↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり悪魔の悪くない仕事  作者: つきろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/25

第24話 儀式

儀式当日、レーゲンは朝早くからアルトゥールの儀式の準備に駆り出されていた。そして沈痛な面持ちでほとんど意識がないアルトゥールの着替えを手伝っていた。


最近のアルトゥールは意識のある時間がなく寝たきりとなっている。そんなアルトゥールにどうやって服の着せ替えをするのか疑問に思っていた。


アルトゥールに枷がつけられた直後も意識がなかったが、あの時の着替えはまだやりやすかった。着替えさせるのは簡素なチュニックとパンツだったからだ。それでも、大人の男4人がかりで苦労しながら着替えさせた。しかし、今回着替えさせるのは意識のある人間に着せるのにも苦労しそうな衣装だった。


だが、疑問はすぐに解決した。結論から言うと、アルトゥールは意識がない中も身体を起こしている。首、手首、足首に付いた枷が彼を動かしていた。


王宮魔術師が魔術を駆使しているように見えた。まるで糸のついた操り人形の様だ。爵位持ちの強い悪魔が人間の言いなりに動いている様を見て、世話係としてではなく友人として辛い気持ちになる。意識のない人間にこの衣装を着せるのは不可能であるため、世話係としてはありがたい状況なのかもしれないが。


途中から第一皇女様の身支度の手伝いを終えたシャルロッテが来てくれた。


「酷い」


思わず口から言葉が漏れる。


アルトゥールが質素なチュニックとパンツから着替えたものは、第一皇女様が着る予定だったドレスの丈を直したものだった。元々大柄なタイプではなかったし、最初の頃はかき上げていた髪を今はおろしている為、遠くから見れば一見男性だとは分からないだろう。さらにこの後ベールをかぶるのだから儀式参列者に身代わりのことを知らせず儀式を行うことは可能だろう。


しかし、目は薄く開いているもののそこに意識の色は見えず、ただされるがまま、婚礼の時に花嫁が着るようなドレスを着せられていくアルトゥールを見ていたら、同じ男として同情せざるを得なかった。しかも、もともと国の第一皇女が召す予定だった婚礼衣装だ。この国の王室御用達、服飾職人の技術の詰まった豪華な一着であった。


シャルロッテがアルトゥールの化粧を施す。幼い頃より第一皇女様に仕えていた彼女は化粧の技術もそれなりであった。しっかりした場面での第一皇女の化粧はシャルロッテではない侍女が行うらしい。しかし今この場にいる女性はシャルロッテのみである。


アルトゥールの身支度を終えたら、レーゲンもシャルロッテももうアルトゥールに何もしてやれなくなる。儀式の進行に関わることはほとんど王宮魔術師の仕事だ。レーゲンは参列者の一人としてただ見ていることしかできない。シャルロッテはいざというときのために参列者から隠れるようにして儀式に参列する第一皇女様に同行する。着替えを終えると部屋に数人の王宮魔術師が入ってきた。アルトゥールの枷に繋がる鎖にさらに鎖を繋げるとそのまま引きずるようにしてアルトゥールを連れて行ってしまった。


アルトゥールが足を一歩一歩踏み出しているのも恐らく足首に付いた枷が動かしているのだろう。身体が立位を保っているのも首に付いた枷が持ち上げている。吊られたような姿勢と凭れた首が、まるで犠牲に向かう花嫁の憂いのように感じられた。


「お前らも早く自分の持ち場に行きなさい」


王宮魔術師の一人にそう言われても、暫くレーゲンとシャルロッテ二人で連れて行かれるアルトゥールの背中を見ていた。


それから、儀式の会場である礼拝堂に入るとすでに人でいっぱいだった。自分のいるべき場所、王宮従業員の席につくと従業員同士はそれぞれ小声で話し合っていた。


「よぉ、レーゲン、遅かったな。正装が見当たらなかったのか」


同僚の一人に声を掛けられる。レーゲンが悪魔の世話係だったこともここにいる誰も知らないことだった。


「まあな、そんなところだ」


曖昧な返事を返すと同僚は目を輝かせながら言った。


「いやあ、遂にこの儀式に参列できるんだな。不謹慎だけど、ドキドキするな」


王宮に努めるものは、警備のものを除き全員この儀式に参列するが、国民は領主や貴族など限られたものしか参列ができない。代々この土地を守ってきたこの国にとって、これからも存続、繁栄のための重要な儀式だ。若い娘が犠牲になる悲惨さを踏まえてもこの儀式に参列できることは国民にとって名誉だ。レーゲンだってアルトゥールの世話係がなかったら、もしかしたら今頃不謹慎ながらも、儀式の参加を内心で名誉に思いながらこの時を過ごしていただろう。


しかし、シャルロッテと話し、アルトゥールと話し、レーゲンはこの儀式と向き合う意識がすっかり変わってしまった。


いつの間にか会場内のざわめきはなくなり王宮魔術師が進行する中、厳かな雰囲気で儀式が始まった。


オルガンの演奏が響き、聖歌隊の歌が高い天井に響く。


会場の扉が開き、生贄が長椅子の中央を通る道を行く。壇上の方へ進むアルトゥールはドレスとベールで誰なのか全くわからないようになっていた。


先導する魔術師に引かれ、重そうな足を前に運んでいた。


歩くたびに鎖や枷がぶつかるカチャカチャした音が聞こえる。


まるで結婚式だ。


このまま、アルトゥールは生贄とされるのだろうか。


初めて会った時から、飄々とした奴だと感じていた。身代わりとなった身でも慌てる様子もなく儀式と、シャルロッテの願いと向き合っていたように思う。


この儀式がうまくいけば、シャルロッテの願いは叶えられるだろう。第一皇女様は生贄にならずに済む。


アルトゥールは死ぬのだろうか。悪魔を殺すのは難しいと聞いたが、相手が邪神だったらアルトゥールだって、もしものことがあるのではないか。


最近のアルトゥールは意識もなく何もできなかった。いくら強い悪魔でも今のこの状況は良くないのではないか。


ここ一ヶ月で親しくなり、友人とさえ思っている奴が今、死に向かっているのではないかという考えで儀式に集中することができなかった。胸がざわつく。


アルトゥールが祭壇前に到着すると、先導していた王宮魔術師は脇へとはけた。


壇上の説教台にはロザがいて祝詞のようなものを唱えている。 邪神に向けた祈りの言葉の様だ。ロザもいつもの侍女服ではなく、王宮魔術師の正装を身にまとっている。若いながらも堂々とした態度で儀式を進行している。


不意に、ガチャンと金属がぶつかり合って落ちる音がした。アルトゥールの部屋で何度も聞いた金属の音。枷だ。枷が今、外された。


その音が聞こえた後、瞬きをする間もなく、アルトゥールが消えた。


いや、アルトゥールの立っていた足元の床が無くなったのだ。床の下には深い穴が続いている。その穴に、先ほど外された枷ごと、アルトゥールは落ちていった。


落ちる寸前、アルトゥールは首だけ振り向いたように見えた。


「アル!」


何処からか聞こえたシャルロッテの悲鳴は会場内のどよめきで誰も気にすることがなかった。


儀式は、終わった。



面白いと思ったらブックマークと下の☆で評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。