第13話『空の悪魔』
戦場へと降り立った仁は、地獄のような惨状を目の当たりにした。
灰色の雲が垂れ込める空からは何も見えない。ただ、焦げ付いた臭いだけが風に乗って漂ってくる。
直後、何の予兆もなく天からの閃光が走った。衝撃波がマジンオーの装甲を痛烈に叩き、地面を削りながら押し込まれる。
「が、ああっ……!」
コックピット内のモニターが激しく明滅し、鈍い激痛が仁の脳へダイレクトに跳ね返ってくる。
『仁くん、ダメ! 完全にロックオンされてる! 一時撤退を!!』
操がスピーカー越しに声を張り上げる。だが、仁の心臓――魔神石は、激しい怒りと焦燥によってすでに内側から禍々しく脈打ち始め、その視界を赤く染めていた。
「退けるかよ……! あいつらが、あいつらが全部壊したんだぞ!!」
マジンオーの両肩が激しく発光し、空中へ向けツイン・ブラスターを放つ。
だが、敵機は照準が収束するより早く軌道を変え、その熱波は虚しく空を切った。
仁は咆哮し、胸部の装甲を強引に展開させた。そこには、緊急防衛用として内蔵されていた小型のホーミングミサイルポッドがせり出している。
「……これなら、どうだッ!!」
仁がトリガーを絞ると、数発のミサイルが白煙を引いて空へと吸い込まれていく。
だが、そのミサイルは上空で翻る敵機の回避運動を捉えきれず、虚しく雲海の中に消えていった。
敵機は嘲笑うかのように、再びトドメの爆撃軌道へと機首を反転させる。
直後、上空からの二の矢がマジンオーの右肩を容赦なく貫く。漆黒の巨躯が木の葉のように吹き飛び、地面を激しく削りながら転がった。衝撃で火花が飛び散るコックピットの中で、仁はかつてない激痛に襲われ、意識が昏い闇へと沈みかけていた。
「深雪……」
マジンオーは動かない。空からの理不尽な暴力の前に、地に伏していた。
漆黒の巨神を見下ろし、爆撃機がトドメの垂直降下を開始する。
――その時だった。 灰色の雲海のさらに上空、すべてを切り裂くような轟音が天を引き裂いた。
爆撃機の死角から、空間を鋭く滑り込んできたのは、軍の所属でもヴァイスマンの兵器でもない、巨大な漆黒の戦闘機だった。
黒い戦闘機は爆撃機とマジンオーの間へ割り込み、翼の旋回だけで鋭い突風を叩きつけると、そのまま滑るように巨体を地上へ降ろした。倒れたマジンオーを背後に庇い、鋭い機首を空の敵へ向ける。
『……こちらシャドウカイザー。これ以上の追撃はさせん』
ノイズ混じりの声が通信回線に割り込む。
黒い戦闘機は音を置き去りにしながら一直線に敵機へ向かい、両翼の先端からレーザーを放つ。
爆撃機はレーザーを間一髪で回避する。直後、黒い戦闘機の機動性能を脅威と判断したのか機首を大きく翻し、それまでの執拗な攻勢が嘘のように急上昇し、雲海の彼方へ離脱していった。
その後ろ姿を見送るかのように黒い戦闘機は数秒空中で静止したのち、何も言わずに別の方角へ飛び去って行った。
空の脅威が去り、無数の赤色灯の光とサイレンが鳴り響く中、どうにか駆け付けた回収班によりマジンオーは如月研究所の地下ドックへ収容された。
醜く歪んだハッチをこじ開けられ、シェルターへと回収された仁だったが、そこで彼を待ち受けていたのは、さらなる地獄だった。
担架に乗せられ、全身の鈍い痛みと倦怠感に意識を手放しそうになりながら、視線を送った先には深雪の姿があった。だが、その姿は仁の知る深雪の姿とは似て非なるものだった。
シェルターの薄暗い片隅、着の身着のままの姿で、膝を抱えてガタガタと震えている深雪の姿。その目は光を失い、涙さえ枯れ果てていた。
「俺は、守れなかった……」
仁は、自分の無力さに打ちのめされ、両手で顔を覆いながら天を仰いだ。




