第一話 断頭ナターマン
初めまして、または見つけてくださってありがとうございます。
配信文化×ゾンビ×ゲート探索を書きたくて始めました。
無口な主人公と、冷凍保存されながら配信してるうるさい相棒のバディものです。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
薄暗い通路を、青白い光が走った。
床、壁、天井。
蜘蛛の巣みたいに光のラインが広がり、立体マップを形成していく。
その中央を、一人の男が無言で駆け抜けていた。
黒い防護ジャケット。
腰にはナイフが二本。
左腕には巻き取られたワイヤー。
そして右手には、大型の鉈。
刀身の側面には、赤いラインが一本走っている。
耳元の通信機がノイズ混じりに弾けた。
『はいどーも視聴者のみんなー!! 本日も命懸けのゲート攻略配信へようこそー!! 現在地はC級ゲート“新宿地下隔離区画”でございまーす!! (^▽^)』
男――鉛は返事をしない。
ただ足を止めず、暗闇を進む。
配信画面にはコメントが流れていた。
「始まった」
「断頭ナターマンきた」
「O2うるせぇw」
「今回C級だろ?」
『いやいやC級って言っても油断すると普通に死ぬからね!? というか今左通路めっちゃ嫌な反応あるわ!! 鉛くん聞いてる!?』
鉛が初めて口を開く。
「数」
『十五。いや二十。……訂正、走ってる』
直後。
暗闇の奥から、湿った足音。
ぐちゃり。
ぐちゃり。
肉を引きずる音が近づいてくる。
青いスキャン光が通路を走り、歪な人影を浮かび上がらせた。
裂けた顎。
膨張した血管。
白濁した目。
感染者。
『うわぁ、今回の個体キモいなぁ!! 視聴者のみんな見えてる!? 絶対変異種いるってこれ!! (゜Д゜;)』
鉛は鉈を握り直す。
コメント欄が加速した。
「近い近い近い」
「後ろ!!」
「断頭ナターマン無言すぎる」
「O2との温度差すき」
感染者が曲がり角から雪崩れ込んできた。
鉛は無言でワイヤーを放つ。
細い鋼線が通路を横断した瞬間、先頭の感染者が勢いのまま突っ込み――首から上を置き去りにした。
血が霧のように散る。
後続が転倒し、積み重なる。
その山へ、鉛が真正面から飛び込んだ。
鉈が振られる。
肉。骨。血管。
一撃ごとに鈍い音が響いた。
『右二体!! 天井!!』
鉛がしゃがむ。
次の瞬間、天井から飛び降りた感染者が頭上を通過した。
鉛は片方のナイフを逆手に抜き、そのまま首へ突き立てる。
勢いのまま壁へ叩きつけた。
『ナイスゥー!! はい視聴者のみなさん拍手ー!! (^▽^)』
「うるさい」
『え!? 今の俺悪くなくない!?』
鉛は返事をしない。
血を払って鉈を構え直す。
通路奥。
まだ暗闇が蠢いていた。
『……ん?』
初めて、通信越しの声色が変わる。
ドローン映像が乱れた。
青いスキャンラインが、途中で“消えている”。
『なんだこれ……』
鉛が目を細める。
「変異種か」
『いや、違う。待って』
キーボード音。
画面端の顔文字が点滅する。
(・_・ )
『ゲート構造が記録とズレてる』
暗闇の奥から、
ゴリ……ッ
と何かを引きずる音。
コメント欄が騒ぎ始める。
「なんかいる」
「音やば」
「逃げろって」
青いスキャン光が通路を走った。
壁。
崩れた配管。
そして――錆びた鉄扉。
【新宿第七避難シェルター】
鉛がわずかに眉を動かす。
「シェルター?」
『……C級ゲートにこんなのあったか?』
次の瞬間。
ガンッ!!
扉が激しく揺れた。
「誰か!!」
女の声。
コメント欄が一気に流れる。
「人!?」
「NPC!?」
「喋った!?」
鉛が扉へ近づく。
向こう側から必死な声。
「お願い!!
まだ生きてる人がいるの!!」
ガンッ!!
再び衝撃音。
今度は複数。
鉛は静かにロックへ手をかける。
『待て待て待て!!』
大津見 銀次――O2の声が大きくなる。
(゜Д゜;)
『今マップ更新した!!
扉の向こう、最低三十反応!!』
「三十ならいける」
『そういう問題じゃ――』
ロック解除。
鉄扉が内側から吹き飛んだ。
感染者の群れが雪崩れ込む。
だが次の瞬間、通路に残っていたワイヤーが食い込み、先頭列をまとめて裂いた。
鉛はその隙へ踏み込む。
鉈を振る。
一撃。
また一撃。
黒い血が通路を染める。
その時。
天井から、巨大な影が落ちた。
凄まじい衝撃。
鉛の身体が壁へ叩きつけられる。
コメント欄が悲鳴で埋まる。
四本腕。
裂けた肋骨。
異様に長い首。
人間サイズを超えた異形が、低く喉を鳴らしていた。
『……変異種』
O2の声が掠れる。
『脳機能残ってるタイプだ。気をつけろ』
異形が、不自然に首を傾ける。
「……タス……ケ……」
一瞬、空気が止まった。
鉛の後ろから、小さな咳。
さっきの女だった。
肩を噛まれている。
黒い血管が首元まで侵食していた。
女は震える声で言う。
「お願い……
殺して……」
コメント欄が静まり返る。
鉛は数秒だけ黙る。
それから静かにナイフを抜いた。
異形が飛びかかる。
その瞬間。
鉛の親指が、鉈の柄にあるスイッチを押した。
――ブゥン。
低い駆動音。
刀身側面の赤いラインが点灯する。
次第に赤熱。
暗闇の中、鉈が溶鉱炉みたいな赤を放ち始めた。
コメント欄が爆発する。
「来た!!」
「灼断モード!!」
「熱鉈きたあああ!!」
「断頭ナターマンの本気」
O2の声が戻る。
『出た出た!!
O2特製・高周波加熱式断頭鉈ー!! (^▽^)』
異形が咆哮し、四本腕を振り下ろす。
鉛は真正面から踏み込んだ。
ワイヤーを引く。
異形の脚が絡まり、巨体が僅かに崩れる。
その瞬間。
赤熱した鉈が、暗闇を裂いた。
一閃。
焼ける音。
異形の首が、赤い軌跡を残しながら宙を舞う。
断面が熱で焼き潰され、黒煙が立ち昇った。
数秒遅れて、巨体が崩れ落ちる。
静寂。
赤熱していた鉈の光が、ゆっくり冷えていく。
女は涙を流しながら笑っていた。
「……ありがとう」
鉛は何も言わない。
ただ、静かにナイフを構える。
映像が一瞬だけ暗転した。
数秒後。
画面が戻る。
女の姿は、もう映っていなかった。
『……帰るぞ』
O2の声が妙に静かだった。
鉛は血を払って歩き出す。
その途中。
通路の壁に、剥がれかけた診察券が落ちているのが見えた。
鉛はそれを拾う。
そこに書かれていた病院名を見て、わずかに目を細めた。
「……おい」
『ん? (^▽^)』
「この病院」
少しだけ沈黙。
『……よくある名前だろ』
鉛は何も言わない。
ただ診察券をポケットへ入れ、そのまま暗闇の出口へ歩いていく。
配信画面が、帰還演出へ切り替わる。
黒背景。
赤い文字。
《GATE CLEAR》
《攻略ゲート》
【C級ゲート:新宿地下隔離区画】
《討伐対象》
・変異種《四腕型》
《配信クリップ登録数》
327件
《同時接続》
482,113
《攻略者》
断頭ナターマン
O2
最後に、チャット欄が流れる。
「おつナター」
「今回神回」
「O2生き延びろよ」
配信終了の文字。
その瞬間。
画面端の顔文字が一瞬だけ消えた。
......
数秒後。
いつもの表示に戻る。
(^▽^)
【第一話 END】
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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今後は、
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・ゲートの謎
・O2の感染
・“滅びた可能性世界”の真実
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