疑問
結局隣に座ったまま、お菓子と紅茶で夕方近くまで話をしてしまった。
もうそろそろ義姉が戻ってくるはずだ。
「お嬢様。そろそろ」
時間を気にしたようで控えていたリリアの侍女がそっと声をかけてくる。
「もうそんな時間?」
終始楽しそうに話をしていたリリアは時間を忘れていたようにきょとんとした顔をしていた。
「メリーナお義姉様にご挨拶をしたかったけど、もう帰らないといけないみたいですね」
少し残念そうにする彼女に、アルベルトは苦笑を浮かべた。
「義姉も友人のお茶会で会話が弾んでいるんだろう。そんなに気にする必要はないよ」
リリアが来ることは事前に知っていた兄夫婦だが、兄は仕事で不在でも、義姉は屋敷に居ることができた。それを友人のお茶会に参加することで屋敷をわざと空けたのだと考えていた。
久しぶりの再会を2人にしてくれたのだ。帰ってくるのが遅いのも配慮だろう。
「また会う機会もあるだろう」
「そうですね」
アルベルトがいない間に彼女を屋敷に呼んでいたのだ。そんな話は聞いていなかったが、またアルベルトが不在の時に招待する可能性は大いにある。
再びエスコートするように腕を組んで玄関へと歩いていくと、馬車の前で立ち止まった。
「次はまた街歩きをするのはどうだろう?」
馬車に乗る前に次の約束を取り付けておくことを忘れてはいけない。
「行きたいところ、実はいろいろと考えているんです。今度は私が場所を考えますね」
遠征中にいろいろと考えてくれていたようだ。
負傷したことで休暇をもらっているが、急ぎの案件もないはずなので遠征もしばらくはないだろう。街歩きは思ったよりも早く実現できそうだ。
「それは楽しみにしているよ。予定を確認して連絡をするから」
「はい。お待ちしております」
リリアが微笑んだ。とても優しく嬉しそうなその笑みに、アルベルトは一瞬既視感を覚えた。前にもこんなことがあったような気がする。
「アルベルト様?」
静かになったことを不思議に思ったらしく、リリアが首を傾げる。
「もしかして、クッキーが合いませんでしたか?」
途端に近くにいた侍女の鋭い視線が突き刺さる。
「ああ、いや大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだ」
侍女の視線を無視して、口を手で覆ったアルベルトはもう一度リリアの顔を見た。
あの笑みに覚えがあった。
どこかで最近、同じように待っていると言われたような気がする。
そう思った瞬間、おぼろげな記憶の中から白い仮面が脳裏を過ぎ去った。
「どうして」
疑問の呟きは周りに聞こえることはなかった。
リリアが少し心配そうに眉を下げているが、それに応える余裕がない。
僅かな記憶だ。うっすらと目を開けた時に見た光景を思い出す。
魔気が体を蝕んでいたのが、すっと消えて楽になった。まだ意識がはっきりとしていなかったが、無表情の白い仮面がこちらを見て微笑んだような気がした。その笑みと今のリリアが重なったのだ。ありえないと思いながらも、心の奥で納得するように何かがぴったりとはまったような感覚がある。
「リリア嬢」
「はい」
「・・・いや、何でもない。気を付けて帰ってくれ」
確かめたい衝動に負けて声をかけたが、変なことを言い出した男だと思われるのは嫌だと思い、すぐに首を振ってやめることにした。
そっと手を取ってキスをする真似をする。それが終わると、リリアが顔を寄せてきたので、アルベルトは少し屈んだ。
頬に触れる寸前で彼女の顔が離れる。前回は失敗して触れてしまったが、今日は距離が掴めたようだ。リリアは満足しているような表情をしたが、少し残念に思っている自分がいる。
大きな疑問を胸に仕舞って、アルベルトはリリアを乗せて去っていく馬車をしばらく眺めることとなった。




