↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒鎧魔神マジンオー  作者: IPPO
第一章:黒き魔神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/31

第7話『紅蓮の臨界』

 夜空を焦がす爆炎を背にして、漆黒の巨神マジンオーは再び戦場へと降り立った。


「……始まったな、マジンオー。」


「また俺の心臓と、お前が溶け合っていく」


 仁が操縦桿を握ると、肌に直接繋がった生体触手から情報の波が流れ込んでくる。二度目の接続。あれほど異物だった痛みが、今は不思議なほど身体に馴染んでいく。

 目の前では、量産型の狼型兵器が無数に暗闇を蠢いている。国防軍の戦車大隊が十字砲火を浴びせ、一機を爆破せしめたものの、圧倒的な物量による進軍を止めるには至らない。


『全軍、マジンオーの射線軸から退避せよ! 邪魔をするな!』


 指令車のマイクから、鷹宮少佐の指示が飛ぶ。


「少佐、下がってな。あんたらの装備じゃ防戦一方だ…俺がまとめてブチ抜く!」


 仁がレバーを強く引き絞ると、マジンオーの前腕部が高速回転を開始した。空間そのものが小刻みに震え、周囲の空気が歪んでいく。


「喰らいやがれ……『ブーストナックル』ッ!!」


 ロケット推進によって射出された質量兵器は、一直線に狼型の群れへと突き刺さった。高速回転する鉄拳が、空間ごと敵の装甲を削り取り、目前の狼型を瞬時に粉砕して爆発の連鎖を引き起こしていく。


 しかし爆炎を割り、さらに五機、十機と新たな狼型が牙を剥いて飛びかかってくる。


『仁!お願いだから無茶しないで!』


 道場の奥に隠れているはずの深雪の声が、鷹宮の軍用回線に割り込んだ。


『……待て、これは軍用回線だ。どうやって割り込んだ?』

『そんなの道場に置きっぱなしの端末からに決まってるでしょ』

『何? いや、どうやって認証を——』

『ちょっと鍵を開けただけよ! そんなこと今はどうでもいいでしょ!それより……』


「大丈夫だ、深雪。お前がいる街は、俺が絶対に壊させない!」


 マジンオーは腰部の大剣「魔神剣」へと手を伸ばした。仁がコックピットの中で正眼に構えると、マジンオーもまた、大剣を中央に真っ直ぐに構えた。


「剣谷流――!」


 飛びかかる狼型の群れに対し、仁の目がその正中線を鋭く捉える。


「『魔神・唐竹割り二連』ッ!!」


 凄まじい風圧を伴う踏み込み。魔神剣が振り下ろされ、最前列の一機が眉間から文字通り真っ二つに裂けた。その刃を止めることなく、背後に回り込んだ敵機を瞬時に切り裂く。

 

 だが、その直後だった。両断された機体の内部から、不気味な緑色の光が漏れ出た。


『何だと……!?……奴め、自爆する気か!』


 研究所の車いすからモニターを凝視していた如月博士が切迫した声をあげる。

 破壊された量産機のコアから放出された高エネルギーが、周囲に残る他の機体、そして術中に囚われたマジンオーの魔神石と「共鳴」を始めた。


『まずい…奴ら、自分たちのコアを共鳴させてマジンオーを暴走させる気だ!』


 耳を裂くような高音が周囲を満たす。

 緑の光が連鎖し、マジンオーを包囲するように閉じていく。



「う、あ、あああああッ!!」


 仁は激しい胸の痛みに絶叫した。胸の奥の心臓が、まるで沸騰したマグマのように熱く脈打つ。自分の皮膚の下で、赤い何かが蛇のように這い回るのが見える。今にも脳が焼き切れそうだった。


『仁! これ以上共鳴が進めば、東京湾一帯が消滅する! 距離を取るんだ!』


 如月博士の必死な声がスピーカーから響く。

 しかし、周囲を囲む狼型の残党は、マジンオーを逃すまいとさらに折り重なって迫る。

 視界が赤く染まり、全能感が冷たい絶望へと変わっていく。


(ここまでなのか……。結局、俺はこのわけのわからない力に呑まれて、街ごと……)


 意識が遠のきかけたその時、鋭い砲撃音とともに通信が飛び込んできた。


『動きを止めるな、剣谷仁! 命じられるまで勝手に死ぬことは軍紀が許さん!』


 鷹宮少佐の声だった。

 仁が混濁する意識の中で視線を前方に向ける。鷹宮が率いる国防軍の装甲車部隊が、マジンオーの周囲に防衛線を展開し、臨界突破のエネルギーの渦中へと決死の援護射撃を敢行していた。戦車砲の一斉射撃が、マジンオーに肉薄していた狼型の足を強引に止める。放たれるエネルギーの余波で自らの装甲が融解していく中、鷹宮は通信に向かって叫び続けた。


『君は私に、下がっていろと言ったな!国防軍では防戦一方だと!ならば見せてみろ!その傲慢な言葉を証明するだけの、君の価値を!』

「……チッ、相変わらず偉そうに……!」


 仁は、薄れかかる意識を反発心と共に踏みとどまらせる。なぜこの男が、ここまで自らの命を懸けてまで前線に踏みとどまっているのか、仁には全く理解できなかった。


 だが、それよりも。


「おい、少佐……!勝手に値踏みするんじゃねえよ。価値だか何だか知らねえが、俺は深雪を泣かせたくねえんだ!」


 仁の瞳に、闘志が宿る。それに呼応するように、マジンオーの魔神石が眩い光を放ち、折り重なる狼型の群れを弾き飛ばした。


(この高熱も、狂った鼓動も、すべて俺のエネルギーとしてネジ伏せる……! )


「俺の心臓が何でできていようが関係ねえ! 街を、アイツらを傷つける奴らは……この俺が、まとめて消し飛ばすッ!!」


 その瞬間、マジンオーの両肩から、真紅の輝きを超えた、白色の熱波が放たれた。


「焼き尽くせ……! 『ツイン・ブラスター』ッ!!!!」


 大気が爆鳴をあげた。

 マジンオーの両肩から照射された白熱した閃光が戦場を薙ぐ。

 一瞬で狼型の群れが――光の中へ消えた。


 光が収まった後、戦場を支配したのは、完全なる静寂だった。その場にいる誰もが言葉を発せない。 

 湾岸の冷たい海風が、熱せられたアスファルトの煙をさらっていく。周囲の狼型は全滅し、マジンオーの輝きも、静かに真紅の微光へと落ち着いていった。


「……こいつは、強力すぎるぜ……」


 コックピットの中で、仁は激しく震える手で操縦桿から手を離した。生体触手から解放され、凄まじい倦怠感と引き換えに、自分の人間の身体が戻ってくる。胸の奥の鼓動は、まだ熱く脈打っている。

 ハッチが開き、夜風が仁の汗ばんだ顔を叩いた。見れば、少し離れた場所で煙を上げる装甲車から降りてきた鷹宮少佐が、無言のままマジンオーを見上げていた。 

 ただ、仁は気づいた。鷹宮が、酷く強張った指先で自身の胸元を強く握りしめているのを。 

 仁が不審そうに眉をひそめると、鷹宮はすぐにいつもの無表情へと戻り、冷たく、しかしほんの僅かに声を和らげて通信を繋いだ。


「……悪くない立ち回りだ。少々やりすぎだがな」


 一瞬の沈黙の後、鷹宮はフンと鼻を鳴らし、いつも通りの堅物な少佐の口調に戻って言い捨てた。


「任務完了だ。ただちに機体を降りて車に乗れ。……帰還する。あの騒がしい民間人をこれ以上、待たせるわけにはいかんからな」

 

「へっ……人使いの荒い少佐殿だ。……帰ったら、深雪の飯、たらふく食わせてやるからな」


 遠くから、パトカーや救急車のサイレンに混じって、自分を呼ぶ深雪の泣き叫ぶ声が聞こえた。

 仁はマジンオーの頭部バイザーの向こうに広がる、暗い夜空を見上げた。


(……この先、いったい何が起こるってんだ……)


 静寂の中、漆黒の魔神は月明かりを浴びて佇んでいた。

挿絵(By みてみん)

第一章「黒き魔神」、ここまでお読みいただきありがとうございました。

ようやく仁とマジンオーの物語が、本格的に動き始めました。

次章からは、彼らを取り巻く戦いも少しずつ大きくなっていきます。

次章「戦火の中へ」も、ぜひお付き合いください。


続きも読んでみようと思っていただけたら、ブックマークしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。