第17話 フリッツの説得
「陛下少々よろしいでしょうか」
フリッツが国王の仕事室のノッカーを鳴らす。
「フリッツか。入れ」
国王の声が返ってくる。
「失礼いたします」
フリッツが王宮魔術師3名を引き連れて部屋に入った。
「どうした」
国王は目を通していた書類から顔を上げる。部屋に入ってきた人物の数が思ったよりも多くて何事かと少々面喰う。
「僭越ながら申し上げますと、私フリッツ・リーベルトは先の会議の内容と此度の儀式の方針に納得しておりません。本日は会議の内容への意見をお聞き願いたい所存です」
「フリッツが納得していないのも分かっておる。君は何よりもこの国の安全を考えてくれていることにも。同行の王宮魔術師達はフリッツと意見を同じくした者か?」
王宮魔術師達に緊張が走る。
「そうです。会議で反論の発言が可能だったのは私のみでしたが、これだけの人数がこの国の安全を考え、本日同行してもらいました」
フリッツが代わりに答える。
「そうか。ここに来るにも勇気が必要だっただろう。私の判断により不安を招いてしまっていて誠にすまない」
国王が訪問者から目を離さずに言う。
フリッツが再び口を開く。
「この国の安全のためには、儀式の内容を変えるべきでないと再度意見いたします。今までこの国が発展してこれたのも儀式を行ってきたからではありませんか。それを今代で危険にさらすなど、国王陛下がしていい決断ではありません」
「フリッツ、私の姉を覚えているだろうか。私が幼い時に儀式に臨んだ先代の第一皇女だ」
突然の国王の問いかけにフリッツが虚を突かれたような表情を浮かべる。
「勿論、覚えています。立派に儀式を勤め上げなさいました」
フリッツはその頃から宰相として働いている。
「ああ、当時私は何故姉上がこんな運命を背負わなければならないのかと思ったものだった。子供だったからな。その後成長して国王に成るべく生きていく中でその感覚を忘れてしまっていた」
忘れて良いものだ。生贄への感傷など、この国の国王に成るうえでは邪魔になるばかりだ。フリッツは内心でそう思いながら国王の話を聞く。
「しかし、リアが生まれた時、思い出してしまったのだ。何故こんな運命を背負わねばならぬのか。思い出したその感情を必死に押し殺してリアが成長するのを見守った。儀式が近づいてくる。時が進むのが憎いほどだった。そんな時王宮魔術師の提案を聞いて、試す価値があると判断したんだ」
「あんな小娘の戯言を真に受け国を危険にさらすおつもりですか!あなた様は国王陛下なのですぞ。代々国王陛下はその辛いお気持ちを抱えながらも、国の繁栄の為に第一皇女様をお捧げになっていらっしゃいました。それがこの国の国王のお務めです」
「例え若い娘でも実力は確かな王宮魔術師だ。私に意見することの許される立場だ」
「しかしまだ成人する前の若い娘です。いくら実力はあろうと、いくら悪魔の拘束に成功しようと、精神は未熟な子供です。若者の理想論を試すには危険に晒されるものが大きすぎます。この国です。この国が危険に晒されているのです。陛下が大変お辛い立場なのは私にも分かっています。ですが、父親としてではなく、国王として判断してください。あなたが守らねばならぬのは他なりません。この国です。陛下はリア様のお父上であらせられるとともに、この国の国民の父でもあるのです」
暫く、国王とフリッツが睨み合う。
「確かに私はこの国を危険に晒している。しかし、生贄の身代わりを立てることでこの国が亡びるのは可能性の一つでしかない。確実ではない。初めてのことをするときは何事も危険が伴う。国を動かしていくということは危険とメリットの賭け事ではないか。思えば国は常に危険に晒されているのだ。他国に攻められる危険、魔獣に襲撃される危険、災害に遭う危険、飢饉に見舞われる危険。それらと何が違う。此度の儀式の変更でリアが助かるかもしれないメリット、国が危険に晒されるデメリット、その賭けをするのは国の運営ではよくあることではないか」
フリッツが口を開けるが言葉が出てこない。しかし口元も握りしめた拳も怒りにより震えていた。
「フリッツの言うことも確かに正論だ。私はこの国の安全を何よりも考えなければならないだろう。しかし、微かでも私は賭けたいのだ。身代わりで儀式が成功し、リアも助かる結果になる可能性だってあるではないか。勿論邪神側から何かしらの反応があるかもしれぬ。怒りか、要請か。そうしたら当初通りリアを生贄として捧げる。何が起こるか分からぬが、わずかな希望があるのなら私は会議の決定を覆すつもりはない」
国王の目は、声音は、態度はいたって冷静だった。その様がフリッツの怒りをさらに押し上げる。
「誠に残念です」
フリッツは震える声を絞り出してそれだけ言うと、二人の言い合いに圧倒され冷や汗をかく王宮魔術師を引き連れて部屋を後にした。
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