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身代わり悪魔の悪くない仕事  作者: つきろ


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第7話 リアの恐怖1

時間は少し遡り、緊急会議が終了してから少し経った頃、第一皇女リアは自室に帰ってきていた。


自室といってもこの部屋を使っているのはここ一年弱だ。元々使用していたリアの自室は王族の寝所が入る棟の一室であった。


しかし一年ほど前に、別棟の最上階であるこの部屋に移動になった。周りに使用している部屋はといえば、自分の世話をしてくれる侍女たちが同時に引っ越してきたことくらいだ。たまに王宮魔術師がこの棟を使用することがあるらしいが、儀式の直前にならないとほとんど使われない棟であった。


そのため、この部屋には必要最低限の物しか置いていない。成人を控えた王女が住むには殺風景な一室であった。


そんな自室に帰ってきて、リアは難しい顔をして考え込む。先程の会議の内容を反芻していた。


侍女頭であるシャルロッテが、自分の命を救う目的で悪魔と契約をしてしまった。そのことに対してどうしても罪悪感を持ってしまう。


シャルロッテは自分が選んだ侍女である。この国には、王族は自分の従者になる人物を一人、自分で選ぶという習わしがある。齢8歳の時に城下町へ赴き、その時に出会ったのがシャルロッテだ。


入職した時から、第一皇女は成人を迎えたときに儀式によって邪神の生贄にされることはシャルロッテにはしっかり伝えてきた。


ここ最近のシャルロッテの態度も特段普段と大きく変わることはないと思っていた。自分としても、生まれた時から決まっている運命であるため、覚悟を決めてきたつもりだ。


シャルロッテをはじめほかの従者たちにも泣き言や弱音を言ったことはない。


正直なところ、生贄にされるといったことの具体性が分からないため、不安がないかと言われれば嘘になる。


それでも、リアなりに気丈にふるまってきたつもりであった。


そして、シャルロッテの契約と悪魔の登場により、自分の運命が大きく変わった。


生贄になるはずだった運命から、シャルロッテが契約した悪魔を身代わりの生贄にしてみてはどうかという提案が王宮魔術師からされたのだ。


最初こそ、大切に思っている侍女頭が拘束されている状況に不快感や怒りを覚えていたが、シャルロッテの願いを王宮魔術師が汲み取り、初めての試みをしてみようという流れで会議が終了したことにより、混乱が勝ってしまった。


覚悟を決めていた運命から、皆が救おうと躍起になってくれている。


混乱しない方が無理な話だ。


扉をたたく音が聞こえる。


「どうぞ」


扉に向かって返事をする。


「失礼いたします」


「シャル!」


入ってきたのはシャルロッテだった。


会議では縛り上げられ、椅子にも座らせてもらえず、床に膝をついていた侍女だったが、今は拘束を解かれたらしい。


会いたかった顔に思わず椅子から立ち上がる。


シャルロッテはリアの傍まで行くと深く頭を下げた。


「姫様、申し訳ありませんでした。誠に勝手なことをしました」


正直叱りつけたい気分だった。


悪魔と契約なんて恐ろしいことを、私の為にしないでほしいと。しかし、自分がシャルロッテを大事に思っているのと同じくらい、シャルロッテが自分のことを大事に思ってくれていることも、長年一緒にいて分かっていた。


「悪魔との契約を取り消しにはできないの?」


ようやく出た疑問はそれであったが、愚問であることも分かっている。


悪魔についての知識は全くないが、取り消しにしろと言われて聞く侍女ではない。


「取り消しができるかどうかはわかりませんが、私はするつもりはありません」


ほら。優しい雰囲気を持ち、時に気が弱そうな印象を受ける彼女だが、芯がしっかりしている。


「悪魔との契約って、あなたはどうなるの。悪魔はどんな人なの。あなたから説明してもらいたいわ」


先の会議だけでは疑問も多い。まずは状況の確認をしたい。自分の状況、シャルロッテの状況、悪魔の状況を。


「申し訳ありません、追って説明いたしますが、まず。お部屋のご移動をお願いしたく思います」


「え」


シャルロッテから意外な言葉が出た。この場所は周りに人もいない、話をするのにここ以上に都合の良い場所があるのだろうか。


「その、このお部屋を、アル…悪魔に使わせろとの指示が王宮魔術師から出まして」


この部屋は生贄になる者が儀式の前に使用する部屋だ。


「このお部屋には魔力を封じる力が施されているそうなんです。生贄になるのが悪魔に決まったため、悪魔にこの部屋を使ってもらい、姫様には、申し訳ないのですが、別のお部屋にご移動を、だそうです」


魔力を封じる部屋だとは知らなかった。そもそも魔力が何なのかも分からない。


先の会議で、儀式の生贄に第一皇女が選ばれる理由は魔力の高さ故だということを初めて知ることができた。それでいうと、自分は魔力が高いのだろう。


王宮魔術師のように魔力を行使して仕事に従事し生きている者には魔力の高さというのは重要になる。しかし、リアは生まれてこの方魔力というものに関心を寄せる機会もなかった。


それはきっと王宮魔術師の意向であろうとリアは予想した。


生まれつき魔力を高く持ち合わせる、将来生贄になることが決まっている人物が魔力を使えるようになったら危険以外の何物でもない。生贄になることに恐怖して魔力を駆使し暴れたり反乱を起こしたり逃亡したりする事を防ぐために魔力に触れることのない人生を与えられてきたのではないか。


そして万全を期すために儀式前に使用する部屋には魔力を封じる力を施す。


何故、儀式前に今まで自分が使用していた部屋から人の寄り付かない離れの棟の一室に移動するのだろうかと疑問に思ったことはある。人にあまり会わないようにする為かとリアは当初そう結論付けた。人と触れ合い人生の楽しみを見つければ儀式に向かう恐怖が大きくなる。最初に予想した内容も理由の一つではあるだろう。しかし、部屋に魔力を封じる力をかけ、反乱を防止するのもまた部屋の移動の理由の一つだったのだろうとリアは納得した。


そして、この部屋を使わなくて良いということは、改めて自分が生贄の運命から逃れる可能性が高まることを意味する。


しかし、生まれてからずっと生贄になることを決められていた人生が先程急に、変わってしまった。


生贄にならずに済むという実感は未だ持てないでいた。


それに、大きく期待しない方が良いとも思っていた。


このような行動は国にとって初めてなのだし、上手く事が進むかどうかも分からない。悪魔を差し出してみたけど結局駄目だったので当初通りにリアが生贄になります、といった事だって十分に起こりえる。


悪魔が途中で逃走するかもしれない。王宮魔術師は悪魔は拘束を外すまで目を覚まさないか魔力をほとんど失うと言っていたが悪魔の強さも分からない。


今リアが危惧しているのは、シャルロッテの状況だ。


「分かったわ。シャル、引っ越し、手伝ってくれるわよね」


そう声をかけると初めてシャルロッテが笑顔を見せた。


「勿論です!ほかの侍女たちにも声をかけてきますね」


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