14. どう聞くべきかな
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「メイドを変えた方がいいという話が出ている?」
帰宅後執務室にて、つい先ほどテレーザから聞いた言葉を、ルクレツィオはそのまま反復した。
「はい」
「どういう内容だ?」
「午前中担当しているメイドが、奥様の世話を怠けているようだという報告がありました。ですが、そのメイドは元々フィッツァロッティ邸で働いていて、紹介で来た人です。事実だった場合でも、私の勝手で判断できません」
テレーザは家政婦長だ。基本的にメイドの雇用権限は家政婦長にある。だが、格上の家から紹介された人員の場合は、少々扱いがややこしい。
セラフィーナをアンドルフィ家に迎えるにあたり、人手を増やすために、ルクレツィオの実家であるフィッツァロッティに相談した。対象のメイドは、その伝手で雇われた人員のようだ。
「事実確認はまだなんだな?」
「はい。私も先ほど聞いたばかりですので、先にご報告をと。件のメイドは通いで午前中のみ来ていますので、本人への聴取は明日になります。奥様については、少し慎重に聴取なり報告なりした方が良いかと思います。こちらの質問には概ね答えてくださいますが、メイドの雇用に関わってくるとなると遠慮してしまうかもしれまんせんので」
「報告者は誰だ?」
セラフィーナがそういう報告はしなさそうだ、と思いながらルクレツィオは尋ねる。これも先入観だろうか。
通常、メイドの問題は当主夫人の管轄だ。しかし、アンドルフィ家ではセラフィーナに当主夫人としての働きを求めないという契約になっているため、ルクレツィオが対処する必要がある。
「昼食後からお茶の時間まで担当しているメイドです」
「母さん、そのメイドの言う事はあまり信じない方がいいかも……あっ、申し訳ございません!」
テオドロが話に割り込んできたが、眉を顰めたジルベルトに気が付いて謝罪を口にする。
「テオ、何か知っているのか?」
「その時間帯に、奥様用の新しい荷物が届いたのでお部屋へ運んだんですけど、なんか変な雰囲気だったんです」
テオドロは魔法学院が休みの日に、アンドルフィ家で小間使いのような事をしている。おそらく一番フットワーク軽く邸内を動き回っていて、たまにこうして他の使用人たちの様子を報告してくることがある。
「変な雰囲気?」
「何か話しているのを聞いたとかじゃないので、勘なんですけど……多分、そのメイドが何か奥様を困らせてるんじゃないかって、後で兄さんに相談しようと思ってて……ました」
「テオが相談する前に向こうからやってきたのか」
「そうです。それに、なんか違和感あるんです。何かなあ……」
考え込んでしまったテオドロを一旦放置して、テレーザと話を進めることにする。
「とりあえず、その二人のメイドの名前を教えてくれ」
「午前中担当がイルヴァ、昼食後からの担当がリータです」
「テレーザから見て、二人はどんな人物だ?」
「イルヴァは、私の目には、物静かですがしっかりとした働き者に見えます。怠けるようにはとても見えません。リータの方は、手際が良くて、仕事に意欲もあるように見えます。それと、面倒見も良いみたいです」
「あっ、そうだ! なんか変に距離が近かったんだ! ……あわわ、すみませ」
再び話を遮ったテオドロが、こめかみに青筋を浮かべた兄を見て慌てふためく。このバリーニ家の次男は、世間から恐れられている主人よりも、自分の兄を恐れている。貴族に仕える者としては良くないのだが、この兄弟のやり取りには適度に毒気を抜かれて助けられている部分もあるので、ルクレツィオはあまり強く咎められない。幼少期から見ている末っ子を、甘やかしてしまっている自覚は一応ある。
一瞬下を向いて吹き出すのを堪えてから、ルクレツィオはテオドロに声をかけた。
「テオはもう少し落ち着いた方がいいな」
「ハイ……」
「それで、距離が近いというのは?」
「そのまんまです。やたらと奥様の近くにいるような気がしました。……でも、あれ? お世話するんだから近くにいて当たり前なのかな……」
テオドロは少し自信無さ気になってきたが、彼の違和感は侮れない。室内に揃っているバリーニ家の面々に視線を巡らせる。
「どう思う?」
ルクレツィオの問いかけに、一番静かに見守っていたアロルドが、まず口を開いた。
「そもそも、リータというメイドはどうして他の人が怠けていると考えたのでしょうか。担当時間帯が違うので、お互いの仕事ぶりは見られないはずです」
「それは、奥様から聞いた、と」
「あの奥様がそんな事言いますかねえ」
テレーザの言葉に、ジルベルトが首を傾げる。
「でも、嘘を吐くような人ではないと思うんです。そういう人なら最初から奥様には近付けません」
「母さん、それ、実際どういう言い方してた?」
「言い方の問題なのか?」
「『奥様がそう言ってた』って言い方なら、本当に奥様がそう言ったか、そうでないならそのリータってメイドが嘘をついてるってことになります。でもそういう直接の嘘って、確認したらすぐバレるから、よほど頭が悪くないと言わないですよね。別の言い方だったなら、奥様の言った事そのままじゃなくて、そのメイドが解釈した内容を報告していると思います」
テオドロのテレーザへの質問にルクレツィオが突っ込むと、意外としっかりとした答えが返ってくる。
「それなら、本人が嘘をついているつもりが無くても、本当の事を言っているとは限らないですね」
ジルベルトが感心したように言うと、テオドロは少し得意気な顔になった。
「どうだ? テレーザ」
「……『奥様が言っていた』とは言ってませんでした。『奥様から他のメイドの話を聞いたら、イルヴァがお世話を怠けているように思ったので、他の人に変えた方がいいのでは』と」
テレーザは、思い出すような仕草をして、聞いた話をそのままなぞるように答えた。
「なるほど。リータが報告してきた内容は『彼女の解釈』か」
「申し訳ございません。ちゃんと話を聞いてちゃんと報告しているつもりでしたが、全然正確ではありませんでしたね」
テレーザが、深々と頭を下げる。
「ちゃんと聞いていたから、正確な内容を思い出せたんだろう。今回みたいなことはあまりないと思う」
「いえ、今後は気を付けます。人についてもちゃんと見ているつもりでしたが、まだまだです」
テレーザは頭を上げると、気合を入れるようにシャンと背筋を伸ばした。
「ではまとめると、『奥様はリータに他の使用人の話をした』『リータはイルヴァが怠けていると解釈した』『リータは奥様を困らせている可能性がある』『イルヴァの聴取は明日』、ですね。奥様にはこれから旦那様が聴取いたしますよね?」
アロルドが、話の内容を簡潔にまとめる。メイドを入れ替えるかなどの対応については、最短でセラフィーナの聴取の後に方針を決める事になる。
「ああ、いつも通り夕食前に顔を見に行くついでに聴取する。だが、どう聞くべきかな……」
リータと話した内容をそのまま聞くのは、尋問のようで気が引ける。だが、「困っている事はないか」という聞き方をしたところで、答えが返ってくるだろうか。
本日、カシラギと話してきた件については、完全に後回しとなった。




