第17話『黒き翼』
クリムゾンの紅い機体は、仁の古武術に酷似した淀みのない体捌きで、マジンオーに急接近する。
「うるせえ! 壊すことしか知らねえ人形が、偉そうに語るな!」
仁は剥き出しの怒りと共に魔神剣を叩きつけるが、クリムゾンはそれを受け流し、逆にカウンターの鋭い打撃をマジンオーの腹部へ叩き込む。その瞬間、仁の視界が白に覆われ、脳裏に映像が走った。
――青緑の光。
床へ飛び散る赤。
震える手で薬品カプセルを掴む、仁と同じ顔。
『……を、守る……』
『黎……もう、やめて……』――
一瞬ののち、仁は視界を取り戻す。
「な、んだ……今の。あいつの、記憶……!? やっぱり、あいつは俺の…… 」
動揺と、オリジナル魔神石の過負荷による胸の激痛が仁を襲う。そこへ、包囲していた無数の重装甲機兵が一斉に牙を剥いた。四方からの同時砲撃を受け、マジンオーの機体が火花を散らして膝をつく。
『仁!!』
ブリッジの深雪の悲鳴が通信を乱す。
敵の兵器群がマジンオーを取り囲み、一斉にトドメの火線を向けた。仁の意識が、極限の苦痛の中で遠のきかける。
もはやこれまでかと思われた、その刹那だった。
大空の雲海を突き破り、凄まじい速度で滑り込んできたのは、かつてマジンオーの窮地を救った漆黒の可変戦闘機――シャドウカイザーだった。
シャドウカイザーは飛行形態のまま超音速で戦場を縦断し、マジンオーを取り囲んでいた重装甲機兵の群れを、主翼の風圧とレーザー掃射で吹き飛ばし、包囲網に大穴を開ける。
強烈な制動をかけながら、漆黒の機体が滑り込むようにして人型へと変形する。立ち上がったシャドウカイザーは、クリムゾンとの距離を一瞬でゼロにする。
クリムゾンがすかさず標的を変え応戦する。しかしシャドウカイザーは、仁のそれよりも遥かに洗練された、圧倒的な剣谷流古武術の体捌きでその攻撃を受け流していく。
「……まさに、圧倒的だな……」
ブリッジの鷹宮少佐が、その洗練された動きに息を呑む。
紅い機体のコックピットで、黎は唇の端から鮮血を一筋流しながら舌打ちする。
「……また邪魔が入った。時間だ」
クリムゾンは咄嗟の蹴りで距離を取ると、忌々しげに機体を反転させ、残存部隊と共に撤退を開始した。
静まり返る戦場。
コックピットのモニターの中で、人型のまま佇むシャドウカイザーを見上げ、仁はマイクを開いた。
「あんたは……一体誰なんだ! なんで剣谷流の技を……!」
沈黙。
やがて、ノイズ混じりの通信回線から、低く、冷徹な男の声がブリッジとマジンオーのコックピットに響き渡った。
『――技が粗いぞ、剣谷仁。……死にたくなければ、強くなれ』
仁は息を呑んだ。
その声は、五年前に失ったはずの、誰よりも聞き慣れたはずの……兄、響の声にあまりにも酷似していた。
鷹宮もまた、その瞬間、凍りついたように目を見開いた。指先が、通信機のマイクに触れようとして止まり、そのまま震えに変わる。
何も語らぬまま、漆黒の巨躯は再び飛行形態へと変形し、音速を超えて夕闇の空へと消え去っていった。
残された仁の、呆然とした表情がモニターに映し出される。
深雪は、指先のわずかな震えを抑え込むように手を握りしめ俯く。そして、ブリッジにいる誰もが、言葉を放つことはできないでいた。まるで時間が止まったような沈黙が、敵のいない戦場を包み込んでいた。
第二章「戦火の中へ」、ここまでお読みいただきありがとうございました。
自分と同じ顔を持つ謎のライバル、そして漆黒の機体シャドウカイザー。
仁の前に、新たな敵と謎が次々と姿を現し始めました。
次章「世界へ」では、戦いの舞台もさらに広がっていきます。
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