第19話『潜航』
「システムエラーが多すぎます!暴走したセキュリティコードが、航行システムをロックしています!このままじゃ……」
指令室のコンソールの前で、包帯を巻いた操が悲鳴を上げる。
ヴァイスマンの爆撃で破損した回路が原因だった。アース・クローラーが完全に分離・発進する前に軍の特殊部隊に踏み込まれれば、すべてが終わる。
「操さん、ちょっと退いて。代わります」
「えっ、えっ、深雪ちゃん?」
支給された研究所の制服の上着を脱ぎ捨て、ブラウスの袖を猛烈な勢いでまくり上げた深雪が、操の席へと滑り込んだ。
「深雪くん、やれるのか?」
「先日も言いましたが……私、『ちょっとだけ』こういうの詳しいんです。やらせてください」
「……わかった。水城くん、サポートを」
「わかりました。深雪ちゃん、私がナビゲートするから安心して。まずは第2予備回線から潜航制御を――」
深雪は頷くと、十指をキーボードに走らせる。暴走したセキュリティコードを迂回し、航行システムへ強制的に経路を繋いでいく。
「深雪ちゃん、すごい……!航行システム、強制バイパス確立しました!」
操が深雪の隣で艦の状況を告げる。その間にも深雪の手は止まらない。
「私がマニュアルで姿勢制御すればいいから……うん、あと180秒で潜航シークエンスへ移行可能です!」
操の報告を受け、鷹宮が仁へと向き直る。
「……剣谷、聞いた通りだ。潜航準備が整うまで、あと三分だけ地上を抑えてくれ」
「おうよ! 任せとけ!」
仁は即座に地下ドックを走り、マジンオーのコックピットへ滑り込んだ。
そこへ、ブリッジの鷹宮から通信が入る。
『剣谷、聞こえるか』
「あ?なんだよ少佐、時間ねえぞ」
『これからお前が戦うのは国防軍だが……相手は無人機だ。迷うなよ』
「……!」
『……それだけだ。地上は任せた』
鷹宮はそう言うと、一方的に通信を切った。
仁は操縦桿を握る手を放し、その手のひらを見つめた。
「大丈夫……わかってるさ」
仁は再び操縦桿を強く握りしめ、視線を前方へ向けた。
「あいつらの邪魔を……させるかってんだよ!」
カタパルトから地上へと強行射出されたマジンオーは、『魔神剣』を引き抜いた。
研究所の敷地内に突入してきた国防軍の無人迎撃装甲車の一台を魔神剣で叩き潰した瞬間、その残骸の陰から別の砲塔が火を噴く。仁は肩で砲撃を受けながら、回転する拳を装甲へ叩き込んだ。
(勢いよく飛び出してきたはいいものの……これはちとキツイな……)
圧倒的な出力で敵を粉砕し、アース・クローラーの発進口への接近を命がけで阻止し続けるマジンオー。無人装甲車では敵うはずもなく、次々と鉄の残骸が積み上げられている。
「深雪!時間はあとどれくらいだ!?」
「あと30!仁、もう少しだけ持ちこたえて!」
深雪は祈るように、眼前のコンソールのタイマーを見つめながらキーボードを叩き続ける。モニターの向こうでは、マジンオーが国防軍の物量に押され、装甲から火花を散らし続けている。
マジンオーのコックピットには、無数の警告音と共に仁の荒い息遣いが響いている。
「…っぐ!はあ…はあ…あと少しだ、絶対に通さねえぞ…!」
その時、ブリッジのモニター上のカウントダウンがグリーンから赤に変わり、その終わりを告げようとしていた。
「3、2、1……カウントゼロ! 仁、戻って!!」
深雪の叫びと同時に、マジンオーは背部のブースト・ジャンパーを瞬間駆動させ、地中深くへと口を開けたアース・クローラーの巨大なハッチへと後ろ向きに飛び込んだ。 直後、重厚な外殻ハッチが完全に閉塞。
アース・クローラーは、地上に無数の追っ手を残したまま、暗黒の地中深くへと潜航を開始した。




