第4話 緊急会議
目の前でアルトゥールが倒れる。ロザのほうを見るとアルトゥールに向かって右腕を伸ばして指を目一杯開いて手をかざしていた。アルトゥールの足元には何か模様が浮かんでいる。何かをしたらしい。魔術に関して素人のシャルロッテは、ロザが何をしたのか分からなかった。
「アル!」
シャルロッテが今しがた契約によって縁が結ばれた悪魔の名前を呼ぶ。教会の床に倒れたまま意識を失っていた。
アルトゥールに駆け寄って恐る恐る揺さぶってみる。反応はない。
「契約者の拘束を。私は悪魔を拘束します」
教会の入り口には王宮魔術師が何人も集まってきていた。
ロザは王宮魔術師の中でも地位が上だ。彼女は部下に向かってそう指示する。
王宮魔術師が教会内に駆けてくると、何人かがアルトゥールから引きはがし、シャルロッテの腕を拘束した。
「やめてください!」
抵抗をするが男性三人に拘束されてはびくとも動かない。
ロザが教会内を大股で歩く。祭壇の隣の小部屋に入っていった。数秒ののちに何かをもって小部屋から出てくる。
黒い枷と鎖だ。
ロザはアルトゥールに近づくと何か唱えながら彼の首、手首、足首の五か所に重そうな枷をはめる。その枷同士を鎖で繋いだ。
枷をつけられているのはアルトゥールだが、辛そうな表情を浮かべているのはロザの方だった。脂汗をかいて顔色も悪い。
「これでこの悪魔は何もできないでしょう」
汗をぬぐいながらロザが立ち上がる。
「ロザ、これは…」
王宮魔術師の一人が深刻そうな表情を浮かべ、ロザに話しかける。
「これは、緊急会議が必要ね」
王宮魔術師の言葉を引き継いでロザが渋い顔をする。
「人を揃えて頂戴。陛下にも参加していただかなくては。悪いけど、会場を抑えたら呼んでくれるかしら。それまで休むわ」
ロザは足取りもおぼつかないまま教会を後にする。王宮魔術師が一人彼女に付き添った。
シャルロッテは腕を押さえた王宮魔術師に縄で手首同士を拘束される。
数十分後、緊急会議というものはシャルロッテの入ったことのない部屋で行われた。
国王陛下、皇后陛下、シャルロッテの主である第一皇女殿下、ロザ、その他王宮魔術師数名、シャルロッテ、そして使用人の同僚、レーゲンだ。
縄で縛られたシャルロッテを見て第一皇女殿下が驚いて不安な表情を浮かべた。その顔を見てシャルロッテは罪悪感でいっぱいになる。
姫様をお救いしたい一心で、大変な事態を引き起こしてしまった。今更ながら、シャルロッテは自分の軽率さに青ざめた。
願いを叶えてくれると言った悪魔は今教会の床で意識を失っている。
これからどうなるのだろう。
姫様は、どうなるのだろう。
王宮魔術師はこの場に全員いるわけではなく、数人はアルトゥールの見張りに残された。
「本来ならばまず、王宮魔術師の会議を経てから陛下にご報告を上げるところですが、緊急につきお呼び立てしてしまったことをご容赦ください」
ロザが陛下に頭を下げる。平伏しないことが許されているのは、王宮内での王宮魔術師の地位によるものだ。王宮魔術師は宰相と同等の地位を持つ。
「よい」
国王が静かに答えた。
「陛下、発言の許可をいただけますでしょうか」
第一皇女が声を上げる。
「許可する」
第一皇女が国王に頭を下げる。
「ロザ、私の侍女が縄で縛られている理由を聞かせていただける?」
第一皇女が厳しい目をロザに向ける。
ロザは王宮魔術師として当たり前の仕事をした。悪いのは私だ。そう思い、シャルロッテは身がすくむ思いだった。
「はい。此度の状況謹んでご報告いたします」
ロザはその後、淡々と報告をしていった。
「本日17:00頃、王宮の結界に魔力を持った何者かが侵入したことを察知いたしました。この王宮には魔獣等を退けるように王宮魔術師によって結界が張られています。本日侵入したものはその結界を通り抜けてしまうほどの魔力の持ち主でした。私は直ちに侵入者の捜索を行いました。そして、教会の中で一体の悪魔の存在とその悪魔と契約を終えたそこの、シャルロッテ・ダンナーを発見しました」
そう言い、ロザは再び冷たくシャルロッテを一瞥した。
「直ちに私は悪魔の拘束を図りました。自身の魔術で昏倒させ、教会に保管されている強力な拘束具を用い拘束いたしました。悪魔の強さにもよりますが、恐らく悪魔は拘束具を外さない限り目を覚まさないか、意識が戻ったとしてもほとんどの魔力を失っている状態であると思います」
そこまで聞いた国王はロザに質問を投げかけた。
「拘束に留めたわけは。殺せないのか、その悪魔は」
「恐れながら申し上げますとあの悪魔は、強いです。拘束だけで精一杯でした。申し訳ございません。あの強さの悪魔を殺すのはこの国のすべての魔術師を以てしても不可能であると判断いたします」
魔術に関して素人であるシャルロッテは自身が契約した悪魔がどの程度の強さなのか分からなかった。
国王は溜息をつくとロザに謝る。
「いやすまない、責めているわけではない。拘束してくれただけでも感謝する。して、リアの侍女、シャルロッテ・ダンナーだったな。お前は一体悪魔と何があった。何を契約した」
第一皇女様付きの侍女であろうと、こうして直接国王に話しかけられたことは初めてだった。
シャルロッテは顔を上げることもできずにカタカタ震えていた。悪魔と話す時ですらこんなに怖くはなかったのに。
そんな震える背に触れる一人の手があった。
「シャル、話してほしいわ。私はあなたを守りたい」
第一皇女が椅子から降り、拘束されたまま床に伏せているシャルロッテのそばに膝をついていた。
普段からよく聞く主人の声に少しばかりの冷静さを取り戻したシャルロッテは顔を伏せたまま震える声で答えた。
「私には強い望みがあります。その望みをどうすれば叶えられるか分からずに仕事の休憩時間、教会で祈っておりました。そこにアル…悪魔が私に声を掛けました。契約で望みを叶えてやると。私の望みは、リア第一皇女殿下を生贄の運命からお救いすることです」
顔を伏せたままであるが、何人かが息をのむのが分かった。暫く会議室の全員の沈黙が流れる。場の空気は痛々しいほど重かった。
「陛下」
沈黙を破ったのは、ロザだった。
「一つ、私の提案を聞いてくれませんか」
面白いと思ったらブックマークと下の☆で評価をお願いします!




