう」

目が不自由でも外に出ることでいろいろな経験を積むことはできる。

また出かけるときは贈り物を考えたほうがいいだろう。

今後の予定を考えながらアルベルトは1人溜まった書類に目を通していくのだった。


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