魔力分与
「魔力回復ができる? あなた、それ本当?」
仰向けに倒れたまま、目を細めた女騎士。
「エリクサー売りつけたいわけ? でも残念、今のわたしはお財布がスッカラカンよ!」
「なぜ、自慢げ? いや、ヒーラーだって」
「ふうん、随分身軽そうな回復術師ね」
疑いの眼差しが剣先より鋭かった。
僧侶なら杖、薬師ならフラスコ。
冒険者はスキルに応じた格好で、職業を名乗ったりするからな。
その点、俺は普通の軽装。ほぼ村人。
わざわざ冒険者カードを提示して証明する気になれず、やはり立ち去ろうと気持ちが大きくなったタイミング。
「せっかくスキルレベルが上がったのに、新技試せないと気になってしょうがないっ。目前にちょうどいい対象がいる。お願い、絶対悪いようにしないから!」
「ちょっと、近い! まさか、弱った女性を襲うため」
「先っちょだけ、先っちょだけだからっ」
「どういう意味!?」
先方が、必死に回復営業をいそしむ俺に根負けした様子。
はぁ~、と大きなため息。
「熱意は本物みたい。助けてもらいます。ただし、変なことしたら分かってるわね?」
「大丈夫だ、問題ない」
俺は、女騎士の隣に膝をついた。
右手を構えると、ぬるぬると五本の触手が伸びた。
「――は?」
「えー、魔力分与のやり方は……」
美人がわなわなと震えていた。
「待ちなさい! どこがヒーラーよっ。あなた、やっぱり騙したのね!?」
「まごうことなきヒーラーさ、ただの触手ヒーラー」
「――は?」
粘液をまとった触手が袖から脇へ。さらに太ももへ巻き付いた。
「あ、あんっ、くすぐった」
いやいやと暴れた彼女の動きに合わせ、触手は腰の負担を支えるため絡みついてく。
「こんなことで、わたしは絶対に屈しないわ! 誰が卑劣な罠に負けるもんですかっ」
赤面交じりになぜか、睨まれた。
あぁ、これが予防接種で子供に大泣きされちゃう医者の気持ちか。
無免許医療従事者です。通してください。
「痛くないからねー」
小一の頃した注射、未だに許してないからな。
「変換する触手<コンバート・テンタクル>ッ!」
触手の先端が膨れ上がって、溶けたアイス状のジェルが女騎士の口内で弾ける。
じゅるっ! びゅるっ!
「お、おっ。おおぉぉォォオオオ――っ!」
びくんっ、びくん!
「どう、魔力分与の味は。能力把握のために回復量がどれくらいか教えて」
「はぁ……ハア……お、覚えてなさい、よぉ~」
ポニテがほどけた金髪がふわりと舞い、やがて悶えた美人の痙攣は収まっていく。薄紅の唇に残ったゼリーをぺろりと舐めた。
「……甘さ控えめ。飲みやすさがムカつく。ちゃんと回復してるし。ハッ」
寝坊した社会人くらい飛び起きた、女騎士。
抜刀。
俺の首元に、聖なる刃がキラリと光った。
「よくも恥をかかせてくれたわね」
「おおお落ち着けっ。別に、誰かに見られたとして問題ある?」
「わたし、辱められた――っ! 何よ、アレは。とんだ変態プレイじゃない」
「なにって、ただの医療行為だが?」
チャキンッ。
いよいよ危険が危なかった。
良かれと思って回復しただけなのにセクハラ扱い。
コンプラは人を罰するばかりで、困った時助けてくれないぞ。
今度は異世界から追放されそう。
「魔力回復なんて、ハイレベルの支援職が覚えるレアスキルのはず。あなた、何者よ」
「だから、一般触手ヒーラー。冒険者ランクシルバー。スキルレベル2」
「ちっとも一般じゃないっ」
ダメだ、弁解しても無駄っぽい。
聖騎士の誇りにかけて、不埒者を討伐する気満々。
セクハラモンスターは魔獣じゃないぜ。いや、冤罪だぞ。
「最後に言い残すことはあるかしら?」
仕方がない……
辞世の句、したためますか。
――不労所得、欲ちぃかったぁぁあああーーっっ!
「ちなみに、君ってさ。腰痛持ちだろ?」
「っ!? な、なぜそれを――や、違うに決まってるでしょ」
美人が真っ赤な顔で全力否定。
「触手スキルの基本、触診だ。隠すほどのことじゃ」
と言いかけて、俺はあぁと合点する。
「若い女子が腰痛ってバレたら、羞恥心に繋がるな。ごめん、悪かった」
「そっちの機微は理解できるのね。最初から配慮しないよ、ふん」
女騎士はようやく剣を下ろすや、そっぽを向いてしまった。
沈黙の間がキツい。
俺のコミュ力じゃ、女子と二人きりの場を切り抜けられない。誰か、救いの手を!
ぴくぴくと、勝手に這い回る奴がいた。
「もう気が散るんだけど」
指示せず触手が美人の腰を執拗に突っついた。
これは流石に事案かもしれない。お巡りさん、俺はやっていません。
「あー、整体もできるぞ。状態異常ケアの応用で、ドワーフ爺さんにも好評だった」
「……どうせ、やらしいこと目当てでしょ」
「こいつが美少女狙いは仕様であって、俺の意思じゃない」
こくりと首肯する触手。どこだよ、首。
「羽が生えたように腰が軽くなるマッサージ。初回無料。サービスにご不満なら、返金キャンペーン中」
通販みたいなセールス文句を列挙。はたして、どこへ向かっているんだ。
「日々の生活で凝り固まった疲れを癒しませんか?」
「クッ、ほぐせ……っ!」
美人の腰へねっとり張り付いた触手。
叩き、撫で、揉みほぐす。
指圧の巨匠から放たれし巧みな妙技。
血行促進。緊張緩和効果のゲルが神経の痛覚を優しく包み込む。
「効くぅぅうううウウウウ――ッッ!」
女騎士は満足そうに恍惚の笑みを浮かべ――果てた。
そして、完堕ちである。




