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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
ピリカの魔女と聖女
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魔気溜まり

黒い木々が立ち並んでいた場所がまっすぐに一本の道へと変わる。

炎の熱がまだ残る道をリリアは駆け足で抜けていった。もともと体力がある方ではないので、周りがそれに合わせてくれている。これ以上速く走ると魔気溜まりの前で息が切れてしまう。体力の温存も兼ねて急ぎすぎないことを意識して走った。

後方では黒騎士たちが魔物を退けてくれている。前方は叔母が切り開いてくれ、横から出てくる魔物をアルベルトとフィルが片付けていく。出来上がった道に淀む魔気をケインが浄化するという誰も話し合いをしていないにも関わらず役割がわかっているように動いていた。

「恐ろしいぐらいに息がぴったりね」

道を開いたセイが感心したように呟くのを聞いて、リリアも内心で頷いていた。

「どれくらい近づけば魔気の浄化ができる?」

離れることなくすぐ隣にいるイルスが道の先に見える魔気溜まりを見つめながら質問してきた。

今リリアの周りにいる者たちは全員リリアの正体を知っている。黒騎士たちは後方で魔物と戦っているためこちらを気にする者はいない。小声であれば答えることができると判断しての質問だった。

「ここからでも大丈夫だけど、魔気全体の把握をしたいから、もう少し近づきたいわ」

浄化をするにも魔気溜まりの規模を把握しておきたい。もっと近くで魔気の様子を確認したかった。

残っている木々の隙間からも奥は覗けるが、暗い影が漂っているように視える。魔気溜まりは想像するよりも大きなものになっている可能性がある。

「魔気の濃さも高いようだし、浄化に少し時間がかかるかもしれないわ」

魔物が発生するほどの魔気の凝縮だ。魔物の発生数も考えると、ずっと放置されてきたことで魔気が濃さを増していったのは明白だった。今までの聖女たちは森全体に漂う薄い魔気を浄化して、奥に潜む魔気溜まりまでたどり着いた者はいなかったのだろう。

このまま放っておけば、さらに魔気が凝縮してもっと強い魔物が発生する可能性だってある。できるだけ魔気の浄化をしておくべきだと思った。

「無理はしちゃ駄目よ。ある程度の浄化でいいの。あとは神殿の浄化師に任せておけば何とかするでしょう」

「なかなかひどい言い方しますね」

セイが神殿の浄化師に丸投げしそうな言い方をすると、その神殿に所属しているケインが口元を引きつらせていた。彼も強い浄化の力を持っているが、目の前の魔気溜まりをすべて浄化するのは相当大変なはずだ。

「もともと神殿が選んだ聖女のせいでこんなことになっているのよ。こちらの協力に感謝されても、文句は受け付けないわ」

突き放すように言われてケインが困ったようにリリアを見た。その視線ができるだけ浄化をしてほしいと訴えてきているのがわかるが、ピリカの浄化師としてここへきている以上、素直に頷いてあげることはできなかった。視線を逸らすとショックを受けたような表情をしていた。

会話をしながら進んでいると、不意にリリアは背筋にひやりとした感覚がして足を止めた。

「どうした?」

先を進もうとしたアルベルトが動きを止めたリリアを振り返る。その目が心配そうに見つめてきた。リリアがここにいることを理解はしてくれているが、やはり戦闘に加わることに不安と心配があるようだ。

「嫌な感じがする」

リリアが口を開くよりも先にケインも気が付いたようで警戒するように周囲を見渡した。

ケインは何となくという感じのようだが、リリアはその嫌な感じがどこから来るのかを察知していた。じっと視線を地面に向ける。

何の変哲もない地面に視えるのだが、明らかに魔気が地面の奥に浸み込んでいるのがわかった。ここから先に進めば進むほどその濃度が濃くなっていくのを感じる。

これは予想以上に深刻な魔気の侵食を受けている。

この森の木々が魔物化したのも、空気中の魔気からの侵食だけでなく地面を通して根からの侵食もあったのだろう。動くことのできない植物は早い段階で魔物化していた可能性が高い。

「これ以上は進むと危険です。浄化はここから行います」

魔気溜まりまでは少し距離があるが、侵食された地面を踏みしめていくのは何が起こるかわからない。浄化師は自然と魔気が体内に入ろうとするのを力で退けることができるが、それ以外の人間はこれ以上進むと魔気の侵食を受ける可能性がある。

ここからは浄化師リリアの仕事だ。

目を閉じて呼吸を整える。

「みんな後ろに移動して。ここからはあたしたちの役目よ」

ゆっくりと呼吸を繰り返している間にケインが指示を出していく。

瞼を開けた時、その先に魔気が淀むのが視えた。心を落ち着かせて静かに視ていると、ゆっくりとアルベルトが近づいてくるのがわかった。彼は何も言わなかったが、じっとリリアを見つめてすれ違いざまに彼の指先がリリアの手の甲を撫でていった。

大丈夫だと言われたような気がする。

今は婚約指輪をしていない寂しい指になっているが、指輪は鎖に通して首から下げている。触れられた手でそっと胸元に触れてみた。

勇気をもらい背中を押されたと思う。

「大丈夫」

言葉にしてからもう一度魔気溜まりを見据えた。

「さぁ、始めましょうか」

ケインがすぐ横に並び立ってくれたことで浄化を始める合図となった。

ゆっくりと両手を広げたリリアは全身から浄化の力を溢れさせるように力を解放していく。

広がる眩い光に飲み込まれ、その光を魔気溜まりに向かって放った。

光の波が回りの魔物や木々を巻き込んで魔気へと押し寄せていくと、溜まっていた魔気が一気に薄らいでいくのを感じた。

そのまま光の波を押し込むようにリリアは浄化の力を注ぎ続けた。


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