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回復がコンプラ違反だと追放された触手ヒーラー、もう働きたくないのに美少女パーティーから魔力をせがまれて全く休めない。  作者: うえき蜂


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上級魔法がワンパンすぎる

 ミューの必殺技はすごい。

 そこに何の文句もないけど、この世界の不文律と相性が悪かった。


「あたしの実力に戦慄した? おじさん、今謝るなら許してあげる」

「大の字に倒れた奴の言葉か? 偉そうなのは十分伝わるけど」


 ここがすごいよ、パストロール。

 個人の魔力量が少ないのに、スキルの特技はすこぶる燃費が悪いとこ。

 上級魔法と呼ばれる強アーツなんて、一発放てば即バタリ。


「もしや、ミュー。いつもこんな感じ? 一仕事済ませてはいおしまい? 残業しない点は羨ましいな」

「あたしは本来、強敵専門なの! どんなモンスターも一コロよ」

「現状、道端の石ころよ」

「あんたは突っ立ってただけじゃないっ。クリスが推薦する魔力回復がどれほどのものか、お手並み拝見ね」


 シャーッと威嚇するくらいの元気はまだあった。これが若さか。


「あなたとヤマトさんのアレ。相性がいいはず。最初は結構すごい……まあ大丈夫よ」

「クリぴ、もったい付けるじゃん! ヤマちょのハードル爆上がりだし」


 クリスとフィリアが背後で騒いでいた。


「ヒーラーが普通に回復するだけだぞ。一般的な医療行為」

「普通の定義を勉強してほしいものね」

「おじさん、ぐだぐだ駄弁ってないで始めてちょうだい。とっても疲れてるんだけど」


 注文が多いお客様だ。ここは料理店じゃないぞ。

 俺は普段通り、十本の触手を伸ばした。

 ぬるぬる。

 すごく大きなものが現れたと、驚愕するロリ。


「は? うそでしょ? まさか、そのおぞましいものをあたしに――っ!」

「魔力分与。食べ盛りだろ、おかわりは自由だぜ?」


 魔女っ子の小さなお口へ、白い粘液が以下省略。

 じゅるっ! びゅるっ!


「ふにゃぁぁあああーーっっ!?」


 ミューがゴックンする度、淡い光に包まれていく。


「横から見ると、すごい光景ね……わたしも同じ目に合わされたわけ」

「人聞き悪いなあ。別に、ポーション飲むのと一緒だろ」

「違うからっ」


 クリスにじろりと睨まれた。


「まんま触手ヒーラーじゃん! ガチじゃん」

「ガチなんだよなあ。可及的速やかにスキル変更したい」

「とりま、マナを分解して、イドへ変換? 即効性ハンパねぇー」


 フィオナは軽言のわりに、ミューをじっと観察していた。


「エルフは魔力の操作に長けた種族だから、興味深いんでしょう」

「ギャル研究者。あると思います」


 むくりと。

 ミューは起き上がり、口をゴシゴシ拭った。


「……魔力が漲ってるじゃない。あたし、今日はまだぶっ放せるんだけど」

「それは良かったな。毎日エリクサーがぶ飲みなんて太るし、サイフは軽くなる」

「おじさん、一体何者よ? ただの中年じゃないのは認めてあげる」

「ただの青年さ」


 鼻で笑うな。


「冗談は顔と性格と能力だけにして」

「全否定やめろ。単純に回復特化のスキル。その代償に気持ち悪いとハラスメント扱いされるカルマを背負わなきゃならん」


「マッサージは……気持ち、悪くなかったわ」

「それ以外はどうなんだい」

「あはは」


 ちゃんとフォローして。

 おじさんが若い女子にセクハラしたと言うのかね? 人生に迷える子羊ぞっ。


「歓喜に咽びなさい! あたしの家来にしてあげる。下僕と使い魔も兼任ね」

「謹んで辞退します」

「上級魔法の撃ち放題っ! 最強の魔法少女、火力こそ正義よ!」


 目をキラキラさせた魔女っ子。

 年相応の可愛げを披露されるや、一抹の申し訳なさ。


「言っておくが使用制限あり。一人につき一日三回まで。それ以上の回復は無駄撃ちさ」


 問答無用な最大火力連続ブッパ。

 無限魔法攻撃! 相手は死ぬ!

 俺もチートスキルで無双する転生者になりたかったぜ。


「ヤマトさんはパーティー向きだわ。絶対にソロは勿体ない。宝の持ち腐れよ」

「こいつが宝ねえ。宝の扱いを巡って内輪もめってか」


 財宝は人を狂わせるもんな、と自嘲した俺。

 美人に褒められて嬉しいのか、触手がにゅるりと小躍り。

 お前は悩みがなさそうで羨ましい。

 俺? 指先が気になるお年頃。


「ドンマイドンマイ。おかげで、あーしたちがヤマちょと組めるっしょ」

「触手はセクハラで、コンプラ違反らしいけど」

「それなっ。てか、全然問題なくね? ビジュより大事なもんがあるじゃん」


 フィオナはトンと胸を叩く。


「……おっぱい?」

「……ハートって意味でしょ。今のはセクハラね」

「ハッ、しまった! 引っかけ問題!?」


 熱い心? 滾る気持ち? 迸る魂?

 おっぱいはそれら全てを内包している。

 それだけの夢が、エネルギーが、あの近いようで遠い彼方に詰まっているのだ。


「あははは! ヤマちょ、鬼ウケるしっ」

「ふーん、性的嫌がらせ。ギルドの報告するべきかギリギリのラインだわ」

「こんなん、ビジンキョクだ! 俺は嵌められたんや!」


 美人局と書いて、つつもたせ。

 俺は国語の成績が悪かったので、もちろん読めないぞ。


「結局、多数決で賛成3反対1になったわ。これが民主主義ね」

「パストロールは中世主義じゃないのか……」


 封建制? ナーロッパは独自文化が根付いています。主に日本のRPG参照。

 俺は世界史の成績も悪かったので、もちろん説明できないぞ。

 ゆっくり深呼吸した後。


「何度も言ってるけど、俺は働きたくない。生活費がないゆえ、渋々活動中。パーティーノルマやゴールドランク到達を課されたら、大手を振って夜逃げする。よろしいか?」

「構わないわ。その時はわたしの任命責任――断罪よ」


 クリスは笑顔のまま、剣をまっすぐ向けた。


「……追放で勘弁してくれたあいつら。ありがとう」


 厳しさの中に優しさ、初めて実感しました。

 ちなみに、ブラック企業には、ないです。厳しさの中に酷さたっぷり。


「クリぴの照れ隠しはハードじゃん。ヤマちょも厄介な美女に目をつけられまくり。あーしは味方だぜい、身の安全があるうちは」

「一番の敵がここにいたか」


 敵の敵は、やっぱり敵。はっきり分かんだね。

 偽りの友好条約として、俺たちは固い握手を交わした。

 何食わぬ顔で美少女へ絡みたがる触手を手繰り寄せていると。


「あの一番騒がしいロリはどこ?」


 妙に静かだと思って、俺は周囲を見渡していく。

 遠目ながら、コケロックの密集地に白いドレスを纏った魔法少女。

 バットを天に掲げ、まるで予告ホームラン。


「あいつ、まかさ……っ!」

「天誅<ディバイン・パニッシャー>ッ!」


 四番バッターのフルスイングは落雷じみた閃光を走らせ。

 俺たちの場所まで、轟音と爆風を一瞬遅れて運んできた。


「魔力自慢の一流ウィザードでさえ躊躇する上級魔法の連続発動。貴重な秘薬を使用せず、それをいとも容易く再現……これがシナジー効果ね」

「かぁ~、シナジーパないって。ヤマちょ、次はあーしと躍るっしょ?」

「とりあえず、一発屋を回収してくる」


 削り取られた土くれの中、ミューは大の字に倒れ込んでいた。


「最強の攻撃を一日二回も撃てるなんて……っ! 最っ高の気分じゃない……っ!」

「一日二回も動けなくなるなんて、どんな気分だい?」

「うるさいわね、下僕。家来のくせに遅いのよ。ほら使い魔、魔力満タン。早くして」

「俺はガソリンスタンドかっ」


 せめて、呼び名を統一せい。

 手慣れたバイトよろしく、窓ガラスの代わりに汚れた顔を拭いてやる。


「ちょ、触らないでヘンタイッ! どんだけ美少女に悪戯したいわけ!?」

「あ、ロリコンじゃないんで大丈夫です。自分、子供は苦手っす」

「どういう意味よ!」


 キーキー周波数が高いと、頭痛が痛くなるんや。

 さりとて触手が魔法少女を嗜好するのは、仕様であり、お約束。


 ぬるり!

 いつもよりジェルが多めにドロドロしております。

 ゴゴゴゴゴ――


「何だ?」

「ヤマトさん! 撤退してっ」


 クリスの号令に、俺は状況を確認していく。

 突然、コケロックの群生地は恐怖の上級魔法で多大な損害が発生した運び。

 先方たちが怒り狂い、原因たる乱暴者を排除しようとするのは当然の帰結である。

 コケロックたちが一斉に起き上がり、宝石の瞳を赤く輝かせた。


「ミューが暴れたから、お客様が怒ってるぞ。いっぺん謝りなー」

「ふん、被害妄想甚だしい。ただのクレーマーね。あたしに倒されて光栄じゃないっ」

「自覚症状なし……これが本当のモンスタークレーマーか」

「ヤマちょ、ヤマちょ! 鬼ヤベぇから! ぶちかまされるし!?」


 俺は無駄なツッコミに労力を割かれ、魔力分与のタイミングを失ってしまう。


「ったく、魔法使いが前衛アタッカーかよ。俺は後方支援だっての」


 敵の正面でぶっ倒れて、あまつさえヒーラーを前に引っ張り出す。

 あれ、完全に利敵行為じゃね? パーティー連携とはこれ如何に?

 逃げることから決して逃げない覚悟な俺。

 猫のように嫌がる魔女っ子を無理やり抱え込み、全力逃走をキメた。


「ちょ、離しなさいよ。どこ触ってんのよ痴漢!」

「どこ触っても平べったくて分かんねーよ」

「あんですって!? 大体、あんたがすぐ回復――むぅ!」


 指示せず触手がねっとり、うるさいお口を黙らせる。

 ――言われる前にやっておけ。言われてないのに勝手にやるな。

 悲しいかな、ブラック会社では二律背反が両立するッ!

 ミューがビクンっと跳ねた。


「エリクサーは苦いのに。おじさんの、乳製品みたいな甘さでムカつく」

「ヨーグルト? いいえ、ケフィアです」


 俺たちの初めてのパーティー戦?

 チームワークなど皆無。わがまま幼女の独断専行。

 舐めプの果てに敵前逃亡。ドロップアイテム全てロスト。

 惨憺たる結果である。


 さりとて、俺は嫌な気分じゃなかった。

 働きたくないリビドーが未だ溢れているものの、異世界生活を楽しんでいた。

 チート無双で気持ち良くなれないけれど。


 触手がぬるぬるで気持ち悪いと言われたけれど。

 精神的に死んでいた現実より、毎日足取りが軽かったのだ。


「明日は何をやろうかな」


 俺はふと、独り言ちる。

 思わず、苦笑。

 んなもん、決まってるだろ。

 もちろん。


 目指せ、不労所得! 経済的ゆとり世代に、俺はなるッ!

 スローライフをするとて、元手が圧倒的に足りないんじゃあ!

 ついでに、<触手>スキル変更。


 願わくば、こんなネバネバ軟体生物と一刻も早くオサラバしてやるぜ。

 あ、痛っ。頬を叩くな、ねばねば飛ばすな! この粘液野郎め。

 ヤマトです……セルフローションプレイに興じた成人男性……ツラいとです。


 手始めに、お利口な触手を調教しようと思いました。

 こっちはプレイじゃないよ? 本当だったらっ。

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