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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
秘密の浄化師
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来訪者

「暇だな・・・」

朝起きて久々に兄夫婦と朝食を取ったものの、兄は仕事で登城し、義姉は友人とのお茶会に呼ばれて出かけると、途端にアルベルトはすることがなくなってしまった。とりあえず久しぶりに庭の散歩をしてみたが、それもすぐに飽きてしまい自室に戻ったもののやはり暇であることに変わりない。

体は問題ないのだから、すぐにでも仕事復帰をしようと考えていたところ、第3騎士団長からしばらくの休暇を与えると手紙が届いてしまった。

先に戻って来たアルベルトだが、遠征組もすぐに村を出発し、すでに王都に戻ってきていた。そこでアクトとミライヤから状況の報告をされたらしい。

怪我も治って魔気も浄化されていることは知っていても、さすがにすぐ復帰させるわけにはいかないと判断したようだ。すぐに次の遠征があるわけではないため、黒騎士隊が動くこともない。それを考慮しての休暇だ。

その後すぐに黒騎士隊の副隊長をしているリックスからも手紙が届き、アルベルトの負傷に隊全体が動揺したが今は落ち着いて仕事をしているから問題ないと書かれていた。大きな問題もないため、団長の指示通りに休んでほしいとも書いてあった。重要な案件があった場合はリックスがウォルスター家に直接訪ねるとも追記してあったので、アルベルトは何もすることがなくなってしまったのだ。

「みんなで気を遣いすぎだろう」

ため息が出る。このままでは暇すぎて気が狂うのではないかとさえ思えてくる。そう考えると、自分はどれだけ仕事に打ち込んでいる時間が多かったことかと気づいてしまった。

休みも当然与えられていたが、特にすることがない日は結局黒騎士隊に足を向けて書類整理をする日もあった。一緒に誰かと出かけることもほとんどなかったのだ。

そう考えると、最近出かけたのは遠征前にリリアとの街歩きをした時だった。

「そういえば午後から彼女が来ると言っていたな」

アルベルトが目を覚ました2日後、リリアから手紙が届いた。怪我の心配と無事に目を覚ましたという知らせを聞いた時の安堵が書かれていた。お見舞いに行きたいのだが行っても大丈夫かとも書かれていたので、すぐにいつ来てもいいと返事を出しておいた。すると今日の午後に来るという内容で返事が来たのだ。

暇を持て余していたので、訪ねてきてくれるのはありがたい。それにリリアにも随分と心配をさせたことだろう。元気な姿で会うべきだとも思っていた。

昼食は部屋で食べることにし、リリアが尋ねてくるまで再び暇だと思いながら部屋で過ごしていた。

「フラクトル伯爵令嬢様がお見えです」

執事が知らせに来たことで、アルベルトはすぐに玄関へと向かった。

ちょうど玄関の前に馬車が横付けされたところだった。扉が開けられると、先に侍女が姿を見せる。その後侍女の手を借りてリリアが降りてくるはずなので、アルベルトは侍女に近づいていき視線だけを送った。すぐに気が付いてくれて心得たように体をずらして馬車の前を開けてくれた。

優秀な侍女だと思っていると、馬車の中から探るように手が伸ばされる。

不安そうに見えるその手を支えるように取ると、一瞬手が震えたのが伝わってきた。

「・・・アルベルト様?」

「よくわかったね」

馬車から顔を出した状態で彼女が動きを止める。

「お怪我はもう平気ですか」

ここでそれを問われると、どれだけ心配させていたのか実感してしまう。

「大丈夫。あなたをエスコートするくらい平気だよ」

そう答えると、リリアはほっとしたように笑みを浮かべた。

「お元気そうでよかったです」

アルベルトの手を借りて馬車から降りると、そのまま腕を組んで屋敷へと案内する。

エスコートされているとはいえ、初めて来たはずなのに彼女は迷いを見せることなく歩いていた。不思議に思っていると、歩きながらその答えを口にした。

「アルベルト様が遠征中に、メリーナお義姉様に招待していただきました。2回も来ているので、少しだけ慣れた場所になっているんです」

悪戯がばれた子供のような表情で笑う。義姉はちゃっかりリリアと親睦を深めていたようだ。

「あ、そうだわ。アルベルト様にお見舞いの品を持ってきたんです」

馬車を降りてそのまま部屋へと案内したため、彼女の荷物をそのままにしてしまった。リリアが振り返ると、あとを追って来ていた侍女が両手で抱えていた箱をアルベルトの前に差し出した。

「何がいいのか悩んでしまったんですが、私にできることをしてみました」

箱を受け取り確認すると、開けた途端に香ばしい匂いが鼻につく。

「これは、クッキー」

「私の手作りです」

前にもカップケーキをもらったことがあったが、今度はクッキーを作ってくれたようだ。だが、一つ疑問が残る。

「これをリリア嬢が自ら作ったのか?」

彼女は目が不自由だ。まったく見えないわけではないというが、物をはっきりと捉えることができない。ぼんやりとした視界で、料理などできるものなのだろうか。

「材料と分量は料理長が用意したものを、混ぜたり捏ねたりするのは私が担当します。型抜きもしますよ」

意外と自分でやっていることに少し驚いてしまった。ほとんどの作業を料理長がしていて、少しだけ手を出す程度だと勝手に思っていたのだ。それを手作りだと言っていると勘違いしていたことが、今さら恥ずかしく思ってしまう。

「今回は使っていませんが、ナイフを使って皮をむいたり、刻んだりもしますよ。その時は必ず料理長がいるのが決まりですけど」

「そんなこともできるのか」

「指先の感覚でやるんです」

アルベルトの心情を察知したようにリリアが説明してくれた。疑うような発言に聞こえていれば不快に思ったはずなのに、彼女は楽しそうにクッキーを作った時のことを話してくれた。

再び歩き出した背後で、侍女の突き刺さる視線を感じたが、それは無視しておくことにする。

客間に到着すると、3人掛けのソファの真ん中にリリアを座らせ、持っていた箱を近くにいた侍女に渡して、すぐに食べられるように用意してもらうことにした。

向かいのソファに座ろうとすると、リリアがおずおずと声をかけてきた。

「アルベルト様」

「どうした?」

「差し支えなければ、隣に座っても?」

急な申し出に一瞬固まってしまった。婚約者なのだから隣同士で座ることに差し支えることはない。だが、まだ数回しか会ったことのない間柄だ。あまり親密すぎる接近は控えていてもおかしくない。

どうするべきか少し考えている間に、リリアが慌てたように口を開いた。

「あの、遠征中にお怪我をしたのですよね。もう治ったと聞きましたけど、やっぱり心配で、その・・・」

だんだん声が小さくなっていく彼女を見て、なんとなく言いたいことがわかった。

座ろうとしたソファを離れると、リリアの右隣に腰を降ろした。座った気配に彼女が少し驚いた顔を向けてくる。

その手を取って自分の左腕に触れさせた。

「左腕を負傷したが、遠征に同行していた浄化師の回復で傷は治っている」

怪我をしたことを心配し、本当に大丈夫なのかを確認したかったようだ。そう考えて噛まれた腕を触らせた。完治した腕に触れても痛みなどない。

「痛くないですか?」

「大丈夫」

「よかった」

視線は肩のあたりを捉えているが、その表情は安堵に満ちていた。

「安心したならお菓子をどうぞ。俺はもらったクッキーをいただくよ」

メイドが皿に移し替えて持ってきたクッキーがテーブルに置かれる。リリアにはすぐ近くのマカロンを皿にとって渡してあげた。

一口食べておいしいと喜ぶ顔を見ると、アルベルトの心も穏やかで温かいものに満たされるのを感じていた。


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