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黒鎧魔神マジンオー  作者: IPPO
第四章:凍土より

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第27話『永久凍土』

 地表からの熱線を遮断したアース・クローラーは、ユーラシア大陸の地下深く、永久凍土の層を削りながら北上を続けていた。 

 メインモニターに映し出される地上波形は、一面の白。

 ブリッジに届くセンサー情報には、氷点下四十度を下回る極寒の環境と、ヴァイスマンの無人機集団による「O.G.Eストーン強奪」の痕跡が、生々しい数字となって羅列されていた。


「シベリアの防衛線、第四ストーン貯蔵庫周辺の熱源反応……すべて沈黙しています」


「……あのロシア軍が、ここまで無残にやられているとはな……奴らは、すでに次のポイントへと移動しているはずだが……」


 艦長席の鷹宮が、不気味なほどに静まり返ったシベリアの全図を睨みつける。

 ストーンを強奪された地域は、例外なく都市機能が完全停止し、文明の灯が消える。ヴァイスマンの「世界同時侵攻」は、地球を文字通りの暗黒へと陥れつつあった。


「少佐。あの雪原の下には、私たちが回収すべき『最後の可能性』が眠っている」


 コンソールの前から声を上げたのは、如月博士だった。


「ロシアが誇った超重装甲機『アイアン・フォートレス』。紅い魔神機によって大破したと聞くが、あの機体の装甲技術、そして耐寒・高出力の大型炉心のデータがあれば、マジンオーのオリジナル魔神石をより安全に、かつ最大効率で稼働させるための外殻システムを構築できるかもしれない」

「つまり、残骸のサルベージですか」


 仁はマジンオーのコックピットへと繋がるシートに深く腰掛け、静かに拳を握り直した。鉄仮面との修練を経て、仁は以前より魔神石の出力を制御できるようになっていた。


「俺が行くぜ、じい……博士。死ぬような思いで叩き込まれた剣谷流の技、あの雪原で試してやる」

「一人で行かせるか、野蛮人。……私も出撃する。新生した我がエンペラー・ルージュの足、凍土ごときに鈍ることはない」


 背後から歩み寄ってきたのは、エミリーだった。彼女はサイズの合わない道着から再びフランスの華やかな軍服へと身を包んでいる。二人は一度視線を合わせると、そのままそれぞれの機体へ乗り込んでいった。



 アース・クローラーがシベリアの雪原へと強行浮上した瞬間、吹き荒れる猛吹雪が二機の魔神機を狂暴に迎えた。視界は数十メートル先すらおぼつかない。

 仁のマジンオー、エミリーのエンペラー・ルージュが雪煙を排して前進すると、やがてその巨大な「影」が姿を現した。

 ロシア軍の誇り、『アイアン・フォートレス』の残骸だった。

 かつて鉄壁と謳われた超重装甲は、まるで鋭利な錐で穿たれたかのように、胸部中央のストーン炉心付近を貫かれていた。紅い魔神機『エクリプス』が放った一撃がどれほど凄まじいものであったか、その引き裂かれた鋼鉄の断面が物語っていた。


「分厚い装甲の繋ぎ目をミリ単位で一突きか……。これが、奴の『淀みのない技術』か」


 マジンオーのコックピットの中で、仁は冷や汗が流れるのを自覚した。


(こんな芸当が、俺にできるのかよ……)



「仁、感傷に浸っている暇はない。……敵襲だ!」


 エミリーの鋭い警告と同時に、猛吹雪の向こうから、無数の不気味な赤いセンサーアイが浮かび上がった。 だが、そこにいたのは通常の無人機だけではなかった。

 地鳴りのような重低音と共に現れたのは、これまでの魔神機とは一線を画す巨躯を持つ、重装甲の異形機だった。周囲の猛吹雪と地表の氷雪を自らの機体各所へと吸い込み、瞬く間に全身をガラスのように鋭利で、強固な結晶の層で覆い尽くしていく。

 さらにその背後には、あの紅い魔神機に酷似したシルエットを持つ、酷く無機質な随伴機が三機、一寸の乱れもない陣形で滑り込んできた。それだけではない。プラズマキャノンを携えた無数の無人機が、崖の上から冷たい銃口を向けていた。


「残骸のデータ転送が完了するまで、あと十分……! 二人とも、アイアン・フォートレスを守って!」


 アース・クローラーのブリッジから深雪の必死のオペレーションが飛ぶ。退路のない雪原の上で、仁とエミリーは背中合わせに武器を構えた。



「よくもまあこれだけの数を潜ませていたもんだぜ……エミリー、前は任せる! 背後は一枚も通さねえ!」

「了解だ。我が白銀の装甲、この程度の吹雪で凍りつきはせん!」


 エンペラー・ルージュは巨大な盾を掲げ、猛吹雪の正面から突っ込んだ。

 三機の黒い随伴機から放たれる精密な集中砲火を盾で強引に弾き、主武装たる長大なガンランスの砲身を吼えさせる。

 凍てつく大気を爆風で焼き払い、生じた煙幕を割ってランスの鋭い刺突を叩き込むが、感情のない敵機は微細な連携でその一撃を回避し、重装甲ゆえに鈍るエミリーの死角を冷徹に削っていく。

 一方、仁のマジンオーは、中央の巨体に向かって魔神剣で斬りこんでいた。魔神石の出力を剣術に乗せた、鋭い一撃。

 だが、斬撃が直撃した瞬間、巨体の表面を覆う厚い結晶が身代わりとなって激しく砕け散り、すべての衝撃を霧散させてのけた。

 驚愕する仁の隙を突くように、敵の胸部ハッチが開き、超低温の冷却液がマジンオーへと吹き付けられた。外殻フレームが瞬時に凍りつき、駆動系の出力低下を告げるアラートが不気味に鳴り響く。


「しまっ……っ!」


 動きを止められたマジンオーの胸部へ、巨腕に形成された巨大な氷塊が容赦なく叩き込まれた。 衝撃波が雪原を奔る。マジンオーは装甲を砕かれながら、遥か彼方へと激しく吹き飛ばされた。


「仁――!!」


 エミリーは仁の危機を救うべく、装甲をパージし防御と引き換えに機動力を高める『ラピエール・モード』を展開しようとレバーを押し下げた。

 しかし、それを予測していたかのように、三機の随伴機が一斉にエンペラー・ルージュの装甲パージボルトへと正確な銃撃を浴びせた。火薬ボルトが内部で破壊され、外装を歪まされたエンペラー・ルージュは、パージすら封じられたまま雪原へと膝を突いた。

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