第11話 シャルロッテとロザの採用過程
アルトゥールは窓から見える城内の様子を眺めていた。
この城に来て3日程経っただろうか。シャルロッテに聞いたところ、生贄を捧げる儀式まで残り約一ヶ月ほどだそうだ。この部屋での軟禁生活も板についてきた。シャルロッテもレーゲンも四六時中この部屋にいるわけではない為、どうしても退屈してしまう。
部屋の鍵はかかっていない。鎖が部屋のどこかに繋がっているわけでもない。
つまり部屋の外には出ても良いのである。アルトゥールはそう解釈していた。しかし、むやみに部屋の外に出て攻撃されてもたまらない。今のアルトゥールには反撃する術が無い。
だが、退屈が勝ってしまった。
昼食もいただいたしレーゲンも暫く部屋に来ないだろう。昼食はサンドウィッチだった。野菜や肉が挟まったパンは少しトーストされていてうまかった。パンくずが残る皿も下げてもらっている。
一応音を立てないように扉を開け、恐る恐る部屋の外に手を伸ばす。結界を張られているのではと警戒したが杞憂だった。
廊下に首を出すとあたりには誰も居ない。
静かな廊下である。
そのまま部屋を抜け出すと方向も分からぬままに歩き出した。
気分は夜中に探検に繰り出す少年と言ったところだ。久々の新鮮な景色にアルトゥールの機嫌は良くなっていった。
廊下の角を曲がるたびに人がいないか確認して進む。迷子になっても仕方がないから道を覚えることができる範囲での散策になる。
外に出てみるとアルトゥールが使用している部屋は王宮の端の最上階の部屋であることが分かった。このあたりは普段誰も使っていないようで、暫くは人の気配や物音もなかった。隔離されているようだ。
階段を使い下の階に行くと少しずつ人の影が見えるようになった。あまり遠くまで行くと本当に誰かと鉢合わせそうだ。
そう思いながら進むと外に繋がる渡り廊下を発見した。渡り廊下の向こうには建物がある。建物からは懐かしい匂いがした。本の匂いだ。恐らくあの建物は王宮図書館か何かなのだろう。
本があれば邪神について何か情報収集できるかもしれない。しかし、人の気配も多くある。当たり前か。
夜にでも行動するか。あまり派手に行動して拘束を強くされてはできることに限りができてしまう。
渡り廊下を通り過ぎると奥の方はそれなりに人がいる。これ以上奥への探索は難しいか、そう考え階段に戻ろうとすると人の声が聞こえた。恐らく二人。下の階から登ってきたのだろう。
慌てて窓から外に出る。空中浮遊する能力だけでも残っていて良かった。そのまま上の階まで浮遊すると窓を開けて上の階の廊下に降り立った。
なんでこんなにこそこそしなくてはならないんだ。
そう呆れていたが同時にこの状況をある程度楽しんでいる自分がいた。
「アルは悔しくないのか?」
アルトゥールが夕食をとっていると、レーゲンから不意に声をかけられた。今日の夕食はシチューだ。
「何が?」
「いや、ロザに拘束されて。身ぐるみも剥がされて。生贄の代わりにされているんだぞ」
そう言ってレーゲンは頬杖をつく。夕食を食べる俺の向かいにある椅子に座りだらけた姿勢でテーブルに体を預けていた。最初こそ冷たい印象を受けたレーゲンであるが、今の彼の印象はぶっきらぼうではあるが優しい青年になっていた。
「別に悔しくはないよ。契約したものの色々どうするっかなって悩んでいたからちょうど良いとさえ思っている。ロザちゃんだっけ、に攻撃されたのも拘束されたのも完全に俺の油断だったしね。あの子良い王宮魔術師じゃん」
そう答えたが、レーゲンはいまいち納得できないといった表情を見せた。
相も変わらずメニューとして出てくるキノコを避けながら俺は聞く。
「俺もちょっと気になっていることがあるんだけど」
レーゲンが表情を変えないまま答える。
「なんだ」
「シャルとロザって仲が悪いの?」
ロザとは教会での一件以来顔を合わせていないが、あの時のシャルを見るロザの視線がいやに厳しかったのが印象に残っている。同僚が悪魔と契約しているところを目撃したのだから、王宮魔術師として厳しくなるのも頷けるのだが、それにしても、だ。
「あの二人か……あいつらは生家が近所だったらしいんだが、確かに仲が良い印象はないな。二人は採用の過程が違ったんだ。それがロザにとっては面白くないんだろう」
採用の過程。確かシャルは第一皇女付き侍女でロザは王宮魔術師だったはずだ。
「この国では、王宮に仕えることは出世街道だし、何よりも親孝行になる。王宮では幼い年齢から仕えることも多いからな。家業を手伝うことよりも金を稼げることも多い」
家に金も入るし、王宮に仕えることで近所では名声にも繋がる。それがこの国の価値観らしい。
幼い頃から親元を離れて働くなんて、大変だな。それが親孝行になるなんて言われれば、我儘も言えないだろう。王宮仕えの子供たちに少し同情した。
「ロザの家は代々魔術師の家系で、ロザは小さい頃から王宮魔術師になる為に勉強を頑張っていました」
いつの間にか部屋に入ってきたシャルロッテが話を続ける。
「王宮魔術師はすごく難しい採用試験を合格してやっとなれる職業で、あの若さで採用されるなんて本当に凄いのです」
再び、レーゲンが口を開く。
「シャルの採用された王族付きの侍女は、王族自らによるスカウトで就職することが多い。王族の、人を見る目を養う一環らしい」
理解してきた。自分が努力して就職した職場には近所の同年代の同性がスカウトで就職していた。それは妬みの原因として十分だろう。
しかし、アルトゥールには採用過程以外にもロザがシャルロッテを妬む理由がある気がしている。
「同郷だし、仲良くしたいって思っているんですけど、私、ドジだから、いつもロザを怒らせちゃうんですよね」
シャルロッテが恥ずかしそうに、そして少し寂しそうに笑った。
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