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回復がコンプラ違反だと追放された触手ヒーラー、もう働きたくないのに美少女パーティーから魔力をせがまれて全く休めない。  作者: うえき蜂


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美少女パーティー

 魔力分与は貴重らしいので、一つ商売を思いついた。


「安いよ安いよ~、今ならヤマト印のエリクシールがなんと! 一本500ゴールド! これを飲めば、たちまちポンと元気や魔力が回復するよぉ~」

「一本くれっ」

「こっちは三本だ!」

「はい、ありがとねー」


 酒場の隅っこスペースを不法占拠して、看板とランチョンマットを敷けばエリクシール屋さん営業中。緑色のゼリーが光るビンが並んでいる。


「おいおい、こんなのホントに効くのか?」

「怪しいもんだぜ。まあ、ガサッツの野郎がケツ持ちらしい。奴の顔に泥を塗るアコギな商売、この町でふっかけねーだろ」

「でも、お高いんでしょ?」


 野次馬たちが遠巻きに噂している中。

 ふらっと立ち寄った、一見さん。


「このエリクシールって、エリクサーと何が違うん?」

「効果はほぼ同じ。商人の鑑定スキルで確認済み」

「エリクサーじゃん」

「その名前はさ、製薬の協同組合が商標権持ってるんだ。使うと、ロイヤリティ発生する」

「ろ、ろいやりてー?」

「利益から××%ぶんどられる。ふざけろッ」


 おっと失礼。つい本音が。


「こっちはジェネリック薬品。エリクシールは、プライベートブランドのアイテム」

「お、おう……よく分からんが、あんたが難しい言葉知ってるのは分かった」


 カタカナばかり連呼して、まるで意識高い系。労働意欲低い系です。


「試しに買ってみるか。エリクサーはダンジョン探索で大事なくせに、高すぎるよな」

「まいど、一本500ゴールド」

「安っ!? 大丈夫か、これ。本当に魔力回復するのか?」

「宣伝費用だ。エリクシールは後発商品で知名度なし。しばらくは儲け度外視で頑張ります」


 利益がないと言えば、嘘である。

 元手は触手だから。どうせ大して消費しない俺の魔力だ。リピーターが生まれた辺りで、安いと呼べるギリギリのラインを攻めよう。


 エリクサーは小売希望価格5000ゴールド。魔力が少し回復する。

 エリクシールは最低半額以下の予定。魔力がちょっと回復する。

 触手で魔力分与する時より効果半減。ぶっちゃけ気休め程度。

 しかし、駆け出し冒険者の消耗品として十分使える。


「クックック、このマーケット、ワテが貰いますさかい」


 心の関西人がそろばんを弾いた。


「ガハハ! おう、兄ちゃん。景気はどうだいええ?」

「ぼちぼちでんな。ガサッツの力添えあっての商いやで、おおきに」

「突然名前を貸してくれと言われた時は驚いたもんだわい」


 ガサッツは顎をさすりながら、近くに転がるイスを寄せた。


「俺みたいな流れ者にも面倒見の良い顔役だからな。はい、名義代」


 飲みの席で会ったら、エリクシールを一ダース提供する。

 なんとも豪快な契約だ。

 紙面上で約束を交わそうとしたものの、面倒だと断られた。


「ありがてえ。すぐバテる若い連中に、こいつがよく効くってもんだ。秘薬なんつー高価なもん、労働者には手が届かないってもんよガハハ!」

「先に作れる分だけ渡しておこうか。少し時間がかかるけど」

「おいおい、余計なお節介だぜそれは」

「ん?」


 ニヤリと笑みをこぼした、ガサッツ。


「兄ちゃんと大手を振って酒を飲む口実がなくなっちまうわい」

「仕事の付き合い、か。渋々毎日、酒場へ通わなくちゃいけないなあ」

「母ちゃんが怖えんだまた」


 ガサッツも家に帰れば、下っ端らしい。親方ぁ~。

 先にやってるぞと、手をクイッと傾けた偉丈夫。

 ノルマ達成したし、俺もうっすい葡萄酒としゃれ込もう。


「ヤマトさん」

「今日はもう店じまいだよ。出直しな」

「働きたくないと言ったわりに、すごく頑張ってるじゃない。エリクシール屋だっけ?」


「当たり前。不労所得は――一日にしてあらずっ! 耐え難き仕事を耐え~、忍び難き業務を忍び~、ただひたすらにごく潰しなニートを夢見るのみぞ~」

「明後日の方向って、あなたがいる場所って意味だったのね」


 クリスは頭痛が痛いのか、険しい表情を作っていく。


「もうそっちの線で事業拡大目指したらどう? 需要あるでしょ」

「ダメだ」


 ゼロコンマ一秒否定。


「確かに生活を賄える展望が見えた。否――エリクシールの大量製造さ、食品工場で刺身の上にタンポポ乗せてる気分。本職にした途端、意識飛ぶぜ?」


 商品より先に、俺の精神がベルトラインから流れる光景しか映らなかった。


「副業や、これはワイの副業なんや……っ!」

「わ、分かったわよ。その変な喋り方やめてくれるかしら? いつも以上に胡散臭いわよ」

「俺も似非関西弁キャラに限界を感じてたところ。で、怪しい薬売りに何か用?」


 クリスがビンを手に取り、興味深そうに覗いていた。

 一本、500ゴールドです。


「どちらかといえば、エリクシールよりあっちの方が気持ち……」

「あっち?」

「っ!? バカっ。マッサージの方に決まってるでしょ! 変な想像しないで」


 これがカスハラってやつか。クレーマー許すまじ。

 クリスはコホンと咳払い。


「わたしは整体院営業を希望します。あくまで腰痛対策よ。そのちょっと違和感があるようなないような。二日ぶりにお願いできる?」

「異世界カイロプラクティックで無双できるなら考えとく」

「あなた、時々全く聞いたことない言葉使うわね。不思議な人」

「遠い国出身なもんで。魔法のマの字さえ修めていない極東」


 科学のカの字が栄えてるけどね。


「それって」

「もぉおおおーーっ! 遅い遅い遅ぉーい! いつまであたしを待たせれば気が済むわけ!?」


 突如、駄々をこねるような声が響いた。

 白いヘッドドレスと黒いゴシック調のワンピース。

 銀髪ツインテール。

 背丈短め。

 その正体、ロリなりや。


「クリス! 例の話、まさかこのおじさん? 冗談はやめてちょうだい」

「俺は25歳。まだ青年だ。広辞苑にもそう載ってある」

「あたしは15歳の美少女よ。アラサーなんて、全員おじさんじゃない! この中年っ」

「ぐはっ」


 ピュアハートへクリティカルヒット。

 傷口が深い。

 だ、誰か、癒しを……あ、ヒーラー俺だったわ。

 状態異常・心の病に触手スキルは未だ無力なり。

 セラピー能力が開花していない己の未熟さに苛まれれば。


「ミュー、いきなり失礼よ。彼、年齢より見た目が大人びてるかもだけど」

「フッ、また見た目の話か。どうせ顔が悪いですよ」


 一瞬這い出した触手も、そうだそうだと頷くばかり。お前は俺の味方であれ。


「ヤマトさん。この子がミュー。わたしの冒険仲間よ」

「ふん、クリスがどうしてもって推薦するから顔を見に来てあげたのおじさん。感謝なさい、おじさん」


 生意気ロリに本気で怒るほど、俺は精神年齢低くないぜ。

 誰が気持ちもおっさんじゃぁぁあああーーっっ!


「ずいぶん若いな。学校はどうした学校は。サボりか? 補導されるぞ」

「あたしは天才魔法少女よ! 飛び級で卒業試験も論文も入学一年でパスしたわけ。もう行くだけ時間の無駄ね」


 ミューが自慢げに胸を張った。

 しかし、地平線が続いていた。

 異世界の学校ってどんな感じなん?


「いろいろあるわ。貴族の寄宿学校や魔法学院。あとはスキル育成が目的の専門校とか」

「ふーん。つまり、この幼女は口だけじゃないと」

「幼女ですって!? あたしは立派なレディよ!」


 魔女っ子は騒音魔法がお得意なようで、耳ギンギンですわ。


「クリスさん。この天才様は、俺がパーティーに入るなんて反対みたい」

「当然じゃないっ。どうせクリスかフィオナ目的の下世話野郎でしょ」


 フー、イズ、フィオナ?

 新キャラの謎は一旦横にスライドしておく。

 チャンス、キタコレ!


「信用してもらえねえなら仕方ないなあ。加入の件、辞退させていただく所存。今後ますますの発展とご活躍をお祈りしてください」

「ちょ、待っ」


 別に、パーティーへ入れてくれと一言も言ってない。

 これはラブコメかい? 俺はモテが目的だっけ?

 違う。これはもう働きたくない成人男性のセカンドストーリー。


 元社畜人が不労所得なる悲願へ手を伸ば……触手暴れるなっ!

 厄介事に巻き込まれるのは面倒。

 こんな場所にいられるか。俺は失礼させてもらうぜ。

 心中、フラグめいたセリフを呟いたちょうどその時。


「クリぴ、ミューっち。遅れちった。めんご」


 肩と太ももを晒したスタイルのギャルが現れた。

 ピンクとブルーのツートンカラーな編み込みヘアが爆盛りである。


「もう、フィオナはあいかわらず時間にルーズだわ。今度は何してたの?」

「ん~、タピってた。あーし、マジ本能に逆らえないじゃん?」


 新キャラがポシェットから取り出すは、かつて一世を風びしたシルエット。


「た、タピオカミルクティー!? 奴はもう廃れたはずでは?」


 ずずー。


「美味しっ」


 専門店がほぼ閉店。

 そうか、オワコンと呼ばれ、タピオカミルクティーも異世界転生するご時世か。

 微妙に境遇が重なるような気がしないまでもなく、ちょっぴりしんみりした俺。


「ヤマちょさぁ~、そんなに悲しそうな顔してどしたん? 話聞こっか?」

「や・ま・ちょ?」

「てか、初めましてじゃね? うぇ~い、あーしフィオナ! しくよろ~」


 恐ろしく速いリアクション……俺だから見逃しちゃうね……

 陰キャにリア充コミュ力お化けのノリはマジパないって。

 花丸スマイルでフィオナが両手を突き出した意図が分からず。

 沈黙の3秒間。


 気まずい暗雲が漂う寸前、救いの手が勝手に伸びていく。

 ぬるりと、指先を合わせるや。

 ――と・も・だ・ち。


「お前はETかっ!」


 ハイタッチできる陽気な触手であった。


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