第25話 アリスの参列
アルお兄ちゃんが姿を見せなくなって何日経っただろう。
お家が恋しくなって、お母さんとお父さんに会いたくなって、眠れなくて泣いていた夜に出会ったお兄ちゃん。
夜の八時に待ち合わせをして、何回か会ってたくさん話を聞いてもらった。お母さんのこと、お友達のこと、お仕事のこと。新しくお仕事を覚えるたびにお兄ちゃんにお話しできるのがうれしかった。いつの間にか、泣かなくなっていた。
お歌もたくさん、歌った。お兄ちゃんはいつも楽しそうに聞いてくれた。上手だねってたくさんほめてくれた。
もう何日も前に、お兄ちゃんが、明日から来られなくなるかもって言っていたっけ。もしかしたら今日は来ているかもしれないって、毎日待ち合わせ場所に行ってみたけど、誰もいなかった。
段々とお仕事も忙しくなっていった。なんでも、この国で大事な儀式があるらしい。お城から貰った綺麗なお洋服に着替える。窮屈でドキドキした。私のご主人様、第四皇女様のアンネ様のおそばにいることが儀式での私のお仕事だ。
アンネ様は私より少しだけお姉さん。王族のお席で背筋を伸ばして座っている。私はその少し後ろの席に座っていた。
儀式が始まってから、魔術師のお姉ちゃんが難しいお話をずっとしている。先輩にいろいろ聞きたいけど、口を利ける雰囲気じゃない。少しだけ退屈に思いながら儀式を訳も分からず見守っていた。
少しすると、教会の真ん中の道を誰かがゆっくりと歩いてくる。その様子をみんなが見守っていた。
白いドレスに白いベール。この儀式は結婚式なのかな。ドレス、きれいだな。そう思って歩いている人をよく見る。ベールでよく見えないけど、私にはわかった。
お兄ちゃんだ。
なんでお兄ちゃんがドレスを着て歩いているんだろう。
静かな空間に鎖がこすれる音が響く。お兄ちゃんの鎖の音だ。なんだか、具合が悪そう。ベールの下でお兄ちゃんはうつむいていた。うなだれているようにも見える。お兄ちゃんはいつも笑っていた。今はお兄ちゃんの表情もよく見えないけど、足を引きずるようにして歩いている。
具合が悪いから、待ち合わせに来れなくなっていたのかな。それとも、この儀式の準備で忙しかったのかな。
お兄ちゃん、私寂しかったよ。お兄ちゃんに会えなくて。話したい事いっぱいあるんだ。
この儀式が終わったら、また会えるようになる?
お兄ちゃんが教会の真ん中の通路の突き当り、ずっとお話ししている魔術師のお姉ちゃんの前まで来た。
お姉ちゃんが何か言う。
お兄ちゃんの鎖の音が聞こえる。がちゃんと音を立てて鎖が地面に落ちる。
その音に反応するようにお兄ちゃんの肩がピクリとはねた。
お兄ちゃんが振り返るのと、お兄ちゃんの足元に大きな穴が急に開いたのは同時だった。
そのままお兄ちゃんはその穴に落ちて行った。
周りの人がざわざわと反応した。お兄ちゃんが落ちて行ってすぐ、儀式は終わった。
儀式が終わったらアンネ様を別棟のパーティー会場にお連れしないといけない。
状況がなにも分からないまま、周りにつられて椅子から立ち上がる。
お兄ちゃんは、どこに行ったの。
そのことで頭がいっぱいになる。
でも、お仕事をしなくちゃいけない。
他の侍女と一緒にアンネ様をパーティー会場にお連れする。
うわの空でいたのがバレたのだろう。侍女の先輩の一人に心配された。
「どうした?体調悪い?」
心配そうに先輩が私の顔を覗き込む。
私は、ゆっくりとうなずいた。
「ここは人が足りているから、部屋で休んできていいよ。体調がよくなったらまた戻っておいで」
「ありがとうございます」
先輩にお礼を言ってお辞儀をすると、パーティー会場を抜け出した。
お兄ちゃんを、探しに行こう。
確か、第一皇女様の侍女のシャルロッテさんと、先輩のレーゲンさんがお友達だってお兄ちゃんが言っていた。そのお二人を探そう。もしかしたら、お兄ちゃんがどこに行ったのか知っているかもしれない。
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