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『感染済みの相棒を冷凍保存中の俺、今日も配信しながらゾンビゲートを攻略する』  作者: 小松菜ひより


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第三話 戦う理由は再生数

鉛は鉈を軽く振る。


刃は問題なく動く。

高周波の振動も安定している。


振動音は一定のリズムを保ち、空気をわずかに震わせている。

刃先の出力も規定値内。過熱もなく、冷却バランスも正常。


実戦運用に支障はない。


O2製・高周波加熱式断頭鉈。

近接戦闘用に調整された実戦武器。


設計思想は単純で、余計な装飾はない。

ただ「切断」と「破壊」に特化している。


鉛はそれを一度だけ確認し、すぐに視線を外す。


余計な感情は挟まない。


「問題ない」


短い確認。


それで十分だった。


『おっけー、全部正常。いつも通り動いてる』


スピーカー越しに銀次の声が返る。


軽い。

だが、チェックの精度は高い。


大津見銀次(O2)。

医療ポッドの中に存在している。


元は生身の人間だったが、現在は感染進行抑制のため冷凍処理状態にある。

肉体は停止しているが、意識だけは維持されている。


そしてその意識は、この地下施設全体へ接続されている。


照明制御。

扉の開閉。

監視カメラの視点切替。

通信ログの補正。

武器の出力調整。

戦闘映像の記録・編集補助。


この施設の“神経系”そのものだ。


鉛は端末を一度だけ見て、視線を戻す。


「いつも通りだな」


『それが一番安定するやつ』


銀次は軽く返す。


壁面モニターには複数の映像が並んでいる。


ゲート攻略配信ランキング。

リアルタイム視聴者数。

トップランカーのタイムアタック更新。

迷惑系ゲート配信者の危険区域突入。

アイドル系チームの演出付き戦闘配信。


画面ごとに色が違い、演出も違う。


明るい照明で「魅せる」もの。

暗闇で恐怖を強調するもの。

編集でテンポを極端に早めるもの。

あえて遅延を入れて緊張感を作るもの。


だが共通しているのは一つ。


戦闘そのものは“戦い”として扱われていない。


映像として消費されるコンテンツだ。


評価基準は単純ではない。


速さ。

派手さ。

安全性。

再生数。

切り抜き生成率。

コメントの伸び方。


それらが複雑に絡み合って順位が決まる。


鉛はそれを見たまま、動きを止める。


「戦いじゃないな」


『うん、完全に見せ物だね』


銀次は軽く言う。


『速さで勝つやつ、派手さで勝つやつ、見せ方で勝つやつ。全部ルールが違う世界』


鉛は画面から目を外す。


「で、俺達は」


少しの間。


間は空白ではない。

銀次がデータを整理している時間だ。


『別枠』


「理由は」


銀次は軽いノリのまま続ける。


『鉛が異常なのは前提としてさ。卓越した戦闘技術とフィジカル、それに鉈とナイフの無骨な戦い方がまず普通じゃない』


施設の奥で冷却装置が小さく唸る。


銀次は続ける。


『普通なら、ああいう戦い方って映像映えしないんだよ。地味になるか、荒く見えるか、どっちか』


少しだけ間。


『でも鉛の場合は違う』


『動きが“無駄がない”を超えてる』


『全部が結果に直結してる感じで、見てる側が変な納得する』


施設のログ画面が切り替わる。


戦闘動作解析。


鉛の過去クリップが短く再生される。


ナイフの軌道。

鉈の振り抜き。

ワイヤーの張力。


一切のブレがない。


銀次の声が続く。


『そこに近未来的な装備とガジェット演出が乗ってる』


『カメラアングルも含めてな』


『普通なら“無骨さ”だけになるところを、“映像としての鋭さ”に変えてる』


少し間を置く。


銀次は軽く笑うように続ける。


『泥臭いのに、どこか未来的っていうかさ。そのズレがウケてる』


『ああいうの好きな層、普通に多いんだよ』


鉛は短く息を吐く。


「それは褒めてるのか」


『事実。あと、ちゃんと伸びる構造してる』


銀次は淡々と続ける。


再生数。

視聴維持率。

切り抜き生成の頻度。

拡散速度。


それらはすでに安定して高い。


銀次は単なる解説者ではない。


戦闘の設計そのものに関与している。


カメラ位置。

照明の角度。

動作の見せ場。

一瞬の“止め”の作り方。


それらすべてが裏側で組まれている。


鉛の戦闘は「記録される前提」で成立している。


整備が終わる。


施設の電力が切り替わる音が響く。


床下から低い駆動音が走る。


鉈の側面に赤いラインが走る。

高周波出力が安定していく。


出力カーブが滑らかに補正される。


鉛は軽く振る。


空気が裂ける。


「問題ない」


『戦闘時間に合わせてチューニングしてある。安心していいやつ』


「全部それだな」


『そういう役割だからね』


銀次は軽いままだが、処理は正確だ。


施設は静かだ。


戦闘前でも戦闘後でもない時間。


ただ「待機」が続いている。


この時間が一番長い。


壁面モニターの一部が切り替わる。


ゲート発生ログ。


全国マップ。


複数の赤い点。


その中の一つが拡大される。


銀次の声がわずかに変わる。


『……あれ』


軽さが一瞬だけ消える。


すぐ戻る。


『来たな』


警告音。


赤い表示。


《ゲート反応》


日本地図の一点が点滅する。


東京圏。


ランダム発生座標。


都市部。


詳細未確定。


だが位置は明確だ。


銀次の声。


『東京だ。新規発生』


間。


『近い。出動圏内』


鉛は鉈に手を伸ばす。


そこで止まる


第三話 戦う理由は再生数 終

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