12. 帰ったら聞いてみるか
「話がやたらと長くなったので二話に分ける」実績を解除しました。
翌日、カシラギへ面談を打診すると、「いつでも」と即座にに返答があった。
カシラギは普段、城の敷地内にある軍用施設の医療棟に詰めている。ルクレツィオがジルベルトを伴って会いに行くと、機嫌良さそうに迎えられた。ジルベルトが早速約束していた測定記録を渡すと、さらに上機嫌になった。
「ありがとうございます。そうそう、前にいただいた記録で、ちょっと面白い発見があったのですよ」
「ほう」
「恵みの力を浴びた後、皆体温と魔力の強さの上昇が見られるのですが、ジルベルト君だけ上昇値がごく僅かなんです。まあ、魔力に関してはジルベルト君も測定器を振り切ってしまうので、正確にはわからないですが」
カシラギとルクレツィオが顔を向けると、ジルベルトは首を傾げた。
「一応、私の魔力を測れる方に見てもらったのですが、『元がわからないから比較できない』と言われまして」
その点については、以前カシラギに渡した記録書類にも、注釈として書き込んである。
「王都に着いた日に、『少し下がった気がする』とのことでした。ただ、その方は城から派遣された方でしたので、本日追加でお渡しした分の私の記録は、弟に測ってもらっています。弟は『全然変化がわからない』としか言ってくれません」
「なるほど……おや、あなたはまだ恵みの力の影響が続いているように感じられるんですね」
カシラギが、先ほど渡した資料を捲っていた手を止め、丸いメガネの位置を直す。
「はい。他の方は王都に着いた辺りで効果が切れたように感じたと聞いて驚きました。自分はその時点ではまだまだ持続しそうだと感じていたので」
「追加でいただいた分の記録でも、他の方は数値が下がった後変化が無いですね。実は城から出した護衛兵士たちも記録を取ったのですが、結果はこれと同じです」
資料を確認しながら話すカシラギに、ジルベルトはしっかり主張を返す。
「主観だと言われたらそれまでなのですが、魔力の回復効果が続いているのは間違いないです。鍛錬で攻撃魔法を使っても、すぐに魔力が満杯まで回復します。自然回復ではありえない速度です」
魔力の回復効果は、恵みの力の影響の中でもわかりやすい変化だった。通常、攻撃魔法で消費した魔力は、自然回復では最低一晩休まないと全快しない。早めに回復したい際は、ネロッカなどの回復効果がある食品を摂取するのだ。
「実に興味深い。恵みの力の効果が切れた者たちは、切れた後少々倦怠感などがあったようですが、それも無いんですよね?」
「今のところ全くありません」
「ふむ……魔力の強さとは関係無さそうですね。他の者たちは魔力値がバラバラですが、上昇値の差は誤差の範囲内ですし、魔力値の差との相関は見られません。ジルベルト君だけが、効果の出方が違うみたいですね。そういう特殊能力でしょうか」
手元の資料を見つめたまま、カシラギが考え込む。特殊能力持ちの人間はそんなにいないが、本人が気付いていないケースもある。
ルクレツィオは黙って二人のやりとりを聞いていたが、ふと、似たような話を思い出した。
「そういえば、『恵みの祈り』の作用が他とは違うと思われる土地もあったな」
「何ですかそれ?」
カシラギが、バッと顔を上げた。
「殿下に提出した報告書には書いたんだが、カルファーニア南西部に、恵みの力が降り注いだ後の様子が他の土地とは違う場所がある。まだ調査は何もしていない」
「未調査ですか。他に何も情報はないんですか?」
「そうだな……妻が、その土地を気にしているらしい」
「それは、聖女には違いが分かっているかもしれない、ということでしょうか……?」
カシラギとルクレツィオは再びジルベルトに顔を向ける。
「ジル、お前に対する彼女の態度などで、何か変わったことはあったか?」
ルクレツィオはまだあまりセラフィーナの顔を直視できないので、表情の細かな変化には気づきにくい。ジルベルトは、ルクレツィオに対するセラフィーナの反応をよく伝えてくれるが、本人への反応は確認したことがなかった。
「言われてみれば……お会いした時、不思議そうな顔をされている気がします。気のせいかもしれませんが」
「帰ったら聞いてみるか」
セラフィーナは、自分から考えていることを話すことがあまり無い。だが、尋ねたことにはちゃんと応えが返ってくる。何かあるなら、直接聞けば分かるかもしれない。
「アンドルフィ夫人にお尋ねした結果はお聞かせいただけますか?」
「そうだな……彼女の許可があればな」
自分のことでは無いので、ルクレツィオは慎重な答えを返す。それでもカシラギは満足そうに頷いた。
「ではジルベルト君、この後は体温と魔力値の記録はいいので、魔力の回復速度の変化を、効果が切れたと感じられるまで記録していただくことは可能ですか?」
「鍛錬で日常的に攻撃魔法を使いますので可能です。ただ、完全に主観になりますが」
「もちろん主観で構いませんよ」
ジルベルトの懸念に、カシラギは笑顔で答えた。




