第12話 王宮魔術師ロルフ
ロルフ・ヒーマンは王宮勤めになって3年だ。王宮魔術師の中でもまだまだ新人の部類である。
入職した時には大分若い娘が自分より先輩であることに驚いた。しかも王宮に入職したのは10にも満たない時だというから、天才というものは存在するんだと嫉妬や僻みの感情すら沸かなかった。
しかし、今回悪魔の侵入を受け緊急会議が開かれたときロザの発言を聞いてどこかで彼女を見下している自分がいることに気付く。
侵入した悪魔を拘束した彼女の手際は見事なものだと思う。自分では拘束などできないであろう。
だが、その悪魔を近いうちに行われる儀式の生贄の身代わりにするといった提案をする彼女を冷めた目で見た。
若いとどうしても理想を掲げたくなるのだろうか。年若い姫君を生贄に差し出すと言った儀式の内容に正義心を持ってしまったのだろうか。
儀式は国の存続と繁栄の為に代々行われてきた大事なものだ。そしてその儀式の遂行こそ、我ら王宮魔術師の一番大きな仕事ではないのか。
儀式は行わなければならない。今までと同じように。それがこの国を守る王宮魔術師の務めだ。
ロザには罰すらも下るのではないか。そう思いながら会議のいく末を見守る。新人の王宮魔術師である自分にとっては会議に参加することはできても発言する権利なんて無いに等しい。
しかし、国王はロザの提案を肯定的に受け止めた。
まさか。
まさか、陛下がこんなバカげた提案を吞むなんて。誰よりもこの国を守らねばならない立場の人が。
宰相が反論をする。しかし自分には反論が宰相からしか出ないことが信じられなかった。
王宮魔術師の中で一番勤続年数が長いアレキサンダーさんでさえ、難しい表情を浮かべて押し黙っていても表立っての反論をしていない。
この国の安全を真に思っている人間がこの国には宰相くらいしかいないのか。この会議に出席している人間はこの国のトップだぞ。
しかし、自分がここで反論の意を唱えることなどできない。国王陛下に盾突いて処罰されたらたまったものじゃない。
結局会議はロザの提案を通す形となって閉会した。
この国は終わるかもしれないな。そう諦観した気持ちで従業員用の休憩所で茶を飲む。この国が終わったらどこか別の国に逃げようか。逃げられるだろうか。家族に連絡をした方が良いかもしれない。
そんなことを逡巡していると宰相が休憩室に顔を出す。
「ヒーマン、少し良いか」
しかも自分を呼んでいる。
なにかしただろうか、そう不安に思いながらも、先の会議で同じ意見を持つ身として一言宰相には同意の旨を伝えたかった。
そう思い、慌てて立ち上がると宰相に駆け寄った。
「リーベルトさん、いかがしましたか」
「今日の会議のことで話をしたい。私の部屋まで来てくれるか」
「私もお話ししたいと考えておりました」
この場で会議の内容に不満を持っていることを話してしまいたかったが、会議の内容は極秘事項だ。他の従業員もいる休憩室で話すのはまずい。
「君のほかにも今日の会議について異を唱える者はいないか。もしいるなら一緒に部屋まで来てもらいたいのだが」
「心当たりがあります。その者たちに声をかけてからリーベルトさんのお部屋に伺ってもよろしいでしょうか」
王宮魔術師の中には何人か自分と気の合う同僚がいる。その者たちに声をかけてみよう。
王宮魔術師は全員が全員ロザのように正義感を振りかざし夢見がちに思うものばかりではないのだ。所詮天才のロザも年頃の娘なんだ。勘違いした正義感を持つものが上の立場にいるとやりづらくてかなわない。
自分のように現実的に物事を考えられるタイプもいる。守る者の優先順位や責任を見極められる者たちだって確かにいる。ただ、自分のようにあの会議の場で発言するには立場が足りない者だっていたはずだ。
ロルフは心当たりのある自分と同じタイプだと評価している同僚や先輩に数人声をかけた。仕事の話もよくする気の合う連中だ。7人に声をかけたが、ロルフの誘いに乗って宰相の部屋に一緒に来てくれたのは4名のみだった。
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