表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『感染済みの相棒を冷凍保存中の俺、今日も配信しながらゾンビゲートを攻略する』  作者: 小松菜ひより


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/3

第二話 冷凍された配信者

ゲートが崩壊した。


鉛の視界が白くほどけ、次の瞬間、足元の感覚が現実へと戻る。


冷たい空気。


かすかな風。


アスファルトの硬さ。


すべてが“元の世界”だった。


そこはゲート発生地点。


数年前に突発的に出現し、以降、人類社会に組み込まれてしまった異常領域の接触点。


ゲートというものは、日常のすぐ隣に発生する。

それが何なのか、正確に説明できる者は少ない。


帰還と同時に、境界処理が走る。


ゲート内部由来の汚染物質、感染性残留データ、血液・体液などの生体痕跡は現実側へは持ち出されない。


“帰還者”は清浄化された状態で出現する。


ただし損傷や疲労までは消えない。


鉛の身体も同じだ。


戦闘直後にも関わらず、外見上はすでに清潔な状態に戻っている。


それがこの世界の“帰還”だった。


周囲にはすでに他のハンターたちがいた。


装備を外す音。


通信ログを送る端末の操作音。


戦闘後特有の、落ち着かない静けさ。


「今回のC級、密度やばかったな」

「断頭ナターマンの動きえぐいだろ」

「O2いなかったら普通に事故ってた」


鉛はその間を抜ける。


誰も止めない。


『帰還確認。お疲れ』


通信端末からO2の声。


軽いが、戦闘ログはすでに解析済み。


『四腕型の最後の動き、読みズレてたら崩れてたな』


鉛は返事をしない。


ゲートという存在は数年前に発生した。


初期は制御不能だったが、現在はある程度の運用と解析が成立している。


内部に現れるのは、いわゆる“ゾンビ”に近い存在。


ただし厳密にはそれだけではない。


感染によって肉体構造と認識が崩れた結果の変異体であり、生と死の境界すら曖昧な存在。


その進行が進むことで、固定化された形態が生まれる。


四腕型もそのひとつだ。


四腕型変異種。


腕が四本に増殖し、骨格ごと再構成された個体。


それは途中変異ではない。


安定した結果としての分類名である。


人類はその領域へ侵入するようになった。


侵食阻止のため。


資源回収のため。


そして今では、映像として消費するために。


『なあ鉛』


O2の声。


『さっきのワイヤー、普通に完璧だったけど見てる側はヒヤるな』


「問題ない」


『その“問題ない”が一番信用できない』


ハンターたちは次々に移動していく。


報告、データ送信、装備確認。


それぞれが淡々と次へ移る。


鉛も歩く。


ゲート発生地点から都市へ戻る。


夜の光が現実の輪郭を取り戻していく。


『今回のクリップ伸びてるわ』


O2が軽く言う。


『俺の実況、また当たりだな』


鉛は何も言わない。


やがて住宅街。


外から見れば、高級住宅街に並ぶ一軒の豪邸。


だがこの家はただの住居ではない。


鉛とO2の拠点だった。


門を抜け、室内へ入る。


静かな空間の下に、低い機械音が流れている。


階段を降りる。


地下へ。


そこは別世界だった。


壁一面に並ぶ解析端末。


ゲート戦闘ログ。


変異体データベース。


武器設計用の作業台と加工機材。


O2が構築した戦術・開発複合工房。


ここは住居ではなく拠点。


戦闘と開発が直結した“現場”そのものだった。


中央には医療ポッド。


透明なカプセルの中で、大津見銀次――O2は目を閉じている。


動かない。


呼吸と心拍は外部装置に委ねられている。


彼が感染しているのは、ゲート技術がまだ未成熟だった初期研究段階での事故によるものだった。


当時は境界処理と情報遮断の技術が完成しておらず、ゲート由来の感染因子を完全に制御できなかった。


その結果として発生した感染進行。


現在では技術的には防止可能な領域に到達しているが、彼の状態はその“初期事故の残滓”として固定されている。


感染進行を抑えるための“冷凍処理状態”。


意識だけを外部ネットワークへ接続し続けることで、生存と戦闘支援を成立させている。


世間では彼はこう扱われている。


高性能戦術AI。


ゲート解析・戦闘支援システムの中枢。


だが実際は違う。


感染によって身体を停止させられた人間。


戦場そのものを設計する側の存在。


鉛が椅子に座る。


その瞬間だった。


『おかえりー』


スピーカーから声。


ポッドの銀次は動かない。


この声は戦闘中とは別系統。


生活用回線のO2だ。


『今回のクリップ普通に伸びてる。俺の実況勝ちだな』


鉛はポッドを見るだけ。


「銀次」


『ん?』


「お前、外から見るとAI扱いらしいぞ」


一瞬の間。


『それ言うなって』


O2は軽い。


だがその本質は、戦場のナビゲートと攻略設計にある。


ゲート内部構造の把握、敵性傾向の整理、そして鉛の武器や装備の設計。


戦闘そのものを成立させるための判断と構築を担っている。


だから鉛は戦える。


O2がいなければ成立しない局面が多い。


『まぁどうでもいいけどさ』


O2が続ける。


『次のゲートがいつ来るかは分からない。しっかり休んどきなよ』


鉛は短く息を吐き、鉈を机に置く。


地下拠点の端末群が、静かにログを更新し続けていた。


第二話 冷凍された配信者 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ