↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり悪魔の悪くない仕事  作者: つきろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/20

第16話 アルトゥールの一日

昨晩、夜中に図書室で資料探しをしていたためか、今日は少し怠い。すっかり日が昇った時刻、レーゲンにカーテンを開けられてアルトゥールはようやく起床した。


「悪魔が随分気を許しているんだな」


朝食を持ってきたレーゲンが呆れた顔で声をかける。


元々アルトゥールは朝に弱い。それに悪魔は夜型が多い。レーゲンに持ってきてもらった洗面器でのそのそと洗顔をする。


テーブルに着くとパンを口に運び始め、ようやく意識が覚醒してきた。


「おはよーレーゲン」


そこでようやく挨拶をした。


アルトゥールのいつもの飄々とした態度も朝は鳴りを潜める。間延びした声であいさつをするアルトゥールを見てレーゲンは溜息をついた。


朝食を終えるとアルトゥールはベランダに顔を出す。中庭を忙しく行き交う従業員を眺めていた。


基本日中はやることがない。


城内の散歩も日中は人がいるためやりにくい。最近どうも人の気配に疎くなっているようだし、攻めた行動を続けて見つかったら軟禁が次は監禁になるかもしれない。


今回の仕事で一番の苦痛は日中の退屈かもしれなかった。




夕食を終え、廊下を出る。時刻は20:00少し前。


アリスは来るだろうか。そう思いながら昨晩アリスと鉢合わせたあたりの廊下に行くと、ツインテールの少女が窓辺に座っていた。不安そうな顔をしていたアリスはアルトゥールの姿を認めると笑顔を見せる。


「お兄ちゃん!来てくれた!」


窓辺から飛び降りるとアルトゥールに駆け寄る。


「昨日ぶり。あの後はちゃんと眠れた?」


アリスの頭をなでながら聞く。


「うん」


アリスが少し得意げにうなずいた。


アリスと並んで窓辺に腰掛ける。


「今日はちゃんと起きれた?」


アルトゥールは自分のことを棚に上げつつ聞く。


「うん。ちゃんと起きれたよ。でもお昼にちょっと眠くなっちゃった」


「そっか」


「あのね、私今日、姫様の部屋のお掃除をしていたの。ちょうど部屋に一人になったタイミングがあってね、歌うたいながら掃除してたの。いつの間にか姫様がお部屋に帰ってきててね、私恥ずかしくなって慌てて謝ったんだけど、姫様、私の歌をほめてくれたんだ」


アリスが今日あった出来事を話す。子供が親にするみたいに。


「へえ、アリスは歌が好きなの?」


アルトゥールの問いかけにアリスは少し気恥かしそうにしながら「うん」と小さく答えた。


「聞かせてよ。アリスの歌」


アルトゥールがそういうとアリスは頬を染める。


「えー、恥ずかしいよ」


アリスの反応にアルトゥールが笑っておだてる。


「頼むよ」


昨晩に比べていくらか明るくなったように思う。アリスにとってアルトゥールとの出会いが、ホームシックを少し忘れさせていた。


暫く逡巡していたアリスだったが、やがておもむろに歌い始めた。


この国に伝わるわらべ歌だろうか。聞いたことのない歌だった。


第四皇女がアリスの歌を褒めたのはおべっかではなさそうだ。アリスは確かに歌が上手い。


少女特有の高く澄んだ声が良く伸びる。アルトゥールは思わず感心した。


そしてアリスの歌をよく聞くと歌詞が興味深い。


「お姫様は神様のところにお嫁に行く 白いドレスと白いベール 国のさかえのため 神様のもとへまっさかさま おちていく」


これは、儀式のことを歌った歌ではないのか。


お姫様、神様、国のさかえ、昨晩読んだ本と内容が重なる。


わらべ歌では生贄ではなく嫁ぎとして伝わっているようだ。ただ、気になるのは「まっさかさま おちていく」の文言。


歌い終わるとアリスは小さくカーテシーをした。アルトゥールは軽く拍手をする。


「本当に上手い。姫様が褒めるのも納得だよ」


そういうとアリスは照れたように笑う。


「今の歌は」


「友達と遊ぶときに歌う歌だよ」


やはりわらべ歌、伝承歌のひとつか。


その後、アリスは今日学んだ内容を復習を兼ねてアルトゥールに報告すると、自室へ戻っていった。


「また明日ね、お兄ちゃん」


「うん。早めに寝るんだよ」


アルトゥールもアリスと別れると自室へ戻る。


ベランダに出て策を飛び越えると、次はリアの部屋を訪室する。


リアがベランダに続く大きな窓を開けてアルトゥールを招き入れた。


「こんばんは、アル」


「こんばんは、姫さん」


リアはいつもの通り寝支度を整えていた。侍女が来ない時間を狙って訪室しているから当たり前だが、寝間着姿のお姫様に毎晩会いに行っているのはかなり紳士的ではないなと内心苦笑する。


リアの話す内容は主にシャルロッテのことについてだ。共通の知り合いが彼女なのだから自然と話題に上がる。


「シャルの淹れるお茶がおいしくてついシャルにお願いしてしまうの」


茶を淹れるのが上手いのは、シャルロッテが自分の従者に将来なった時楽しみだな。


「でも最初に淹れてくれた時は時間がかかって少しぬるく、渋くなってしまって、シャルが教育係に怒られているのを見て私もなんだか一緒に怒られている気持ちになっちゃって」


「姫さんは共感性が高い方なのかな」


「いえ、恐らく相手がシャルだからだと思うの。私が彼女を選んだから彼女は侍女の仕事を覚えなければならなかったし、お茶の淹れ方で怒られなくてはならなかった。そう思うとシャルに申し訳ない気持ちもあるし、シャルの生活がなるべくつらくないようにしたいとも思っていたわ。今でもそう思っているのだけど」


そこでリアは言葉を止める。


アルトゥールには今リアが何を考えているのかなんとなく察しがついた。


今でもそう思っているけれど、シャルロッテはリアの運命が原因で悪魔と契約した。


恐らくそのことにリア自身責任を感じているのだろう。


アルトゥール自身たくさんの従者を抱える身であるため、正直言ってリアとシャルロッテの主従関係が羨ましいと思う。そこまで相手のことを思える、思いあえる主従関係は貴重だ。


「でも、今のところ、アルがそんなに怖い人じゃなくて良かった」


リアが膝に置いた自分の拳に視線を落としたまま言った。


「ねぇ、姫さん、儀式の流れってどんな感じか何か知ってる?」


アルトゥールは情報収集もかねて、話題を変える。


リアがアルトゥールに視線を合わせないで先程の言葉を言ったのは、アルトゥールという悪魔に信頼を置き切れていないからか、自分の身代わりになってしまった事への罪悪感か、大事な従者を誑かし契約をした仇ゆえか、それらが混ざり合った感情か。


リアはリアでアルトゥールをただのおしゃべり友達と思っているわけではないのだろう。毎晩訪室を迎えてくれるのも、アルトゥールがどんな人物か知りたいのかもしれない。大事な従者と縁を結んだのだから。


「儀式の流れ、ですか。詳しいことは何も知らないのですが、結婚式の様だと聞いたことがあります」


「結婚式」


「はい。純白のドレスを着て、ベールを被り、礼拝堂の中央の道を進んでいくのだと。形式上は邪神様に嫁いでいく、そのような流れで儀式は進むと聞きました。あまり悲惨な様子にするのは儀式に参加する国民が怯えますから」


国の栄の為に若い娘が犠牲になるのに、儀式に参列する国民の精神衛生を気にするのか。


その後生贄がどうなるか分からないのに。


先程聞いたアリスのわらべ歌の歌詞を思い返す。「お姫様は神様のところにお嫁に行く 白いドレスと白いベール」やはりこの歌は生贄の儀式の内容を歌ったものか。


「じゃあ本番は俺は何を着るのかな。まさかベールを被って歩けなんて言われないよなあ」


そう少しおちゃらけて見せる。


「そもそもお嫁さんが来ると思って待っていた邪神のもとに俺が来たらびっくりするだろうね」


そこまで言うとリアが笑う。


「国民をあまり怯えさせないためもありますが、生贄になる皇女のためでもあると私は思います。最後に華々しく着飾ってもらえるのですから。生贄になる恐怖と戦う皇女へのせめてもの餞(はなむけ)なのではないでしょうか。今回の場合、アルのためにはならなそうですけどね」


それでも第一皇女が儀式の衣装に袖を通すことを楽しみには思わないだろう。婚礼を模していてもそれは婚礼ではない。生贄という暗い儀式であることに変わりはない。


花嫁衣装や婚礼を模した儀式形態にこう思うことができるほど、十五の第一皇女は自身の運命と向き合って考えてきた。


「姫さんは大人だね」


アルトゥールの心からの感想だった。


面白いと思ったらブックマークと下の☆で評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。