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機工技師 ─ルミナム・ストライド─  作者: ask


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7/9

「ブラント」

 じいちゃんも。

 レナさんも。

 何も言ってくれなかった。

 一言、そう一言でも否定してくれれば良かった。


「違う」

 

 ただそこには沈黙しか無くて。

 全部勘違いだって。

 嘘だって笑ってくれればよかったのに。

 重い沈黙が大きく横たわって座礁したの。


 何処をどう走ったかなんて覚えてない。

 息が切れるまで。呼吸が続くまで走り続けた。足がもつれて、ようやく駆けた先で腰を落とした。

 此処は——何処だろう。

 中央公園──昔、レナさんとよく遊びに来たっけ。

 当時の私のお気に入りだったブランコが、僅かに風に吹かれて鳴いていた。キイ。キイと鉄の錆びた音を響かせて。

 

「ねぇ……」

 誰に向けて語りかけているのだろう。

 いつからなの?

 私の知ってる二人が居なくなったのは──。


 

 その時だった。

 この感覚は覚えがあった。

 音もなく、気配など尚更だ。

 私の身体が理解した——。

 ただ突如として現れて、私の腕を奪った男。


 

「——やぁ、探したよ。ギルベルタ」


 

 全身の毛が逆立つのを感じた。

 恐怖。

 怒り。

 憤り。

 後悔。

 よぎった感情は数知れない。けれど最初に出てきたのは冷静すぎる程の言葉の刃。


「全部……貴方……貴方のせいでメチャクチャ」

 一歩ずつ。

 また一歩と拙い足取りで。

 右肩に、自然と視線が落ちた。

 

「私の腕だって……」


 そこにあるはずの腕は機械仕掛けのルミナムが鈍く光っている。

 喉が震えて、真っ直ぐに声が飛んでいかなくて。何もかもがもどかしい。


「……返してよ!!!()()()肉体機工補助(ルミナム)なんて要らない!!!お願い……!!返してよ……!」


「——ギルベルタ」


「……君は知らなくちゃいけない。ご両親の事を。()()()()()の事も、ね」


「……私にとっての両親はジルじいちゃんとレナさんだけ……記憶の外の覚えてない人の事なんて知らない……」

 唇を噛む。

「本当の両親が居たとして——どうして私を迎えにこないの……?実の娘が片腕を失って……貴方一体……何者なの……よ……」


 

「……僕は敵になりたい訳じゃないんだ」


 

「僕の事は——ブラントで構わない。君の——いや。僕は君に選択して欲しいんだ」


「……選択?」

 

「全てを知っても尚、この肉体機工補助(ルミナム)を人のために使うのか——それとも、同じ結末を辿るのか……」


 ブラントは腰に刺している機械仕掛けの細剣を音もなく抜くと、その鋒で空に文字をなぞる様に、何もないその空を切りつけた。

 ——シャリン。夜気を裂くような、澄んだ金属音。細剣は月明かりを受けて白く輝き、その刃先がゆっくりと宙をなぞる。斬ったのは空気だけ。


 それなのに。


 刃が通った軌跡だけが淡く蒼白く発光し、一文字ずつ、まるで誰かが夜空へ文字を書き記していくように龍脈の光が浮かび上がる。


技術ルミナムは可能性そのものなんだ」


 ブラントは夜空を見上げたまま呟く。


「魔工」


「龍工」


 ——もう一文字。


「そして、機工」


 

 三本の光の線が夜空でゆっくりと交わる。


 

「どれも人が積み上げてきた叡智だ」

 彼は笑っているのだろうか。嬉しそうでもない。悲しそうでもない。ただ、それが当たり前の結末だと言わんばかりに。


「人は、必ず間違えるんだ」


 光が弾ける。

 夜空へ描かれていた文字は、細かな光の粒となって静かに消えていく。


「だから——君に興味がある」


 細剣を鞘へ納める音だけが、公園に静かに響いた。


「君なら……その結末を変えられるのかもしれない」


 腰の得物からゆっくりとその指先を外して被りを振った。

 

「……知を得て、血を以って、地に還す——。また……然るべき時に然るべき場所で会おう。()()()()()様」


 ブラントは一歩後ろへ下がった。

 風が吹き、フードの裾が揺れると、舞い上がった銀色の粒子を残して見知った空に消えていった。


▼△


「……ル!」


「ギル!起きて……!」


 肩を揺さぶられて目を覚ました。腫れた重たい瞼を開くと、昼間ギルドで再会を果たした彼女がそこに居た。


「アド……ネア」


「もう……ギル!起きてって!」


 起きてどうするのか。これからどうすれば良いのかが分からない。

 私の行き場のない気持ちに呼応する様に瞼が重たい。

 ずっと目を——閉じていたいと。


「ギル!しっかりして!アンタの力が必要なのよ……!!」


「え……?」


「周りを良く見て!!」


 この時間はすでに月が上り、青く黒く深く、静かに夜を越える筈なのに。夕暮れの様に、炎が上がっている。

 目の前にあったはずの見知ったブランコが、その錆びついた鉄ごと高熱で赤く燃え上がっている。


「え……」


「リドウの残党達が攻めてきたの……!!ギル!」


 

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