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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
ピリカの魔女と聖女
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戦闘開始

聞いたことのある声に、アルベルトはまさかという思いで顔を上げた。

黒いローブに身を包んだセイとイルスはフードを被っていなかったので顔が丸見えだ。

何事もなかったように周囲を確認している。その後ろに淡い水色のローブを纏った人がいた。こちらはフードを被ってはっきりと顔が見えない。それでもアルベルトはそのフードの中から覗いた白い仮面を見た瞬間、誰がそこにいるのか理解した。

「あっ・・・」

小さく漏れた声は誰にも聞こえることなく空気に溶けてしまう。

「このまま魔気溜まりまで一気に道を作りましょう」

「浄化はさすがにできないから任せるしかないな」

「全部片づけちゃ駄目よ。あたしたちの力を誇示するのが目的だから。適当に浄化しておいてね」

誰もが状況を呑み込めずにいる中、セイとイルスが軽い雰囲気で会話をしているのが聞こえてきた。それを聞いていた白い仮面のリリアは苦笑している。

そこにいたのはアルベルトの婚約者であるリリア=フラクトルだ。

顔を隠していても、はっきりと彼女だとわかった。

「隊長」

呆然とするアルベルトにリックスが声をかけてくる。

「彼らは・・・」

魔物化した木々を焼き払ったのはセイだと考えられる。これがピリカの魔女の実力なのだろう。セイとイルスに会ったことのない部下達は困惑しても仕方がない。

「ピリカの魔女だ。女性の方がピリカの長の代理をしているセイ=ニホロ=ピリカで、男性が息子のイルスだ。もう1人は」

リリアの正体を言うわけにもいかずどう説明するべきか口をつぐんでしまうと、リックスはアルベルトも誰なのか知らないのだと判断したようだった。

「3人ともピリカの者ですね」

一応納得してくれてありがたい。

なぜピリカの魔女がここへ来たのか。リリアが一緒にいるのはなぜなのか。わからないことだらけのまま見つめていると、白い仮面がこちらを向いた。

思わずドキッとしてしまう。視線がはっきりと合ったのだ。普段決して合うことのないリリアの視線がアルベルトを捉えているのがわかった。声を出しそうになるのをぐっとこらえてアルベルトは一歩前に出た。

「なぜここに」

質問をしながらも白い仮面のリリアから目が離せなかった。リリアは何も言わずにそっと口元に笑みを作るだけだった。それだけで彼女の意図を察することができた。今は何も語ることができないと。

視線だけの会話をしたアルベルトはセイを見た。

「少し様子を見に来ただけよ。困っているようだったから、少しだけ手を貸してあげただけ」

セイの何気ない言葉に少し困惑する。ピリカは契約破棄によって北の森の結界を解いてしまった。もう関係ないのだと無視していると思っていたのに、ここで手を貸してくれることが不思議だった。

「あたしたちの力がなくなっただけで、随分とお困りのようね」

どう反応すればいいのか迷っていると、急に彼女が蔑むような視線を向けて言ってきた。

その言葉に部下達が敏感に反応する。剣こそ構えなくても不快な気持ちになったのは伝わってくる。

「くそっ、魔力が強い魔女だからって好き勝手言いやがって」

タクスが吐き捨てるように言う。それに対してセイはさらに煽るような言い方をしてきた。

すると隣に立っているイルスが呆れたように母親を窘めていた。どうやら黒騎士たちを煽って楽しんでいるのだと判断できた。こんなところでそんなことができるのだから、よほど余裕があるのだろう。

不快に思うよりも感心してしまう。

そんなことを考えていると、遠くから爆発音が聞こえてきた。それは1つではなく別の方向からも違う音が響く。

セイが同じように遠くを見て他の魔女が戦っていることを言っていた。森に入ったピリカの魔女は他にもいるようだ。彼女たちもアルベルト達と同じように森に入っている騎士隊を見つけて魔物を一掃してくれているらしい。きっと同じように魔女としての格の違いを見せつけているのだろう。

「さて、あたしたちも続きと行きましょうか」

小さな火を手のひらに載せる。リリアがすぐ後ろで構えるとイルスがそれを止めた。

彼女は浄化師として魔気を浄化するために来たようだ。魔気溜まりの浄化を優先するために、周りに漂う魔気は無視することにした。

準備が出来たセイが片手を高く掲げた。

すると、焼き払われなかった木々の間から魔物がぞろぞろとこちらに向かってくるのが見える。

攻撃を再開することを察知した魔物が動きを見せたのだ。

「魔女たちの援護をする」

アルベルトは咄嗟にそう言うと、魔法を放とうとするセイを囲むように指示を出した。突然の指示にも関わらず黒騎士たちは一斉に動いた。

アルベルトはセイの横につくと、彼女は少し驚いた顔をしたものの口元に笑みを見せた。

「魔気溜まりはあたしたちに任せることにしたのかい?」

見下すような言い方をわざとしてくるが、アルベルトはそれには反応せずに別のことを言った。

「このまま黙って見ていては、黒騎士の恥になります」

これは事実だ。ピリカの魔女だけにすべてを任せて呆けていては騎士の中でも精鋭部隊の黒騎士としての誇りに傷をつけることになる。木の魔物をセイたちが片付けるにしても、アルベルト達も戦いに参加するべきだ。

「それならあれを片付けてちょうだい」

アルベルトの意図を察したのか、周りを囲うように現れたぶよぶよの魔物に顎を向けた。

「木を焼き払って道は作るけど、外野は無視するから任せるわ」

「了解です」

素直に頷くと、満足したように彼女が頷き返す。

「魔女たちに魔物を絶対に近づけさせるな」

アルベルトの指示に黒騎士たちが一斉に動く。木の魔物に近づくと枝の鞭が飛んでくるので、焼き払われて更地となった場所にぶよぶよの魔物をおびき寄せて戦う。彼らに任せておけば大丈夫だと判断していると、ケインとフィルがリリアへと近づいていった。彼らもリリアの正体には気が付いていた。しかし、その前にイルスが立ちはだかる。

無言で背中にリリアを隠すように立つと、2人と対峙した。

リリアの正体を知っているとはいえケインたちも下手なことが言えない。そのためリリアに声をかけることが出来ずに立ち往生する羽目になった。

すると、イルスの肩をリリアがそっと掴んだ。驚くイルスに頷くと、そのままケインの前まで歩く。

言葉は一切発しないが、リリアは魔気溜まりに向かって指をさした。ケインがそちらを向いてから頷く。何も会話をしていないのに、2人の間でするべきことが決まった瞬間だ。

「俺は彼女しか護らないぞ」

残されたイルスがフィルに話しかけている。彼はリリアの護衛役のようで、他の者を護るつもりがないことを伝えた。それを聞いてフィルは肩をすくめるだけだったが、この2人の役目も決まったようだった。

「決まったなら始めるわよ」

ずっと手を掲げていたセイが呆れたように確認してくる。いい加減攻撃をしたいのだろう。アルベルトが頷くと手のひらの炎が大きくなった。

「もうひと暴れといきましょう」

それを合図に炎が放たれ、森が赤く染まっていった。



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