一撃必殺
お互いのスキルを披露するため、町の南に広がる平原へ向かった。
ヤマトを仲間に加えるか否か、賛成2反対2。
よって決選プレゼンの運び。
本人が辞退の意向を示したものの、内定取り消されない。これブラックの特徴です。
「ヤマちょもレッツパーリィ? いいじゃんいいじゃん。一緒にアゲぇ~!」
「いや、アポイントメントの件でミーティング入っちゃってリスケしてほしい」
「あはは! 何喋ってんのか全然分かんねぇ~ウケるっ」
それはこっちのセリフだが。
「フィオナさんはノリ重視か。俺、キラキラサークルの雰囲気とか眩しくてつらたにえん」
「とりま、クリぴが男連れ込みたいとか激レアじゃん。あーしは二人を応援するぜ」
「誤解を招く言い方はよして。ちょっと気になるだけ。本人のモチベーションは呆れるけど、スキルの有用性と技量は大したものよ。しかもそれを変更したいだなんて勿体ないわ」
フィオナにうぇーいと絡まれたクリス。
慣れた手つきで結構雑に引きはがしていく。
「ただのくたびれたおじさんじゃない。その証拠に、目に生気がない。まるで死んだ魚っ」
「フッ」
俺は思わず噴き出した。
どすどすと先行していたミューが振り返る。
「何がおかしいのよ?」
「――笑止。社会を舐め切ったロリよ。いいか、幼女ちゃん。本当に死んだ目ってのはなあ――終電逃し三日“目”というものだよチミィ」
一周回って疲れを感じなくなったら本番。
全ての希望を置き去り、虚空の果てを俯瞰した刹那。
死の魔眼、解き放たれんっ!
「日が沈めばおねむな天才魔法少女に、この領域の話は理解できないかぁ~」
「ムカつくムカつくムカつく! この男を直接吹き飛ばして、あたしの実力を理解させてあげるんだからぁーっ!」
激おこロリータ、杖と呼ぶには先端部分が太くなった木の棒を振りかざし――
「ケンカしないの。ミューは淑女よね。ヤマトさんの思春期、いつ終わりますか?」
「「……はい」」
美人の年下上司に優しく注意されたい人生だったなあ。
心なしか、触手もねっとり頭を垂れていく。しまえしまえ。
「ミューっちとヤマちょ、もう仲良しじゃん。あーしも交ぜてもろて」
「犬と猿がキャッキャワワンする程度さ。ところで、フィオナさんはもしやエルフ?」
「そだよん。耳尖ってるっしょ」
「初めて見た。自分、感動した!」
今までファンタジー住人とは仕事で何度か交流した。
鍛冶屋のドワーフ。キャットピーポーのメイド喫茶。バードマンの飛行配達。
エルフは魔法学に精通して、街に住むほとんどの者が研究機関に所属しているらしい。
「あーし、ジメった密室に年中こもりっぱなしとか無理だから! 森の隠れ里で自然を愛でて、琴を奏でて、瞑想に耽った伝統的な生活? あぁぁああああああ、思い出すのもガチの退屈で死んだーっ!」
フィオナは頭を抱えて、あらぶっていた。
「彼女、一般的なエルフのイメージと違うわね」
「なんかギャルだし」
「家を飛び出したついでに王都観光した結果、文字通りカルチャーショックを受けたみたい」
「片田舎から上京した大学生じゃん。電車が五分で来る! 歩けば近くにコンビニが!」
うちの地元、バカでかいイオンあったから都会だし。
あれ、広大な敷地面積を確保できるのは田舎ってマ?
「人間の文化イケてんじゃん。感化されまくり的な!?」
中世風ナーロッパに平成ギャル爆誕とはこれ如何に?
転生者が文化を輸入したパターンでヨシ。
「ただのミーハーじゃない。年甲斐もなくはしゃいじゃって」
「ミューっち、冷笑系じゃん。せっかく映えマカロン取り寄せたのに、要らない感じ?」
「食べるに決まってるでしょ! ストロベリーは全部あたしのだからねっ」
そして、お子様である。
パーティーメンバーの性格に触れた頃合い。
俺たちは目的に到着した。
ピクニック日和な青い空。
開放感溢れる新緑の息吹。
レジャーシートを敷いてお弁当タイムかしら、と腹の虫が鳴き始めた。
「ここがコケロックの住処よ」
俺は、聞き覚えのある名前にピンと来た。
コケロック。
岩に寄生した苔が動き出したモンスター。
「人を襲わないから危険度低いけど、倒すのは面倒だったはず」
「正面横切っても日向ぼっこしてるものね。本体の苔を守るため、魔石や鉱石を食べてカラダを大きくしていくのが特徴よ」
「じゃあ倒せば一攫千金じゃん! あーしの金欠に救いの神舞い降りてね!?」
フィオナのテンションがアゲアゲパーリナイッ。
気持ちは分かる。
俺が前パーティーに加入前、今よりもっとビンボーな時。
ブロンズランクの攻略本に、ドロップアイテムの換金率が高いと載っていた。
ただし、駆け出し冒険者がコケロックを倒せればタラレバ。
「本当に硬いのよね、防御力が」
「斬撃耐性。打撃耐性。魔法耐性。とにかく頑丈十年保証。前衛アタッカーがこいつで熟練度稼ぎするって聞いたぞ」
「わたしは遠慮します。せっかく磨いてもらった剣を折られたくないもの」
嫌そうに肩をすくめたクリス。
「クリスは剣の腕は確かだけど、攻撃力が圧倒的に足りないじゃない。相手を一撃粉砕できる火力が今後の課題」
「加減を知らないのがあなたの課題だわ」
生意気幼女って萌えか? いまいち納得できへん。
教えてくれ、ロリコン。今答えたな? おまわりさん、こいつです。
「君が一番貧弱に見える。往々にして、魔女っ子なんて体力ないだろ」
「ふんっ、これだから素人は困るの。この素人中年」
「ちゅちゅちゅ中年ちゃうわ~っ」
思わずキョドっちゃったぜ。
俺に一瞥をくれたミューが杖のようなもの構える。
「おじさんに魔法で一番大事なものを教えてあげる」
キラッと変身。
黒いゴスロリから白いフリフリドレスへ衣装チェンジ。
さしづめ、マジカル☆ミューの爆誕。
魔法少女と言えば、確かに変身するよな。
ミューが何やら呪文を呟くや、空気の流れがビリビリと震えた。
高濃度のイドがマナへ急速気化していく。
現象特有のオゾン臭が鼻孔を刺激し、俺は顔をしかめる。
「ヤマちょ、離れるし。ミューっちの詠唱鬼はえ~から」
「お、おう」
腕を掴まれ、急いでこの場から後退すれば。
「力こそ、パワーッ! 全てを弾き、破き、砕き、不変を崩してみせよ」
ミューは杖――もといバットを振りかぶった。
「これがあたしのとっておき! 無属性最高威力の攻撃魔法っ! 天誅<ディバイン・パニッシャー>ッ!」
天に掲げし得物を標的に振り下ろす。
カキーンッ!
フルスイングがコケロックに衝突。
魔法少女を中心として。
光がキュッと収束したと思えば、土煙を巻き上げるほどの爆発を引き起こした。
衝撃音と突風に晒され、俺はいとも容易く吹き飛ばされてしまう。
「助けて~」
情けない声を上げた、成人男性。
触手がやれやれと肩をすくめるや、緩衝材の役目を果たした。
どこに肩があるかはさておき。しかしお前、受け身上手いな。柔道何段?
あとで軟体生物に黒帯を進呈しよう。
煙が徐々に晴れ、ミューの影が濃くなっていく。
辺りの地面は隕石が落下したかのように窪んでいた。
砕け散るコケロックだった岩石。様々な鉱石が散乱している。
「ふん、随分と呆気ないじゃない。この程度の脆さなの? 周辺モンスターで最も面倒な防御力なんて冗談でしょ。退屈させないでちょうだい」
天才魔女っ子はひどく退屈そうに佇んでいた。
「圧倒的破壊力だった。すげーよ、ミューは……」
「おじさんには刺激が強かったかしら? まあ、初老間近の悲鳴は愉快だったけど」
「一つ、言わせてくれ」
生意気ロリの挑発に乗らず、俺は相手の目をじっと見つめた。
「な、何よ? 言ってみなさいよ」
「魔法少女じゃねぇぇえええーーっっ!? 完全にホームラン打ってたぞ!」
魔法のステッキ? 断じて、木製バット。
魔力を上げて、物理で殴るな。
「はあ? あたしのスキル<マジプリ>は魔法の衣装を着飾るの。ホワイトデコレーションのドレスコーデに変身すると、無属性の上級魔法が撃てる。こんなの常識じゃない」
「魔法少女(物理)やめろ」
ニチアサの変身ヒロインだって、もっとプリティでキュアってるぞ。
「そういえば、ミューの変身はその姿しか見たことないわね」
「オキニってことじゃん。あーしも推しブランドはリピまくりだし」
「当然、魔法の価値は火力に決まってるじゃない。一撃必殺以外あり得ないっ」
「いや、その理屈はおかしい」
俺のツッコミを聞いてくれる人など皆無。
元気出せよと触手が肩を叩くだけ。
「レベルが上がってから、明確な意思を感じる。そのうち喋りそうだな」
俺の不安をよそに、軟体生物はうねっていた。




