第6話『覚悟』
火線が飛び交う研究所の敷地へ、鷹宮の駆る軍用車が激しいスキール音を立てて滑り込む。
車内では、鷹宮が自動運転を切り片手でハンドルを握りながら、防衛部隊へ冷徹かつ迅速に無線指揮を飛ばし続けていた。
「管制室より受電、敵機に生体反応なし。無人機と判断する」
「第一、第二高射中隊、即座に迎撃陣形を展開。敵を研究所北側に誘導しろ。第二戦車中隊は回り込んで集中砲火。遠慮はいらん、全火力を叩き込め!」
国防軍の現用兵器は決して無力ではなかった。戦車による組織的な一斉砲撃が、襲い来る狼型の怪物一機を捉え、見事にその装甲を食い破って爆発させる。
しかし、戦況を追う鷹宮の端末の赤色灯は増え続ける一方だった。O.G.Eストーンの減衰による出力不足も兵たちの足を引っ張っている。
そこへ、激しい咳き込みと共に如月博士の声が通信に割り込んできた。
『……鷹宮少佐、聞こえるか。如月だ』
「博士! 研究所に戻られたのですか! まだ動けるお体では……!」
博士は、今まさに敵の攻撃に晒されている研究所の中央指令室、その予備モニターの前に車いすで座り、文字通り死線の中から通信していた。息を吸うたびに、包帯に血がにじむ。
『私のことはいい。……少佐、状況はご覧の通りだ。君の指揮する部隊の戦術なら、量産型相手に互角以上の戦いは可能だが……連中の本質は物量だ。』
博士の言葉に鷹宮の眉が歪む。
『それに、戦闘が長引けば街の電力が完全に死に、避難シェルターの維持すら不可能になる。国防軍が力尽きるのが先か、街の機能が停止するのが先か……』
研究所の防壁が削られる凄まじい衝撃音が響く。博士は血の混じった唾を吐き捨て、スピーカー越しに叫んだ。
『この数の壁を突破するには、通常兵器の連携では間に合わん。あの壁をブチ破るには――今すぐ、車に乗せている仁をマジンオーに乗せるんだ!』
鷹宮はハンドルを握る手が白むほど力を込め、フロントガラスの向こうの火の海を睨んだ。
「それはできません! 上層部からの許可が下りていない。独断での実戦投入など、軍紀が許さない!」
『軍紀だけで人が救えるか!』
博士の怒号が、車内を震わせる。
『少佐、君は正しい。だが、その「正しさ」で失ったものもあるだろう。だから今度は間違わないでほしい。あの機体は、悪魔にも神にもなる。だからこそ……彼を、彼の持つ力を信じてやってくれ……っ!』
鷹宮の美しい顔が、初めて激しく動揺に揺れた。
バックミラー越しに、後部座席で静かに拳を握りしめている仁の姿を見る。仁の胸の奥からは、敵の接近に呼応するように、微かに赤い光が服を透過して漏れ出ていた。
鷹宮は大きく一つ息を吐き、視線を目の前の戦場へ向ける。
「……了解しました、如月博士。これより、国防軍少佐としての『現場判断』で、特異兵器マジンオーの戦術投入を許可します」
鷹宮は一瞬だけ仁の横顔に視線を送り、前線の部下たちに向け通信を送る。
「諸君。これより特務魔神機『マジンオー』を起動させる。残念ながら状況は劣勢だ。各部隊は弾幕を維持しつつ、指定のラインまで後退せよ。——全責任は、私が取る」
鷹宮が通信を終えると同時に軍用車は地下格納庫のスロープへと滑り込み、急ブレーキをかける。そこには研究施設とは思えないほど幅の広い搬送路が、暗闇の奥まで延びている。
車を止めるや否や、鷹宮は後部座席に振り返り、仁の手枷を外した。
「行け、剣谷仁」
「少佐……いいのか? 国防軍の少佐殿が、独断でこんなバケモノ動かしてさ」
自由になった手首をさすりながら、不敵に笑う仁。 鷹宮は車のルーフに手袋を嵌めた手を突き、眉一つ動かさず言い放った。
「勘違いするな。君やあの化け物を信用したわけではない。……だが、我が部下たちの命をこれ以上、無駄にさせるわけにはいかん。私は私の職務のために、今使える最大の手札を切る。それだけだ」
「……へっ、上等だ。行ってくる」
仁は、マジンオーが眠る最深部の格納庫へ向かって一気に駆け出していった。 その背中を、鷹宮は言葉にできない複雑な眼差しで見つめていた。
(……私は今、またあの人の面影を戦場へと……)
直後、地を割り、ふたたび東京の夜空の下へ、鋭く輝く「魔神剣」を携えた巨神が降り立つ――。




