第4話『鷹宮司』
『マジンオー』第2話:『銃口のなかの巨神』なろう版1
国防軍の砲口がマジンオーを完全包囲していた。コックピットの中、剣谷仁は、荒い呼吸を繰り返しながら操縦桿を握り直そうとした。だが、指先一つ動かない。
『……やめたまえ、中隊長。その引き金を引けば、君たちは東京を失うことになるぞ』
ノイズ交じりのその声は、重傷を負いながらも指令室の予備通信機に這い上がった如月博士のものだった。
「如月博士!? 生きておられたのですか! しかし、あの機体は国防軍の管轄外の戦略破壊兵器……ただちに鹵獲、あるいは破壊せねば安全が担保できません!」
『その機体――『マジンオー』の心臓であるオリジナルの魔神石は今、中の青年と完全に神経同調している。あの石は搭乗者の生体反応や精神状態に応じて出力を変える……ただでさえ戦闘の後で不安定なのだ、下手に刺激すれば暴走するぞ』
「ぼ、暴走…?」
『東京湾一帯を吹き飛ばしたいなら、撃ってみるといい』
「……っ!」
中隊長の顔が苦渋に歪む。
「……全隊、砲撃中止。包囲を維持したまま、機体が沈黙するのを待て。パイロットが降りてきた瞬間、身柄を確保する」
しばしの沈黙ののち、ハッチが開く。
仁は身動きも取れず、コンクリートの地面へと引きずり出された。ぼやけていく視界の中、軍靴の硬い音だけが聞こえていた。
——連行されたのは、地下シェルターの奥深くに急設された、窓ひとつない「特別尋問室」だった。
無機質な部屋の中、四方から浴びせられる容赦のないライト。尋問は、昼夜を問わず続いた。
「知らないものは、知らない」
仁は手錠を嵌められた手を組んだまま、ただ一言だけを返し続けた。
——尋問が始まって三日目の夜。
「……お前、いい加減に吐けよ。早く家に帰りたいだろう」
仁の正面に座る尋問官は、明らかに苛立っている。
しかし仁は、その様子を気にかけるでもなく尋問室の天井を眺めていた。
「こいつ……! 聞いてるのか!」
業を煮やした尋問官が立ち上がり、拳を振り上げる。その時だった。
「ご苦労」
薄暗い尋問室には到底似つかわしくない、涼やかだが重みのある声が響いた。
その瞬間、尋問官は振り上げた拳を慌てて降ろし、即座に直立した記録員とともに一糸乱れぬ敬礼を捧げる。
コツン、コツン、と規則正しく硬い足音が響く。
現れたのは、ボタン一つ、皺一つ歪みのない、漆黒の日本国防軍の軍服を完璧に着こなした男だった。
男が室内の尋問官を一瞥する。
「殴らなかったのは正解だ。下がれ」
「……失礼します!」
2人の軍人が慌ただしく退室する。
薄暗い尋問室に静寂が訪れる。
男はデスクを挟んで仁の正面に立つと、氷のように冷たい視線を投げかけてきた。
「……私の名は鷹宮司。階級は少佐だ」
その名乗りを聞き、仁の眉が微かに動いた。自分とそれほど年が離れているようには見えない。二十代後半といったところか。端正な顔つきだが、表情はない。
「剣谷仁、二十三歳。君の身辺は調べさせてもらった。……『剣谷流剣術道場』の財政状況、アルバイトのシフト、お兄さんの事まで、全てだ」
「……!」
仁の目が、初めて刃のように鋭く細まった。
鷹宮は気にするそぶりもなく淡々と続ける。
「単刀直入に言おう。我々日本国防軍は、君を完全にマークしている。世界中のインフラが死にかけているこの最悪のタイミングで、国防軍すら関知しない戦略破壊兵器を起動させた。これがどれほどの国際問題か、分かっているか?」
仁は手錠の擦れる金属音をわざと大きく鳴らしながら、パイプ椅子に深く背を預けた。そして、傲然と鷹宮を睨み返す。
「あんたらの事情は知らないって言っただろ。俺は自分の居場所を守っただけだ。……それに、国防軍の装備じゃ防戦一方だった。それが事実だろ、少佐殿」
「……っ」
鷹宮の眉がわずかに動く。しかし、彼はすぐに冷徹な軍人の顔に戻る。
「まあいいだろう。君がこれからもマジンオーを動かすというなら、それは我が国防軍の厳重な管理下、つまり君もマジンオーも我々の『兵器』として扱わせてもらう。」
「へっ、結局はそれが目的なんじゃねえかよ」
鷹宮は組んだ両手を口元へ寄せ、まっすぐに仁を見据える。
「……いいか。これは、如月博士からの強い働きかけもあっての特別措置だ。そうでなければ、このような対応は軍規が許さん」
「じいさんが?」
「……まあいい。まず釈放の手続きだ。ここで暫し待て」
この男の瞳の奥に、仁は感情を読み取ることができなかった。
鷹宮は立ち上がり、またツカツカと尋問室の扉へ向かっていく。
扉の前で振り返り、無表情なまま仁へ視線を向けた。
「そしてこれからは私が、君の『監視役』となる」
鷹宮は、それだけ言い残し退室していった。
「……勝手にしやがれ」
静寂の戻った部屋で、仁は閉じられた鉄の扉を睨み続けていた。




