第14話『喪失』
悪夢の爆撃から三日後。半壊した如月エネルギー研究所の戦闘ブリッジには、非常用のアラートだけが冷淡に響き続けていた。
あの日から爆撃の第二波、第三波が連日研究所を襲い、メインシステムは沈黙。さらにセキュリティの暴走による内部ロックダウンが発生し、分厚い隔壁が全ての出入り口を遮断している。
「操くん、しっかりするんだ……」
薄暗い非常灯の下、如月博士の掠れた声が響く。
第二波の爆撃では、水城操が仁たちを庇って負傷した。
幸い命に別状はなかったが、しばらくオペレーター席へ戻れる状態ではない。
仁は、壁に背を預けて座り込んだまま、己の拳をじっと見つめていた。
脳裏をよぎるのは、黒煙を上げて崩れ落ちた剣谷道場、そして天野家だ。
「深雪…」
シェルターの片隅では、深雪がリクルートスーツ姿のまま膝を抱え、涙さえ枯れ果てた目で虚空を見つめている。
あの日彼女は就職面接を控え、自分の将来への期待に胸を膨らませていたはずなのだ。
――だが、現在も実家の焼け跡から両親の姿は見つからず、安否すら分からない。
「……すまねえ、少佐。俺が、空の敵を落とせなかったばかりに、街が…深雪の家まで……」
絞り出すような仁の言葉に、鷹宮少佐は無言で歩み寄り、その胸ぐらを静かに、だが痛いほどの力で掴み上げた。
「自分の無力さを呪って、戦うのをやめる言い訳を探すな、剣谷」
鷹宮の低い声は、仁にではなく、自分自身に向けられているかのようだった。
「……この際だから聞かせてやる。五年前、私は君の兄――響さんの後輩として、同じ任務に就いていた。だが、響さんが単独で敵地への潜入任務に赴いたとき、私は軍の命令を優先し、彼を一人で行かせてしまった。その結果、響さんはMIA――行方不明になった。」
「あ、あんたが…兄さんの…?」
「それだけじゃない。響さんの婚約者だった冴子さんも、行方不明になった響さんを探して姿を消してしまった。あのとき、命令を無視してでも一緒に行くべきだったと、今でも毎日後悔している」
掴まれた仁の胸元に、鷹宮の苦渋に満ちた視線が落とされる。
「あのときの絶望を、私は二度と繰り返したくない。ここで立ち止まれば、本当にすべてを失う。……立て、剣谷仁。生きているなら、その足で抗ってみせろ」
「…少佐……」
鷹宮の端正な貌が、苦しみに歪んでいる。だが、その瞳はまっすぐに仁を見据えている。
「……そうか。あんたも苦しんでたんだな。……ありがとよ、少佐」
鷹宮は言葉を返さず、鼻を鳴らして静かに立ち去って行った。
その背中を見送りながら、仁は早まる鼓動を抑えるように、握った拳を左胸に押し当てていた。
その時、シェルターの強固な天井を震わせる、重苦しい地鳴りが響いた。
アナウンスが機械的な合成音声で、あの空戦型兵器の爆撃が始まったことを告げる。
「行くぜ、マジンオー……。壊されるのを待つくらいなら、泥を啜ってでも打って出る」
仁は痛む胸を押さえつけながら立ち上がり、手動ハッチからマジンオーのコックピットへ滑り込んだ。
「待て!仁!そのまま行っても……!」
如月が制止する声を無視し、マジンオーは地上へ歩き出す。
しかし、地上へ出撃したマジンオーを待っていたのは、前回以上のワンサイドゲームだった。操の的確なナビゲーションを欠いた状態では、灰色の雲海から一方的に超音速で撃ち下ろされる爆撃を回避することすら叶わない。
「がはっ……クソ、どこから狙ってやがる……!」
さらに、過酷な神経同調のノイズが仁の脳を侵食する。脳裏に浮かぶのは、光の繭の中で悲しげに瞳を閉じる、見知らぬ少女のビジョン。
精神と肉体の双方が限界を迎え、マジンオーの機体が力なく膝をついた。




