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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
夜会と新たな一歩
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婚約者としての一歩

はっきり言って予想外の展開だった。

名を呼ばれ会場に入った瞬間、大勢の視線がこちらに向けられる。

アルベルト=ウォルスターに注目しているというよりも、その隣に立つ婚約者への視線が多かったと思う。しかし、目が不自由なリリアはその視線に気が付いているのかいないのか、平然とした態度で寄り添っていた。

その様子に内心ほっとして前に進むと、すぐに黒い軍団に取り囲まれるという現象に陥った。

全員が黒騎士隊の正装に身を包んだ部下達だ。

「初めましてリックス=オルフェニアといいます。黒騎士隊で副隊長を務めています」

「副隊長様ですか。フラクトル伯爵家のリリア=フラクトルです」

最初に声をかけてきたリックスにリリアは微笑みながら挨拶を交わす。すると、他の隊員達からどよめきが起こった。

「び、美人の微笑みは価値があるな」

「うわぁ、隊長が羨ましい」

「俺にも微笑んでほしい」

一斉に言われたためリリアはきょとんとした顔でこちらを見上げてきた。どう返せばいいのか戸惑っているのが表情から読み取れる。

「初めましてフラクトル令嬢。私は黒騎士隊のミライヤ=スティードです。黒騎士隊で唯一の女性騎士をしています」

「まぁ、黒騎士隊に女性騎士様がいたのですね」

普段仕事の話をしないため、黒騎士隊にどんな人物が所属しているのか知らなかったリリアは女性騎士がいることを想像していなかったようで驚いている。

「女性とはいえ黒騎士隊に所属しているのですから、相当お強いのでしょうね」

「力では勝てない部分も多いですから、機敏さを武器にしています」

力勝負では他の騎士に劣ることも多いミライヤだが女性らしいしなやかさと俊敏さを武器に、力で押してくる相手を受け流して懐に入るのが得意だ。そこを評価されて黒騎士になった逸材なのだ。

男性ばかりの黒騎士に囲まれて緊張していただろうが、ミライヤが話しかけるとリリアの表情が少し和らいだように思えた。

その後ろで次は自分が名乗るのだと待ち構えている部下達が目に入った。夜会に参加した黒騎士は6人。残り4人とも話をしていては先に進めなくなるので、アルベルトはリリアを引き寄せて話を打ち切った。

「先に王太子殿下に挨拶をしてくるから、お前たちとの話は後だ」

「そ、そんな。せっかく会えるチャンスだと思っていたのに」

「どんな婚約者なのか隊長全然話してくれないから」

リリアに仕事の話をしないように、部下達にも婚約者の話をほとんどしていなかった。そのためどんな相手なのかずっと気になっていたようだ。

夜会に参加することは前もって話していたので、会えるチャンスだと思っていたらしい。

「これが最後じゃないんだから」

夜会に参加したときは必ず主催者に挨拶をするのが礼儀だ。今回は王太子妃が主催者になる。

イズベルド王国の第1王子でもあるマリウス=イズベルド。その妃であるローズ=イズベルド。

主催者は妃だが、パートナーである王太子も一緒に参加する。2人は会場の一番奥にある少し高くなった場所で会場を見下ろしながら参加者たちが挨拶に来るのを出迎えていた。

アルベルトもリリアを連れて挨拶のための列へと並ぶ。

「王太子殿下と妃殿下に会うのは初めてか?」

「デビューは冬の夜会でしたし、2回目の夜会も3か月前の春の夜会です」

冬は国王が主催し、春は王太子主催になる。春の夜会には兄のレイルと一緒に参加したが、その時に挨拶をしている。だが、その時はただの伯爵令嬢なので、どこまで王太子が覚えているのかわからない。今回はアルベルトの婚約者としての参加になる。

「私、どこか変ではありませんか」

緊張してきたのか急におろおろするリリアに、アルベルトは上から下まで視線を滑らせてから大事なことを言っていなかったことに気がついた。

「問題ない。とても綺麗だよ」

耳元で囁けば、途端に顔が赤くなる。

「あ、ありがとうございます」

小さな声で礼を言いながら俯いてしまった。

「あれがウォルスター様の婚約者?」

「どうやって近づいたのかしら」

「美人に見えるし、お飾りで選ばれたんだろう」

並んでいると囁くような声が聞こえてきた。男女問わず、ここにいるほとんどの参加者がアルベルトが婚約したことは知っていても、リリア=フラクトルがどんな人物なのか知らないようだ。ほとんど外に出なかったリリアは他の貴族との交流もしていない。そのため夜会に参加したことで注目を浴びているのがわかる。

視線が突き刺さってくる。居心地の悪い感覚を持つが、目が不自由な分耳や気配で相手を察するリリアもそれは同じようだった。うつむいたまま列が進むのを待っている。できるだけ貴族たちの視界に入らないように、さり気なく彼女を引き寄せた。その密着ぶりに一瞬周囲がざわついたがそれを無視して彼女を護るように静かに列が進むのを待った。


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