第29話『代償』
『そこまでだ、ヴァイスマンの操り人形ども』
猛吹雪の向こうから、シャドウカイザーが現れる。
通信回線から響くのは、この数日間、仁を徹底的にしごき続けてきた、鉄仮面の声。
「兄さん……!」
仁が叫ぶより早く、シャドウカイザーの機動は戦場を支配した。
「――剣谷流剣術、双破・連天斬」
一寸の無駄もない、極限まで研ぎ澄まされた二連撃。第一撃で敵の氷装甲の固有振動数を見極め、それが砕け散る瞬間の隙間に、寸分の狂いもなく第二撃の鋭い突きが内部フレームへと叩き込まれた。
あらゆる打撃を無効化していた巨体機だったが、その一撃によって片腕を切り落とされる。
「仁、このデカブツは任せる。私はエクリプスを抑える」
シャドウカイザーは即座に向きを変え、エクリプスへと接近していく。
マジンオーは立ち上がり、巨体機へ向き直る。
「……ありがとよ、兄さん。このままじゃ格好がつかねえもんな……」
仁は深く息を吸い、思考を巡らせる。
(兄さんが見せてくれた、あの突破方法……俺なりにやってやる!)
マジンオーは魔神剣を右手に携え、左拳を突き出し高速回転させ始める。
じりじりと距離を詰める巨体機に対し、慎重に間合いを測る。
「……行くぜッ!」
仁が叫ぶなり、マジンオーはブースト・ジャンパーを水平方向に噴出させ、地を這うような低い姿勢で巨体機へ飛び込むと同時に魔神剣を投げつけた。
巨体機が冷却液を吹き出しその突進を阻もうとするが、マジンオーの速度に追いつけない。同時に飛来した魔神剣を片腕で弾き落とす。
「……そこだッ!」
仁はその隙を見逃さなかった。
巨体機の足元から、高速回転させた左拳を射出。鉄拳が氷の装甲を砕く。
「まだだッ!」
その瞬間、マジンオーがブースト・ジャンパーを強引に噴かし、巨体機の足元から垂直に飛び上がる。
左肩のヘラクレス・ブレードが電撃を迸らせ、勢いのまま左肩から突っ込む。
白熱する刃が、巨体機の股下から脳天を真っ二つに切り裂いた。
推進力を失ったマジンオーが地面に叩きつけられると同時に、巨体が大爆発を起こす。
「チッ……!」
黎のエクリプスが即座に牙を剥き、シャドウカイザーへ手負いの獣のような鋭い刺突を繰り出すが、鉄仮面はそれを最小限の反転だけで完璧に受け流し、逆にカウンターの鋭い蹴りでエクリプスを雪原へと叩き伏せた。そのまま流れるように、三機の随伴機の脚部に斬撃を叩き込み、その動きを牽制する。
『――黎、ここは退け。シャドウカイザーの稼働データは我々の予測を超えている。すでにストーン回収の目的は達している以上、戦闘の継続は損耗を加速させるのみだ』
通信越しに響くヴァイスマンの無感情な命令。
黎は忌々しげに戦場を睨み、随伴機と無人機を引き連れて吹雪の彼方へと撤退していった。
――データ転送、完了。
「……終わった、のか」
仁が息を吐き、エミリーが安堵の声を上げた、その瞬間だった。
ガクン、とシャドウカイザーの全システムが唐突に沈黙し、漆黒の機体は糸が切れた人形のように雪原へと崩れ落ちた。
「兄さん――!!」
仁はマジンオーを飛び出し、猛吹雪の中を生身で走り、シャドウカイザーのハッチをこじ開けた。
そこにいたのは、ひび割れた鉄仮面の隙間から鮮血を吐き、完全に意識を失った兄の姿だった。半分以上が機械化されたその身体は、高熱の蒸気を上げるようにして酷く痙攣している。仁の手を借りなければ、機体から降りることすらできないほどに、彼の肉体はとうに限界を迎えていたのだ。
「深雪さん、救助班を! 剣谷大尉をすぐに収容してくれ!!」
鷹宮少佐の悲痛な叫びを受け、アース・クローラーの救助班が雪原へと飛び出す。
大きく損傷したマジンオー、エンペラー・ルージュと、昏睡状態の剣谷響をシャドウカイザーともども艦内へと強制収容し、アース・クローラーは地中へと潜航した。




