↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅の魔女は新月に笑う  作者: 蓬莱萌


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/27

20. それで押し通す

土日なので連日更新してみました。

次回はまた1日空けて更新します。

お読みくださりありがとうございます。

「黒い目の人物か……それは、破滅の魔女ではないのか?」

「わかりません。ただ、絶対に悪い人ではないです」


 ルクレツィオが問うと、セラフィーナはキッパリ言い切った。


「そうか……」


 ルクレツィオは目頭を押さえて暫し黙り込んだ。テレーザは気遣わしげな表情で胸の前で手を組んでいて、ジルベルトは難しそうな顔をしている。


 黒い目は、闇属性の証だ。このアールガルダ大陸では、帝国時代から闇属性は忌み嫌われている。破滅の魔女が生まれるより前からだ。黒い目の子どもが生まれようものなら、バレないよう親にすぐに殺されてしまうか、生かされたとしても親子共々迫害を受けて、結局命を落としてしまう。

 破滅の魔女は運良く生き延びたが、迫害のせいで人格が歪み、世界に恨みを持つようになったというのが定説だ。ルクレツィオしては、迫害自体が唾棄すべき事だと思う。だが、自身が闇属性と関わることになった時、どう振る舞うべきかは正直分からない。


 セラフィーナがよく見るというとても短い夢の話は、ただの夢と言ってしまえる程度のものではある。だが、ルクレツィオにかけられた呪いに触れた事が刺激となったと思われる白昼夢は、取るに足らないとは言い切れない。セラフィーナも同じ認識のようだ。


 ルクレツィオにかけられた闇属性魔術は、呪いではなくセラフィーナと縁を繋ぐためのものだという。それをかけたのは、セラフィーナの夢に出てきた黒い目の人物という事だ。セラフィーナも魔術に込められた魔力に覚えがあるというのでそうなのかもしれない。

 ルクレツィオはこれまで、呪われているという認識はあまりなかった。王室の侍医にそう言われただけで、近衛の審査には落ちたが、それ以外で何か悪い影響があるわけでもなかったからだ。先ほど初めて自身にかけられた呪いというものを目にしたが、確かに悪いものには見えなかった。ルクレツィオは魔物の討伐で呪いを受けた者を見たことがあるが、それとは明らかに違うと思われた。


 セラフィーナの夢に出てくる、セラフィーナに良く似た女性を大聖女アレッサンドラとするなら、その亡骸と共にいる黒い目の人物は破滅の魔女と思われる。だがセラフィーナの語るその人物像は、歴史に語られるそれとは大きく異なる。

 破滅の魔女や闇属性に関するこれまでの認識が覆りそうだが、前世の記憶の一部らしきものをその理由とするのは、根拠として弱い。

 ルクレツィオ自身はセラフィーナを信じようと思うが、他者にそれを説明できるかというと厳しい。セラフィーナが最初話すのを躊躇ったのも無理はない。


「あの、奥様に質問してもよろしいですか?」


 ルクレツィオが考え込んだまま押し黙っていると、ジルベルトが口を開いた。


「はい。なんでしょうか」

「奥様には、私が恵みの力の影響を受けているのがわかるのでしょうか?」


 それは、昨日カシラギに相談事をした際に、セラフィーナに確認しようと話していた内容だった。なぜ今尋ねるのかと思ったが、ルクレツィオはそのまま話を聞くことにした。


「はい。ジルベルトは、他の方と違ってまだ効果が続いていますね」

「それは、私が闇属性の呪いを受けているからでしょうか」

「はい。多分、そうです」

「待て、ジル。なぜそう思った?」


 ジルベルトの問いをセラフィーナはすぐに肯定したが、ルクレツィオには話の繋がりが良く分からなかった。


「フラヴィオ殿下が呪いの話をした時、奥様は私の顔を見て何か納得したようなお顔をされていたので……殿下との友人関係への反応かとも思ったのですが、それなら旦那様の顔を見た時に同じ反応をされるかと思いました」


 セラフィーナはジルベルトを見る時不思議そうな顔をしていたという。その疑問が呪いの話で解消されたのではと、ジルベルトは推測したのだ。


「闇属性の魔力が、恵みの力の効果に影響を与えるということですよね」

「はい」


 セラフィーナが肯定すると、ジルベルトはわずかに眉を顰めてルクレツィオに視線を寄越してきた。ルクレツィオは、ハッと思い当たった。


「まさか……カルファーニア南西部に闇属性の人間がいるのか?」


 カルファーニア南西部は、恵みの力の効果が他の土地とは異なると思われる一帯がある。同じような状態のジルベルトと、その原因も同じなら、そこには闇属性が存在するはずだ。

 先ほどフラヴィオに、闇属性持ちの人間がとうに国内に生まれているかもしれない、と示唆されたばかりで、すぐにそれらしき手がかりにぶつかるとは思わなかった。いや、フラヴィオとその話をしていなければ、即座に思い当たらなかったかもしれないが。


「どうして、それを……」


 セラフィーナが困惑したような声を上げる。そういえば、この話をセラフィーナ本人とはまだしていなかった。


「奥様、申し訳ございません。あの辺りを通った時、奥様の様子が違ったので、私から旦那様に報告してあったんです」


 テレーザが申し訳なさそうに説明すると、セラフィーナはテレーザを見て目を瞬かせてから、シュンと俯いた。


「私、そんなにわかりやすいですか」


 今そこを気にするのか。ルクレツィオはそう突っ込みそうになるのを堪えて、声をかける。


「まあ、君は隠し事や嘘を吐くのは下手だろうな」


 セラフィーナが、ますますシュンと肩を落とした。隠し事をしたかったのだろうか。闇属性の存在を、隠したかったのか。


「しかし……どうするかな、これは」

「恵みの力の効果を見た限りだと、悪い影響ではないですけどね」

「だが、闇属性を見過ごすわけにはいかないからな」


 ルクレツィオがそう言うと、セラフィーナがパッと顔を上げた。


「あの、旦那様、お願いがあります」

「……なんだ」

「闇属性の子を、保護していただけませんか」

「保護?」

「はい」


 セラフィーナが、真剣な眼差しで頷く。


「なぜだ?」

「多分、私にとって、必要な人です。根拠は無いんですけど」


 そう言ってセラフィーナは眉を下げる。ルクレツィオは再び目頭を抑えた。


 闇属性を匿うとなると、様々なリスクがある。しかも、破滅の魔女の生まれ変わりかもしれない人物だ。最悪、サリクスどころか周辺国全てを敵に回しかねない。光の聖女が求めたからだという理由が、果たしてどこまで通用するだろうか。


「旦那様、やっぱりいいです」

「何?」


 急に願いを撤回したセラフィーナを、ルクレツィオは訝しんだ。


「私が、元気になったら、自分で保護します。だから……それまでその子のことは、見逃していただけませんか」

「自分でって、どう保護するんだ?」


 セラフィーナは目を伏せる。


「どうすればいいかわかりませんが……どうにか考えます。アンドルフィに、ご迷惑はおかけしませんので」


 ルクレツィオは大きくため息を吐いて天井を仰いだ。どう考えても無理がある。セラフィーナ自身が保護されている立場なのだ。セラフィーナは聖女だから大事にされはするが、現状本人に自分で生活したり人を雇ったりする財力はない。仮に勉強して仕事や事業などを始めるとして、他人を保護できる力をつけるのにどれくらい時間がかかるのか。

 カルファーニア南西部の件は、フラヴィオにも報告してある。もし調査が入れば、それで闇属性の人物が見つけられる可能性がある。保護するならその前に動くか、ルクレツィオ自身が調査に名乗り出るのが確実だ。だが、フラヴィオには嘘の結果報告をしなければなるまい。


 ふと、セラフィーナの白昼夢に出てきたという、黒い目の人物の言葉が脳裏を過ぎる。破滅の魔女かもしれない人物に、なぜ「とてもお節介」などと評されてしまっているのか。


 ルクレツィオは覚悟を決めて口を開いた。


「わかった。俺が保護しよう。約束する」

「……いいんですか?」

「ああ。光の聖女の望みなら、叶えるべきだろう。他人にバレて何か言われても、それで押し通す」

「ありがとうございます」


 セラフィーナが安堵の表情を浮かべた。

 ルクレツィオがテレーザとジルベルトへ視線を送ると、二人とも静かに頷いた。使用人にはとても恵まれていると思う。


「だが、どうやって探すかな。迂闊に他人を使うわけにはいかない」

「私が行けば分かります。カルファーニアのあの場所を馬車で通った時、いるのが分かったんです。だから、近くに行けば確実に分かります」


 自信たっぷりにセラフィーナが言い切る。それなら確実かもしれないが、セラフィーナが行くには問題もある。


「君が行くなら、少なくとも体調が回復して、医者の許可が降りてからだ。それと、フラヴィオに行動を報告する必要がある」

「駄目ですか」


 眉を下げるセラフィーナに、ルクレツィオは首を横に振る。


「駄目ではない。フラヴィオには何か上手い言い訳を考える。だが、君の体調回復は絶対条件だ」

「分かりました」


 セラフィーナが嬉しそうに頷いた。こんな表情は初めて見たかもしれない。


「ジル、夕食後に少し作戦会議だ」

「かしこまりました」

「では、また決まったら報告しよう」


 セラフィーナにそう伝えてソファーを立ちあがろうとすると、慌てた様子で止められた。


「待ってください」

「どうした?」

「ジルベルトの呪いも見たいです」

「えっ」


 そういえばどちらも見たいと言っていた。ジルベルトが珍しく思わずといった調子で声を上げていたが、ルクレツィオが頷くと、すんとすまし顔になってセラフィーナの傍らに膝をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。