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身代わり悪魔の悪くない仕事  作者: つきろ


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第18話 レオンハルトの懸念、シャルロッテのホームシック

レオンハルトは身支度を済ませると主人の仕事部屋に向かう。


主人が出て行ったのは二週間ほど前だ。仕事机の上にはやりかけの仕事とこれから取り掛かってもらわなくてはならない仕事が整頓され置いてある。


整理をしたのはレオンハルト自身だ。


主人が気まぐれに出掛け、帰りが遅いのは初めてではない。


悪魔はその寿命の長さ故、気まぐれな散歩で数か月帰ってこないことすらある。時間の感覚が人間のそれとは違う。人間から悪魔になった者であれば、最初のうちは人間の時の時間間隔が残る者もいるが、主人が人間だった時はない。


悪魔には三種類の出自に分かれる。


人間から悪魔になった者。これが一番多いように思う。人間であるうちに悪魔と契約を結んだ者が死後悪魔となって契約を結んだ悪魔の眷属となる。


天使から悪魔に堕ちたもの。いわゆる堕天使だ。レオンハルトも主人であるアルトゥールもこれにあたる。


悪魔から出生したもの。悪魔同士も結婚、出産はある。悪魔同士が番い出産した場合、産まれてくる子供は生まれながらに悪魔となる。


レオンハルトは天使として天界に住んでいたころからアルトゥールに仕えていた。なので主人が堕天した時は一緒に堕ちた。長い仲だ。


今回の主人の外出で気になることは、主人の居場所が掴めないことだった。今までにこのようなことは無かったように思う。


眷属として主人の居場所は通常なら把握できるはずだった。しかし今は、どこでどうしているのか全く掴めないでいる。


さすがに主人が死亡したらたとえ居場所が分からない状態であっても察知することができるため、生きているであろうことだけは分かる。


何処に出掛けて何をしていつ帰ってくるのか分からない。よって仕事机に溜まっていく仕事がいつ片付くのかもわからない。


「失礼します」


主人の眷属の一人が声をかけて仕事部屋に入ってきた。


「報告書といくつかの許可申請をお持ちしましたが、アルトゥール様はまだ帰ってこられませんか」


報告書は大体が新しい眷属を迎えたという内容だ。眷属が眷属を迎えることは、主人にとって部下のさらに部下となるわけで、報告書によって把握することが必要になる。これは帰ってきてから一読してもらえば良いのだが、問題は許可申請だ。許可申請は主人が許可を出さないことには許可待ちの眷属は行動ができなくなる。こういうこともあるからあまり連絡の取れない長い外出は控えてもらいたい。それなりの立場であることを自覚してもらいたいのだが、主人は気まぐれな性格だ。


「はい、未だ連絡もなく居所も分からないでいます。報告書と申請書はとりあえず受け取りましょう。ですが、申請がいつ通るかは答えかねます」


レオンハルトがそういうと入ってきた眷属から書類を受け取る。それらを仕事机に仕分けて置いていった。


「まったく、我らが主人は何処で油を売っているのでしょうね」


来訪者は苦笑交じりにそう呟くと部屋を後にした。


「まったくですよ。仕事が片付かなくて困る」


レオンハルトは誰もいなくなった部屋でそう独り言ちると部屋の掃除に取り掛かった。


窓を開けて換気をすると、埃を払い落とし、拭き掃除をしていく。


部屋の中の整頓をし、足りない物品を確認していく。あとで買い出しにもいくか。


仕事机に届いた書類はレオンハルト自身も一読し確認している。火急の物がないのが幸いだった。


レオンハルトはぼんやりと浮かぶ不安から目をそらすように掃除に精を出した。



「シャルはこの城に来たばっかの時はホームシックにならなかったの」


仕事終わりにアルトゥールの部屋に来たシャルロッテに質問する。


アリスと出会って彼女の話を聞いていると、やはり十にも満たない子供が親元を離れ働きに出るというのは過酷だ。


アリスの年齢とシャルロッテがこの城に来た年齢は同じだったはずだ。どうしたらアリスの気持ちが前向くか悩んだ末、やはり身近な先輩に聞くのが良いと考えた。


「そうですね、やはり最初は寂しかった気がします。でも、王宮に就職することはとても名誉なことなので、あまり周りに泣き言は漏らせなかったですね」


シャルロッテが思い出すように答えた。そのあと少し笑う。


「でも、教育係さんや侍女の先輩方が優しくしてくれたのですぐ慣れましたよ」


本来なら近所の子供と遊んでいる年齢。その年齢で働いて金を稼ぐ。夜中に泣きながら城を徘徊する。行きついた果ては同じく徘徊していた悪魔のところだ。アリスのことを思うと不憫だ。


「最初は家に帰りたいと泣くよりも、新しい場所への好奇心が大きかったです」


性格にもよるか。


「同い年の子が周りにいるかも大きいですね。私にはロザがいましたが、あまり話してはくれませんでした。でも、私の場合、リア様が優しくしてくださったので」


「姫さんとシャルは同い年なんだっけ」


「はい」


アリスと第四皇女様は同い年だろうか。


「でも、ここにきて一週間が今思えば一番ホームシックになっていたかもしれません。新しい場所への好奇心が落ち着き、慣れた場所に気軽に帰れないことを思うと急に心細くなりました」



アリスは城にきて一週間だと言っていた。そういう時期なのかもしれない。来たばかりのシャルロッテやアリスほどの年代の子供がどれだけこの城に就職するかは分からないが、城だって初めてではない。子供のメンタルケアはしっかりしてもらいたいものだ。アリスの話を聞くと職業訓練という意味合いも大きいが、文字の読み書きや計算の仕方なども教えていることも考えると、王宮は就職場所であると同時に教育機関であると言える。


「ホームシックはいつまで続いたの」


質問を投げかけるとシャルロッテは照れ臭そうに笑う。


「一番つらかったのは来て一週間からの三日三晩でしょうか。その後仕事を覚えていく中でここでの生活に慣れていきましたが、最初に実家に帰れるまではほんのり続いていたように思います。でも、最初に実家に帰った時、本当にうれしかったのですが、しばらくすると今度は早く姫様に会いたくなってしまって。おかしな話ですよね」


性格にもよる。ここら辺の感覚の個人差は大きいだろう。でも、三日三晩が一番つらかったという先輩の話は、アリスの心を少し前に向かせるのではないか。目標が最初の帰省までと考えると遠く感じるが、三日三晩を乗り越えたら少し落ち着くと考えると目標が現実的に思う。あの子も寝られるようになったら良い。子供があんな時間に起きていては良くない。人というのは寝られないと心身ともに弱るものだ。


「ありがとう」


丁寧に質問に答えてくれたシャルロッテに礼を言う。


「なんだか恥ずかしいです、子供の時の話なんて」


リアはシャルロッテの子供の時の話をよく話してくれるけれど、そのことは今は黙っておくか。



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