参戦
「こんなもんか」
「2人でやればあっという間ね。楽なのは助かるわ」
炎と風の魔法で広範囲に一気に燃やし尽くす光景は圧巻だ。
黒騎士たちを避けながらその周囲を炎が駆け巡る。風の力も借りて勢いを増した火か木々を焼き尽くしていった。
その赤い世界にリリアは言葉を発することが出来ず、ただ茫然と炎を見つめてしまった。
炎の中にはキラキラと小さな光の粒が混ざっている。それはリリアが同時に放った浄化の力の粒子だ。炎と一緒に風に載せて森の中を広がった浄化の力が空気に溶け込むように漂っている魔気を同時に浄化していく。
炎が消え辺りに砂と化した魔物の残骸が視えると、漂っていた魔気も消えていた。
空気が正常に戻ったことに安心すると同時に、森を焼き尽くしたピリカの魔女と魔術師は呑気な声を発して会話をしていた。
「このまま魔気溜まりまで一気に道を作りましょう」
「浄化はさすがにできないから任せるしかないな」
「全部片づけちゃ駄目よ。あたしたちの力を誇示するのが目的だから。適当に浄化しておいてね」
リリアへの注文に苦笑するしかない。目の前に魔気が存在するのに、それをすべて浄化できる力があるにも関わらず、敢えてすべて浄化してはいけないというのは浄化師としては残念な気持ちになる。だが、ピリカとしての決定を勝手に覆すこともしたくない。
複雑な気持ちを抱えながらも頷くと、炎が消えて魔物がいなくなった場所にいた黒騎士たちが立ち上がるのが視えた。
その中に知っている顔を見つけて思わず口を開きそうになった。それをぐっとこらえて声を呑み込む。
アルベルトの無事な姿に安心しながらも、今の自分は近づいていけない。今はピリカの浄化師としてここにいるのだから。そう言い聞かせながらも彼の姿を視てしまう。
顔を上げたアルベルトがこちらを見て驚いたのがわかった。
「なぜここに」
セイとイルスに会っている彼はピリカの魔女がここにいることに驚いているようだった。そして、リリアと視線が合う。仮面で顔を隠していてもはっきりと目が合ったのはわかった。
何か言いたそうに口を開いたがすぐに閉じてしまう。名前を言うことができないことを彼も理解してくれている。頷くこともできず、リリアはそっと口元に笑みを作るだけにした。
それだけで伝わったのだろう。アルベルトが視線をそらして無表情になる。
「少し様子を見に来ただけよ。困っているようだったから、少しだけ手を貸してあげただけ」
セイが散歩ついでのように言う。
「あたしたちの力がなくなっただけで、随分とお困りのようね」
蔑むような言い方をすると、黒騎士たちの表情が変わった。敵意とまではいかないが嫌悪しているのが伝わってくる。
「魔物に囲まれて苦しんでいる姿を高みから見ているのも悪くなかったでしょうね」
「くそっ、魔力が強い魔女だからって好き勝手言いやがって」
長髪の黒髪を後ろで束ねただけの青年が吐き捨てるように言う。黒騎士隊に行った時に会っているのだろうが、声と顔で判断できなかった。アルベルトと同じ青い瞳が怒りを含んでいる。
「あら、事実を言っているだけじゃない」
セイが勝ち誇ったように言い返すと、皆の顔が曇る。
「完全に悪の魔女気取りだよ」
隣で一緒に傍観していたイルスが呆れたように呟いた。わざと煽っているのだとわかっていたが、どうやらセイは楽しんでいるようだ。
リリアは言葉を発することができないのでイルスのローブを軽く引っ張って意思を伝えることにした。
もうそろそろいいのではないか?
イルスも肩をすくめて黒騎士をいびる母親に声をかけた。
「母さんその辺で。早く済ませて帰ろう」
「それもそうね。魔女たちも他の部隊を見つけたようだし」
言い終わる前に遠くで爆発音が聞こえてきた。別方向からは雷の音も聞こえる。他の魔女組が魔物と戦っているようだ。彼女たちも騎士隊を見つけて自分たちの力を見せつけながら、魔物を討伐するように指示が出ている。もしも魔気溜まりを発見した場合はセイに連絡が来て、リリアが浄化に向かうことになっている。今のところ魔物討伐が開始されただけだろう。
「さて、あたしたちも続きと行きましょうか」
軽く手を持ち上げるとその上に小さな火が灯る。
木を焼き払って進むつもりなのが一目でわかった。リリアも浄化の力を使おうとするとイルスに止められる。
「まだ使うな。あとは魔気溜まりで一気に解放したほうがいい」
空気中の魔気の浄化よりも黒い塊となっている魔気を浄化することを優先するべきだと考えたのだ。木々の隙間から見える魔気溜まりはリリア1人ですべて浄化できるかどうかわからない。力はできるだけ温存しておくべきだろう。
頷くとセイが片手を高く上げ宣言した。
「ピリカの力を見せてつけてあげる」




