目が覚めると
アルベルトの意識が戻った時にはすでに王都に戻っていた。
目が覚めた時、見覚えのある天井と周りを確認して、ウォルスター公爵家の自室だということはすぐにわかった。
だが、自分がどうしてここにいるのかわからない。
しばらく呆然と天井を見つめていると、静かに部屋の扉が開き侍女が1人部屋に入ってきた。
そちらを向くと同時に侍女と目が合う。
「ア、アルベルト様」
驚いた侍女が一瞬固まったが、すぐに何かを思い出したように何も言わずに部屋を出ていった。
数回瞬きをしたアルベルトはとりあえずにベッドから出ることにした。
着替えをしようとクローゼットまで歩こうとしたところで、廊下からバタバタと複数の足音が聞こえてくる。かなり慌てているような歩き方に扉へと視線を向けた瞬間、いきなり扉が勢いよく開かれた。
「アルベルト!」
先頭で入ってきた兄の声にこちらが驚いていると、次々に侍女や執事、義姉まで押しかけてきた。
「目が覚めたのか」
「起きていて大丈夫なのですか?」
「痛いところはございませんか?」
「体は平気なの」
次々に繰り出される質問に何も答えられず固まっていると、兄が近づいてきてアルベルトの頭からつま先まで観察するように見てから、ぱんと手を打った。
「アルベルトは大丈夫なようだ。皆ひとまず部屋を出なさい。アルも状況がわかっていないようだから、着替えを済ませたらゆっくり話をした方がいいな」
部屋に入ってきた団体を一度落ち着かせて部屋から出るように指示すると、兄であるクリステッドは着替えを済ませるようにアルベルトにも言ってきた。
「ずっと寝ていたから空腹だろう。食事を用意させる」
「その前に簡単な説明をしてもらえるとありがたいんだが」
皆が部屋を出ていくのを見届けながら、クリステッドが出ていく前に腕を掴んだ。
「なぜ俺はここにいる?」
遠征に行き、レッドウルフを倒すとドラゴンと戦うことになった。ミライヤを庇ってドラゴンに噛みつかれ、頭を1つ失った赤いドラゴンは夜の草原へと姿を消した。そこまでの記憶は残っているがそれ以降はあやふやだ。
所々うっすらとした記憶はあるのだが、あまりよく思い出せない。
目が覚めたら寝間着でベッドに寝ていた。どうなっているのか何もわからない状況だ。
「遠征でのことは詳しく聞いていないから私にはわからないが、昨日突然お前の部下がお前を担いでやってきて、負傷したことを伝えてきた。怪我は治っているが、しばらく休ませてほしいと言われて、ベッドに寝かせて帰っていったんだ」
状況を思い描くとクリステッドにとっては衝撃的なことだっただろう。詳しい状況がわからないまま、いきなり弟を連れて押しかけてきた黒騎士に驚きながらも、ベッドを提供することになった。運ばれたアルベルトは意識がないし、黒騎士たちは何も説明をしないまま公爵邸からを去っていったという。
その状況を思い浮かべると申し訳ないと思うしかない。
「詳しい話は本人が目を覚ましてから話してくれるだろうと言って帰ってしまったから、私も良くわかってない。お互いの情報を共有する必要があるだろうな。必要ならお前を運んできた黒騎士に連絡を取ることもできるが」
「部下達も心配はしていると思うが、まずは自分の状況を把握しておきたい。それにまずは食事が先だろうな」
レッドウルフとの戦いの前に軽い食事をしたきりだった。話をしながら空腹を感じてきていた。
「空腹を感じるということは元気な証拠だろう。体に問題がないのなら着替えなさい」
そう言ってクリステッドは部屋を出ていった。
とりあえず兄に言われた通り着替えを済ませると、それを見計らったように扉がノックされ、返事をすると侍女が食事を乗せたワゴンを押してきた。
「まだ万全ではないでしょうから、お食事はお部屋でと旦那様から伺いました」
食堂で準備されていると思っていたが、アルベルトの体を気遣って部屋に運んでくれたようだ。
ベッドの横にワゴンを横付けしてもらい、ベッドに腰掛けて食事をしていく。
その際、アルベルトは左腕に違和感がないことに気が付いた。
自分の腕はドラゴンに噛みつかれたはずなのに、なんの痛みもない。怪我が完全に治っている。
先ほどクリステッドも体調に異変がないと判断していたし、運んできた部下達が怪我は治っていると伝えてきたと聞いた。
同行していた浄化師が治療をしてくれたのだろう。
左腕を擦っていると思い出したことがあった。
高熱で体がつらかった時に、部下と浄化師が会話をしていた。あの時自分はドラゴンに噛みつかれたことで、ドラゴンが持っていた魔気を体内に取り込んでしまい、その浄化が上手くできないと言っていたような気がする。別の浄化師を手配するとも言っていた。
「別の浄化師」
怪我は同行した浄化師が治してくれたのだろうが、魔気の浄化は別に手配した浄化師が行ってくれたのだろう。
誰が来たのか後で部下達に確認する必要がある。
そんなことを考えながら食事をしていると、すべて消化に良さそうな柔らかい食べ物ばかりだということに気がついた。
腹に入っていく食べ物が、身体に染みわたっていくような感覚に、最後の食事から時間がかなり空いたのだろうと推測できる。
ドラゴンに噛まれて倒れてから休まずに急いで戻ってきても、5日はかかったはずだ。その際意識がもうろうとしながらも何かを口にしていたのだろうか。もし何も食べていなかったのなら餓死せずによく無事でいられたなと思ってしまう。自分の生命力の強さに感動するしかない。
そんなことを考えながら食事を済ませたアルベルトは、軽く体を動かして思った以上に動ける体を確認すると、クリステッドが待っている部屋へと移動した。




