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黒鎧魔神マジンオー  作者: IPPO
第一章:黒き魔神

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第5話『帰還』

 ガタガタと、立て付けの悪い道場の引き戸が開く。


「……ただいま、深雪」

「仁――っ!!」


 三日間、連絡すら絶たれていた幼馴染の姿を見て、エプロン姿の深雪が玄関へと飛び出してきた。

 その目には、みるみる涙が浮かんでいく。


「何なのよもう!いきなり研究所に行ったと思ったら、軍の人が押しかけてきて、仁がロボットで怪物と戦ったとか、捕まったとかいわれて!差し入れに行っても全然取り合ってもくれないし…!」

「…あー、まあ、それはその通りなんだが…説明が難しくて…」

「バカ!きっちり説明しなさいよ!もうこの三日間、生きた心地がしなかったんだから…って、何その怪我!?何かされたの!?」

「いや、これはそのいろいろと大人の事情が…」


 ぽかぽかと仁の胸を叩き、涙を流しながら迫る深雪の剣幕に、仁はただ苦笑するしかなかった。

 その後もころころと表情を変える深雪の質問攻めに遭いながら、仁は自然と頬を緩めた。


「…まあ、詳しいことはよくわからないけれど。とにかくわかりました。一番大変だったのは仁だもんね。ごめん、玄関でずっと立ってるのも大変でしょ。夕飯出来てるから一緒に食べよ」

「ああ。ありがとな。」


 すっきりとした表情で背を向け、茶の間へ向かおうとする深雪の背中を見て、仁は重大な過失に気付いた。


「——あ。そういえば深雪、一つ言い忘れてたことが——」


 仁の言い終わるよりも早く、その背後から、規則正しく硬い足音が響いた。

 門をくぐり、開いた玄関の前に立ったのは、一分の隙もない漆黒の国防軍服を纏った鷹宮少佐だった。


「引き続いてお邪魔する。剣谷仁、および天野深雪。本日をもってこの剣谷道場は、国の『特別管理区域』に指定された。これより私は、彼の二十四時間監視役として、この施設に同居する」

「……はぁっ!?」


 深雪の素っ頓狂な悲鳴が、古い道場に木霊した。


「ちょっと仁、説明しなさいよ! なんで軍の偉い人が、うちの茶の間に偉そうに座ってるわけ!?」


 台所の陰で、深雪が仁の服の袖を引っ張りながら、声を潜めて怒鳴る。元気な彼女の顔は、困惑と怒りで真っ赤だ。


「言ったろ、大人の事情だよ。あの黒いロボットを動かせるのが俺しかいないから、軍に目をつけられたんだ。断ったらまたあの地下室に逆戻りさ」

「な、何それ……じゃあ、仁が街を守ったのに、この人は仁を逮捕しにきたってこと!?」

「いや、監視だってよ。しばらくは面倒かけるけど、今のところ害はなさそうだし勘弁してくれよ。な?」


 そう言って、仁は眉を下げた困り顔で深雪に手を合わせる。深雪はしばらく睨んでいたが、やがて諦めたように肩を落とした。


「……もう。わかったわよ。でも、うちのルールはきちんと守ってもらうからね」


 深雪はそう言って夕飯の支度に戻るが、すれ違いざま、彼女の瞳が微かに揺らいだ。

 今しがたの会話の中、シャツの隙間から覗く肌に、血管とは違う、赤く不気味に脈動する光の筋のようなものが一瞬だけ走った気がしたのだ。

 目を凝らしたときには既に消え失せていたが、その残像の熱っぽさが、深雪の胸に言い知らぬ不安を植え付ける。


「……仁? 今、何か光らなかった?」

「ん? 気のせいだろ。腹減ったな」


仁の平然とした顔を見て、深雪は「見間違いか」と自分に言い聞かせた。


「少佐、飯の時までその格好かよ。せめて靴くらい脱げ」

「何を言っている。私は既に素足だ」


 見れば、完璧な軍服姿のまま靴下だけがない。


「いや、逆になんでだよ……」


「もうっ! 上がるなら軍服の上着を脱ぐ! 部屋ではリラックス! うちの晩ご飯に文句を言わない!」


 深雪がフライ返しを突きつける。

 鷹宮は数秒沈黙した。


「……了解した。ただし上着は脱げん。前二つのボタンまで開けよう。それ以上は軍紀が許さん」

「めんどくせえ男だな……」


 仁が深い溜息をつく。

 

 だが、その奇妙な平穏は、最悪の形で破られることとなった。

 その日の深夜。突如として、道場の古いテレビ、仁や深雪の携帯端末、そして設置されたばかりの鷹宮少佐の軍用端末が一斉に激しいノイズに包まれた。

 画面を支配したのは、不気味なエンブレム。そして、スピーカーから響き渡ったのは、地の底から響くような男の声だった。


『全世界の人間へ告ぐ。我が名はヴァイスマン。これより、既存のすべての無能な国家、および国連の解体を要求する。……拒絶の答えは不要だ。もはや人類に猶予はない。我らの鉄の軍勢が、汝らを力によって管理・統合する。本日この刻を以て、世界は我らの統治下に入る。繰り返す……』


「ヴァイスマン…もしや、あのヴァイスマン博士か…?」


 深雪が恐怖に息を呑む中、鷹宮は即座に立ち上がり、軍服のボタンを締め直しながら画面を静かに見据えていた。

 

「ヴァイスマン?なんかどっかで聞いたことがあるような…」

「Dr.ヴァイスマン。如月博士と並ぶ魔神機研究の権威だ。現存する魔神機は彼の基礎設計によるもの……小学生でも知っているぞ、剣谷」

「……場を和ませようと思ったんだよ。いちいち突っかかんな、少佐殿」


 悪態をつく仁だったが、その眼には確かな戦慄が走っていた。

 鷹宮はこめかみに指を当て逡巡する。


(その男が今、武力蜂起だと……?無茶な。何をそこまで焦っている……?)


 宣言と同時に、遠くから重低音の爆音と地鳴りが響き渡る。先日街を襲った狼型機動兵器の群れが、マジンオーの眠る「如月エネルギー研究所」に向かっている。


「深雪、お前は奥の部屋に隠れてろ!」

「仁! 少佐、仁をどうする気ですか!?」

「任務を遂行する。――剣谷仁、車に乗れ!」



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