第6話 キノコ
まぁそう落ち込んでばかりいても仕方がない。あの時少し考えたプランニングからは大分逸れたが、仕事ができないわけじゃない。
シャルロッテとの契約は未だ有効だし、どうしようか悩んでいた自分の拠点も手に入れた。
自宅から通うにはこの国は遠すぎるし、使用人であるシャルロッテの部屋に転がり込めるかもわからない。住み込みらしいし、一人部屋とも限らない。
最低限の家具、ふかふかのベッド、窓からは王宮の敷地内の様子がよく見える。贅沢過ぎる拠点だ。
自分の持ち物は大方失ってしまったけれど、あれらは魔力を貯蓄しているだけのもの。仕事が終わったら返してほしいなとは思うが、現在手元になくても死にはしない。
枷をしている限り大したことができないと判断されたのか、行動範囲も部屋の中だけというわけでは無さそうだ。現に扉に鍵がかかっていなかった。
確かにこの枷のおかげで今アルトゥールができるのは空中浮遊くらいだ。恐らく空を飛ぶことはできないだろう。
眷属に連絡を取ることすらできない。恐らく眷属側からもアルトゥールの居場所が分からなくなっているだろう。
ただ今まで散歩に出かけて暫く帰らない行為を繰り返していたため、ある程度の期間は主人の異変に気付かれることすらないかもしれないな。気づかれる前にこの状況を何とかして眷属からの小言を少なくすることが当面の目標になりそうだ。
シャルロッテが持ってきてくれたヘアピンとヘアゴムを使って長めのサイドの髪を編んでいく。前髪を半分かき上げてヘアピンでとめればいつもの髪型になった。
部屋の中をプラプラと徘徊していたらノックの音が聞こえてレーゲンが顔を出す。
「夕食だ」
悪魔ゆえ腹が減るというわけではないが元々食事は娯楽的に楽しむ。礼を言っていただくことにした。
「また来る」
そう言ってレーゲンはそのまま部屋を出て行った。
運ばれてきたのはグラタンだ。スプーンを表面のきつね色に焦げ目のついたチーズに突き立て、下のクリームソースを掘り起こすと湯気がぶわっと上がった。うまそうな食べ物を熱いうちに提供してくれる。実に親切な宿屋だな。
グラタンを頬張ると味もしっかりうまい。少し硬めのマカロニがクリームソースに浸かって程よい弾力になっていた。一人で黙々と食べ進め、数分で食べ終える。気分はすっかり旅行での観光だった。
しばらくしてレーゲンが再び訪室する。
「……」
食べ終わった食器をレーゲンが無言で見つめていたが、やがてアルトゥールに向き直って問う。
「なんでキノコだけ残しているんだ」
「俺、キノコ嫌いなんだよね」
そう答えるとレーゲンはアルトゥールを睨み盆の上に乗っていたフォークをつかんでキノコに突き立てる。そのままフォークをアルトゥールに向かって突き出した。
「うぉっ」
思わぬキノコ攻撃にアルトゥールも避ける。フォークを持つレーゲンの腕をつかんだ。しかしレーゲンも負けずに空いている片方の腕をアルトゥールに向ける。反射的にアルトゥールもレーゲンの腕をつかんでいる手と反対の手でレーゲンの第二波を食い止めようと掌を掴んだ。
「失礼します」
シャルロッテが部屋に入る。彼女の目に映ったのは男子二人がキノコをめぐって取っ組み合いをしている様子だった。
「何してるのですか」
「あ、シャル、この使用人どうにかしてよ」
「悪魔が好き嫌いなんて笑えるな。ほら、好き嫌いはダメだ。食え」
結局この日のキノコはシャルロッテの腹に収まった。
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