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機工技師 ─ルミナム・ストライド─  作者: ask


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「黒いフードの男」

「二人は先に出てて——私はちょっと用事を済ませてからいくから」


「ギルちゃん待ってるわね」

「おうギルベルタ、あんまり待たせんじゃねえぞ」


 私たちは三人で建国祭を見て回るため、店を閉めて街へ繰り出している。ここ数週間は二人に心配をかけまいと、フードの男の情報は追っていない。いや、正確には情報がない。全くと言って良いほど掴めなかったのだ。最後に見たのは、私の左腕が無くなったあの日——。

 リドウから技術交流って名目で、龍脈獣が放たれて——。あれ?そう言えばあの時ドッドさんって娘の誕生日にって。

 失念していた。あれからドッドさんは一度もうちの店に来ていない。肉体機工補助(ルミナム)はそんな長期間、技師のメンテナンス無しに動く代物じゃない。それに、娘の誕生日って言ってた。ドッドさんの家族なら何か知って——。いやそもそも彼のことを知らなすぎる。ドッドさんは私が苦手なタイプの男の人だった。いつも自分の知ってる事を私が知らないと知るや得意げに鼻を鳴らして話すあの感じが酷く嫌だった。だけど、ドッドさんは狩人として生計を建ててたんならギルドに行けば何か分かるかもしれない。


「ギルドか……暫くいってないな」


 世界中の無法者たちを「冒険者」という名の下に囲い統一する組織、ギルド。あまり好きではない。大体の人たちが、横柄で、大体の人達が傲慢で——。いや考えるのをよそう。


「受付にいたアドネアはまだ働いてるのかな……」


 私が腕を無くす少し前のことだ。

 護身の術なども含めて、ジルのじいちゃんから紹介してもらった冒険者に手引きしてもらった事がある。常日頃、生きるか死ぬかのやりとりをしているのだ。やはり危機管理意識は一般人のそれとは違う。機工士の見習いが護身術に体術を覚えたい、しかも女って事で当時は難儀だったのを思い出す。

 女というだけで、教えるのを拒否したり体目的だったり、思い出すと忘れかけていた嫌な記憶が蘇ってくる。

 そんな欲望に正直な冒険者達の中でアドネアだけは私に偏見を持たずに、戦う術を教えてくれた。

 同じ女同士、通じるものがあったのかもしれない。だが、私が人と連絡を取り合うという事に酷く慣れていないせいもあってか疎遠になってしまった。というより私が連絡しなかったという方が正しい。久々に顔を合わせたらなんと言われる事かと、内心恐ろしくはある。そんなことを考えながら歩いていると目的のギルドに辿り着いた。

 

 クラス・ハーシェ・ギルド。

 クラスによって冒険者ギルドの位が決まっているらしい。ハーシェは等級が一番高いとかなんとか。扉を開けると、まぁ見慣れた野蛮人共がたくさん溢れかえっており、活気と殺気が入り乱れている混沌とした場所だ。

 存外嫌いではない。なんというか、何も考えずに済むくらい外的要因がうるさいのだ。

 

「すみません、受付のアドネアってまだ働いてる……のかな?」


「アドネアァ?嬢ちゃんそんな格好で何しに来たんだぁ!?此処はあんたみてえな機工士がくる様な場所じゃねえだろ」


「まぁ確かにそれはそうなんだけど……。じゃなくって。アドネア!働いてるのかなって!まだいるの!」


「おいおい!急に怒らないでくれ。アドネアなら奥のカウンターにいるぞ。あいつは今はギルドのサブマスターだ」


「——ありがと」


「どういたしましてっと……アンタその紀章——ジル・ストライドの」


「何?じいちゃんの事知ってるの?」


「いやいやこの都市にいて知らん方がおかしいだろう。ってなるとアンタ、片腕が義手の銀髪美女……ギルベルタってアンタかい」


「何その気持ち悪い人の当て方……今すぐやめて」


「おいおい!おっかねえ女だが顔が良いから許せるってもんよ!おれぁロッシって言うんだ!よろしくな!()()()()()


「ウィンクなんて出来ないなら辞めた方がいいよ、気持ち悪い」


 ()()()()()と馴れ馴れしく呼ぶこのロッシという男の不慣れなウィンクを一身に受けた不快感もあるが今は我慢だ。


「かぁー!!その塩対応聞いてた通りだよ!アンタ、ここじゃぁちょっとした有名人だからよ、気ぃつけや」


「はぁ……」


 私がちょっとした有名人ってどう言う事だろう。どうもジルのじいちゃんの手伝いをしながらだと世間から隔離されていると言うか。外部の情報が入ってこなさすぎるのだ。きっと色んな風評被害が広まってるに違いない。


「えっと奥のカウンター——。いたっ!アドネア!」


 アドネアは私の方を一瞬見るとすぐに気付いたのか笑顔でこっちにやってきてくれた。


「ギル!久しぶり!んもう、ぜんっぜん貴女ってば連絡くれないのよね!私もう友達辞められたのかと思ってた」


「ごめんなさい。本当にごめんね?あの……今日は頼み事があって」


「なぁに?また厄介な事どうせ持ってきたんでしょ」


 アドネアはいつもこう言いながら嫌な顔一つせず話をしっかりと聞いてくれる。私を見放さない人達に共通している項目だということに気づくのは随分後の事だった。


「えっとね……その、私……去年腕……無くなっちゃって……それで」


「——ギル!その腕どうなってんの?マジ凄いんだけど」


 アドネアは特に神妙にもならず、軽快に興味津々と言った感じで身を乗り出してくる。


「いや、これはじいちゃんがさ……じゃなくて!私、この腕を奪った黒ずくめのコートを来た男探してるの。確か——名前はソルスティスって言ってて」

 


「え……?」


「えっと、ソルスティスって……」



 ——言いかけて私の口は彼女の手で勢いよく塞がれた。そのまま身を乗り出した彼女は私を連れて端の方へ駆けた。アドネアの表情は真剣そのものだった。


「——ちょっとちょっと!!ギル!……ソルスティスはヤバいって……!!」


「なんで……?そんな……有名な人なの?」


 本当にわからなかったのだ。だがそんな私を見て深いため息の後に彼女は続けた。


「——ソルスティスってアンタ大罪人の名前だよ……!ソルスティスっていうのは家名でね、ソルスティスを名乗ったって事はアンタの探し人ヤバいよ!!」


「いやごめん、アドネア……私知ってるでしょ。普段からじいちゃんの工房からほとんど出ないから……」


 私は珍しく気恥ずかしさに頬が赤くなったのを感じた。こんな姿滅多に人に見せる事はない自覚がある。その自覚ゆえに頬が本当に熱い。


「はぁ……ある意味ではジルさんの教育の賜物ね……。良い?ソルスティス家ってのは去年東の大国リドウをたった一人で滅ぼしちゃった人達の家名だよ……!!!アンタの探し人ヤバすぎるよ……!!!」


「え……ちょっと……えっ待って待ってどういう事?だってリドウは去年——」


「アンタ去年何してたわけ?一年の半分でも寝て過ごしてないと分からない訳……」


「……ごめん、多分寝てた」


 そう、私は意識を戻すのに半年以上かかったらしい。その間ずっとジルとレナさんに心労をかけ続けてしまった。深い後悔があった。


「————」


「この左腕を失って半年以上昏睡状態だったってじいちゃんが……。目覚めてから最近ようやく仕事にも復帰して……」


「そういう事……アンタ。大変だったんだね。良いわ。アンタが絶対に知らなきゃ行けない事があるわ、着いてきて」


 アドネアはそう言うと私の手を引いて、裏の事務室へと私を招いてくれた。私はもう連れて行かれるままに力無くアドネアの後を着いていくしかできなかった。



 

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